第三十五話 せいかつのための魔法
お盆の上にあれだけ置いてあった食べ物を、潤平一は人でほぼ平らげてしまった。
食べ終わった潤平は足を広げて、布団の上に座っている。
「ご馳走様でした。とても美味しかったですお腹いっぱいです」
「はい。潤平さんがとても美味しそうに食べていたと、総料理長に伝えておきます」
「あの黄色いぷるぷるとしたやつまた食べてみたいにゃー」
「それも伝えておきます」
潤平は満腹の隙間に飲み物を入れると、気になっていた事をスミレさんに聞く。
「……スミレさんって、食べるのが好きなんですか?」
「ええっ!?」
潤平の急な質問に、スミレは動揺して片付けていたお皿を落としそうになる。
だがそこはプロの使用人。皿を落とすこと無く見事に乗り切ってみせる。
しかしスミレの表情はほんのりと赤くなっている。
「いや、何かを食べる時物凄い美味しそうに食べるな~と思って。それに空腹に対して凄い執着を見せていましたし」
潤平は何気ない質問をしたつもりだが、スミレはちょっと慌てていて赤くなった顔を、少し隠す様に俯いている。そして髪の毛をしきりに手で触っている。
「……食べるのが好きとゆうか、食べるのが趣味とゆうか、そうですねはい。食事は大好きです」
ちょっと恥ずかしそうにスミレは呟いた。
「おお~。良いですねやっぱり食事は人生の一番大事な要素ですよね。うんうん、いっぱい食べるのは良い事だ」
「……引きませんか?」
「えっ? 引く? 何に対してですか?」
「女の子が沢山ご飯を食べる事に対してです……」
「? いや別に。誰だって美味しいものは腹一杯食べたいでしょう? それにご飯を食べてる人の幸せそうな顔を見ると、こっちも幸せになるでしょう? 後個人的には沢山食べる女性は良いと思いますし」
「! そうですか」
スミレが何かに気付いた様に表情を変えるが、潤平は特に気付く様子もない。
「この国では女性が沢山食べるのは、少し下品な行為とゆう風潮があるにゃ。別に女の人が沢山食べたって良いのににゃ。お腹が減るのは男女関係ないんだし、皆がご飯を食べられれば幸せになるにゃ」
「あ~、そうゆう感じか~」
潤平はピー男爵の言葉に難しそうな表情をする。
(この国独自の文化みたいなもんか。そりゃーちょっと根深い問題なのかもなー)
「まあ? この屋敷は先代の当主がそうゆう小さな事を気にしない人だったからにゃ。別にそんな風潮を気にする人はいないにゃ。それでも大一区画とかにはそうゆう風潮がまだ流れていたりするにゃ」
「ふーん。まあ俺は気にしてないからどうでもいいけどね。」
「……私がこの屋敷に来るときにタマヨ様から言われました。この屋敷で働く以上、衣食住の心配はさせないからしっかりと働いてくれと。私はその言葉を胸に屋敷で頑張っても働いています」
「この家の家訓みたいになってるもんにゃー」
「はい。ですが最近食い過ぎているのか服が小さくて、着づらくなってきたので食事の量を減らそうかと思っています」
「それは成長期だからにゃ。スミちーが大人の女性になっていくために、体がどんどんと肉付き良くなっていくのにゃ。それにスミちーは太っている何て言わないのにゃ。健康的な体をしていると言うのにゃ」
「……そうでしょうか?」
スミレはピー男爵の言葉が信じられず、手の甲を自分の頬に当てて感触を確かめている。
そして潤平は、スミレが意識を失った時にスミレの体を抱き上げた事を思い出していた。
確かにスミレの身長は大きくないが、とても肉付きが良かったのは確認している。それに同年代の女の子と比べて、胸の成長の方もかなり進んでいると思った。
潤平は頭の中で、D? E?まさかのF?何てサイズの妄想をしてると、急に黙った潤平に対してピー男爵が、潤平の顔に自身の全身を乗せてきた。
「……何?」
「気にしないにゃ」
「息がしにくいんだけど」
非常に邪魔なので顔からピー男爵を剥がす。
その後も三人は部屋の中で他愛もない会話をする。
そうしてる内に、潤平は眠気が襲って来たのでピー男爵とスミレに断りを入れて、睡眠の世界に入っていく。
二人が部屋を後にすると、潤平はすぐに深い眠りついて次に目が覚めたのは、日を跨いだ深夜になってからだった。
布団から体を起こすと、大分回復したようでお昼頃の様な気怠さを感じる事は無くなっていた。
その時、部屋の隅にお盆に乗せられた食事が置かれている事に気が付いた。
そこにはおひつに山盛りに納まっているご飯と、何かの肉の角煮と大根の煮物。副菜の小鉢とお味噌汁それと沢山の漬物が置いてあった。
それを見た潤平は急速にお腹が減っていくのを感じて、もそもそと動くと、お盆の所まで行き遅い夕食を食べるのだった。
すっかり冷えてしまった夕食だが、潤平はご飯が食べれるだけでも非常に有り難いと感じながら食べ進めていく。
思えばこの屋敷に来てから、食べて寝て、騒動を起こして食べて寝て、食べて倒れて食べて寝てと、護衛らしい仕事を一つもしてないなと、潤平は今になって思った。
流石にこのままではまずいか? と感じた潤平は明日から護衛の仕事をしっかりとやっていこうと決める。が、その前に護衛の仕事は何をしたらいいか、ルリに聞いておかないと。
肉の角煮とご飯を口に入れて、最後に漬物で夕食を締めると手を合わせて食事に感謝する。
「ご馳走様でしたっ」
潤平は食べた器を纏めておく。
その際、角煮の油が他のお茶碗に付かないように纏める。
油が付くと面倒だからね。てゆーか残った油と汁が邪魔だな。………………飲めばいいか。
少しお下品に思えたが、潤平は大皿に残った煮汁を奇麗に飲み干していく。
そして煮物が入っていた皿と別に、茶碗を纏めるとお盆の上に乗せて置いておく。
「……何しよう」
夕食も終えて暇になった潤平は足を投げ出して座り、つま先をくねくねさせて遊び出す。
時刻は深夜。特に何かする事もなく、かと言ってこの部屋から抜け出す訳にも行かず、やる事が無くなった潤平はぼーっと何もない空中を見つめる。
しばらくそうしていると有ることを思い出した。
そうだ魔法を作ろう。
後で作っとく魔法リストに乗せて置いた魔法を、暇な今
作るべきなんじゃないの~。
潤平は胡座をかくと、何の魔法を作るか頭の中で思い描く。
前に欲しいと思った魔法はやっぱあれだよな。『映像魔法』と『写真魔法』の二つは欲しい所だよな。
結局撮りたいと思った景色や光景一つも撮ってないし、早めに作っといた方が良いよな~。でもな~、多分だけど今作るのは無理な気がするんだよな~。
潤平は試しに二つの魔法作ってみる。
だが特に何も起こらず、空中からチョコボールが落ちて来る事もなかった。
この結果に潤平は悩み出す。
まだ魔力が回復しきっていないのか、それとも十分な魔力がないのか、以前の様に二つの魔法を作る夢は叶わなかった。
どうして魔力が無いと時に限って、こう暇になる物かと言いたくなる。
ならばと、潤平は次に作りたい魔法を考え出す。
飛行魔法……は却下。今すぐ試すことが出来ないし何より魔力が足りない。
光源魔法も別に使う必要も無くなったし、今すぐ必要とゆう訳ではないから要らない。
じゃあどんな魔法が必要なのか、今欲しいと考えているのは回復魔法位か? でもピー男爵の口ぶりから察するに、回復魔法はかなりの練度が必要とされるっぽいんだよな。そう思うと魔法の慣れがまだ赤ちゃんレベルの俺は、回復魔法を使いこなすのはまだ無理かな?
う~ん。いいや試しに回復魔法をつくってみよう。
駄目だったらそん時は潔く諦めて違う魔法を作ろう。
回復魔法をつくる事を決断すると早速その作業に取り掛かる。とは言ってもする事と言えば只頭の中で作りたい魔法を思い描くだけなのだが。
回復魔法を作りたい。そう頭の中で念じると魔力が吸われていく感覚がする。
思ったよりも少ない魔力の消費に、回復魔法を作るのはこんな物なのかと拍子抜けする。
ちょっと待っていると魔法が出来上がったらしく、何もない空中からチョコボールが落ちてきて潤平はそれを片手でキャッチする。
そしてそれを口に放り込むと口の中でチョコボールの味を楽しむ。
一粒のチョコボールを食べ終わると、潤平は自身の体に鑑定を掛ける。
するとそこにはしっかりと回復魔法…………、では無く『光魔法:初級』が取得された事が潤平のステータス欄に載っていた。
「あいぇぇ? 何で回復魔法じゃないの? どうゆう事? 俺は回復魔法を作りたいと思い描いた筈なのに、何で『光魔法』しかも初級が取得されてんの?」
もう一度自分に鑑定を掛けるが、ステータス欄にはしっかりと『光魔法:初級』の文字が書かれている。
何度見ても変わらない結果に潤平は頭を捻る。
どうして回復魔法を作ったつもりが、光魔法に置き換わっているのか。それも火魔法や水魔法と同じ初級とゆう値で。
…………考えられるのは、もしかして回復魔法なんてのは存在しなくて、光魔法の枠組みの中に存在するのでは?
ピー男爵が前人気喋っていた原始の魔法、それがもしかして光魔法で、光魔法の熟練度を上げていった先に回復魔法が使える様になるのではないか。
回復魔法を作ったつもりが光魔法に置き換わったのは、回復魔法が個別に存在するのではなく、光魔法を極めていかなければ使えな……い……。
「えっ? じゃあ何? 今すぐ回復魔法は使えないって事? どっち道俺はコツコツと魔法の熟練度を上げていかなきゃいけないって事!? ファ○○ュー!!」
とんだ勘違いに汚い言葉が漏れる。
「え~じゃあ同じ様に光魔法も練習しろって事? てゆーか光魔法の初級って何? 他の原始魔法は球になるけど光魔法は……」
気になって光魔法を発動させてみる。すると指の先からソフトボールサイズの光球が出現する。
急に出現した明るい球に、月明かりだけを頼りにしていた潤平は光に目がやられてしまう。
「ぐわあーーーーーーっっっ!!!」
目を押さえてしばらく布団の上でゴロゴロとのたうち回る。
ようやくそれが納まってくると、目をパチパチとさせて今し方起きた事を整理する。
「オーケイオーケイ、そうゆう事ね光魔法は光球が出てくるのね。把握把握承知承知」
思い掛けない自分の行動にまたしても呆れてしまう。
ただ悪い事ばかりでは無い、作ろうと思ってたが使う機会が無くなった。光源魔法が手に入ったと思えば良いのではないだろうか。
過程が違っても辿り着くのが一緒ならそれでいいじゃないか。
潤平は自分に言い聞かせる様に自分を納得させる。
「てゆー事はこの光魔法の初級を極めていけば、いずれも回復魔法に辿り着けるって事だな。なら回復魔法はそれまで一旦お預けか」
潤平は布団の上に大の字に寝転がる。
魔法を簡単に使えれば、と思って魔法創造何てスキルを貰ったが、思ったよりも簡単に魔法が扱えない事に悩む。
まあ、そう簡単に魔法が使える筈がないとも予想してたし? それに魔法を作り出せる何てゆうとんでもないスキルを貰えてるし? 魔法の熟練についてはしっかりと頑張るとするかね。
「…………やばいトイレ行きたい」
急な便意に潤平は勢い良く起き上がる。
何故人は便意が来るとやばいとかまずいとか言ってしまうのだろうか?
そんな無駄な事を考えて潤平は部屋の襖を開けて、物音を立てない様にソロリソロリと廊下を歩く。
別にこの屋敷に招待されている身なのだから堂々と歩けば良いのに、何故か潤平は静かに廊下を歩いている。
男性用の便所に着くと、大きい方のトイレに入る。
幸せな時間を過ごした潤平だが、そこである重大な事に気付く。
本来なら潤平の世界にはお尻を拭くためにトイレットペーパーなる物が存在する。
だがこの世界、このトイレにはそんな物は存在しなくゴワゴワとした紙が置かれているだけ。
これには現代人として過ごしていた潤平はびっくりしてプチパニックになる。
トイレットペーパーしか使った事のない潤平には、厚手の紙でそれもザラザラとしたもので、お尻を拭く何て行為は到底容認出来たものではない。
試しに一枚手に取り拭いてみようとするが、暗くて見辛い上に拭いた感触はすこぶる悪かった。
これに潤平は頭を悩ませる。どうにか妙案は無いものかと思わず考える人のポーズを取ってしまう。
やがて頭に妙案が浮かぶ。さっき作った光魔法で光球を出す、トイレするには少し大袈裟だが暗いよりはマシだ。
そして紙の事だが……、『物質魔法』を使ってこの厚手のゴワゴワとした紙を、何とかトイレットペーパーに変えられないかと考える。
今は余裕がないので、思い付いた事は即実行に移す。
積まれている厚手の紙を手に取り、物質魔法を使いそれらをトイレットペーパーに変える。それも只のトイレットペーパーでは無く、値段の高い良い匂いのするトイレットペーパーに変える。
厚手の紙が形を変えると、潤平が見慣れているトイレットペーパーに変わっていく。
以外とすんなり上手く行った事に潤平は手応えを感じる。その上消費した魔力も少なかった事に二度喜ぶ。
早速作ったトイレットペーパーでお尻を拭く。
馴染みのある手応えそれに感触、そして良い匂いに潤平は物凄く感動する。
余ったトイレットペーパーはそのままそこに置いといて、他の誰かのためかそれか自分がまた使う時の為に取っておく。
用を終えてトイレから出ると、潤平は手を洗いたくなってしまう。しかし洗う水場が無いため仕方なく中庭に行き、そこで水球を出すとそれで手を洗い、今度は火球で手を乾かした。
全てが満足に終わると眠気が来たので、部屋に戻り布団の中に入って再び睡眠の世界に入っていく。
明日は明日でやる事は沢山有る、そう思って潤平は眠りに就いた。
だが潤平は知らなかった。
潤平が勝手にトイレットペーパーを作った事が、後にこの屋敷に大騒動を招く事になるとは。
朝トイレに行き発見した男の使用人が試しに使って見た所、物凄い感動してその事をタマヨに報告し、それが広まりそしてこの国を揺るがす騒動になるとは、この時の潤平は思ってもいなかったのである。
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