第三十四話 高校生の胃袋
じいちゃんとばあちゃんと一緒にご飯を食べている。
テーブルの上には、俺が大好きなおかずと大盛りのご飯が並べられていて、それを俺が勢い良く口の中に入れるのを二人はニコニコと笑って眺めている。
中でも、二人が作っている養殖のわかめは俺のお気に入りで、それを細かく切って入れた味噌汁は大好物だ。
しかしそれらをどれだけ食べても、心が満たされる事はない。
ああこれは夢なんだなと気付く瞬間がある。潤平はじいちゃんとばあちゃんの二人が、こんなにニコニコと笑っているのをそうそう見た記憶がない。
とゆうよりこんな満面の笑みで、ご飯を食べる人がいるのだろうか、その瞬間潤平はこれが夢なんだと気付いた。
最後に、俺の大好物であるホヤを一切れ食べようとした所で、潤平は急速に夢から覚めていった。
「海のパイナップルっっ!!」
寝言を叫びながら、潤平は布団をはねのける勢いで起き上がる。すると見慣れない部屋に自分一人が寝かされている事に疑問を抱く。
「……あれ? 何で俺布団の上で……?」
まだ満足に働いていない頭を使って、自分が置かれている状況を確認する。
ここは何処で、何故自分は布団の上で寝かされているいるんだろうと考えるが分からない。
潤平は、布団から立ち上がろうとしてその場につんのめった。
全身が倦怠感と脱力感に包まれていて、満足に体が動かなかったのである。
何とか部屋の隅まで這って行き、襖をそろーりと開ける。
そして襖を開けた先の景色を見て、潤平は記憶が蘇ってくる。
自分は中庭で魔法の訓練をしている時に、魔力切れでぶっ倒れたんだった。
最後に見た光景が、興奮して毛が逆立ってるピー男爵と、慌てて此方に駆け寄ってる来るスミレさんだったのも思い出した。
「……体がダルイ」
それにしても、流石にあの量の魔法を出すのは駄目だったかと潤平は溜息を付く。
自分の中では良い案だと思っただけに、返ってきた代償が大き過ぎた事にとても落ち込む。
自分の馬鹿さ加減に甚だ呆れてると、廊下の奥から此方に向かって誰かが歩いて来る音がする。
「やべっ。はっへはっひふっほ、ううっうっう」
潤平はこの姿を見られてはまずいと思い、布団の上に戻ろうとする。
だが急に戻る事も出来ないし、体を捻る事も出来ないので潤平はバックで這って戻ろうとする。
足を器用にもぞもぞ動かして、お尻と腰で全身を後ろに戻して行く。額に汗をかきながら布団までもう少しの所で、目の前の襖が勢い良く開いた。
「……何をしてるにゃ?」
ピー男爵が見たのは、何処か気持ち悪い姿勢をした潤平が、畳の上で汗をかきながら懸命に這って動いてる姿だった。
「……あすあす」
潤平は、自分のこんな痴態を見られた事で、恥ずかしくもどうでも良くなり全身から力を抜いた。
「無事に目が覚めて良かったにゃ。何せこんな事は僕が見た限りでは初めての経験だったからにゃ」
潤平が何事もなく無事に目を覚ました事に一安心するピー男爵。
その言葉を布団の上に横になって、居心地が悪そうに聞いている潤平。魔力切れの騒動を起こした張本人なので、迷惑を掛けた事について罪悪感を感じている。
「タマヨもフミも心配してたにゃ、特にスミレなんか慌てて気が動転してたにゃ。そこら辺については後で潤平がちゃんと謝っとくにゃ」
「……迷惑掛けてほんとすいません」
「僕は別に気にしてないにゃ。凄い物が見れたし? 倒れた人を助けるのが僕の仕事だし?」
ピー男爵は特に気にしてませんゆう素振りを見せる。
そんなことよりも、潤平が見せたあの魔法の光景について興味津々な様子だった。
「それで? 潤平は一体何を考えてあんな事をしでかしたにゃ? 詳しく教えるにゃ」
寝ている潤平の顔の上に、ピー男爵が思いっ切り顔を近付けて理由を問い詰めてくる。
余りにも近いピー男爵からのプレッシャーに、潤平は気圧されつつあの時の行動を思い出して語り出す。
「……あの時思い付いたのが、全ての経験を一気に終わらせる方法だったんだ。一度に大量の魔法を行使すれば、それこそ早く感覚を掴めるんじゃないかと思ったのさ。生活の一部として、色んな魔法を複数個混合させて、常時大量に発動させておけば早く感覚が掴めるんじゃないかと思って。結果は上手く行ったかどうか分からないけど、でも手応えは感じたよ」
遠い目をして自分の行動を語る潤平に、ピー男爵は黙って聞いている。
「まあ五百個はちょっと出し過ぎたかな。次からはもう少し倒れない程度に抑えて魔法を出すよ」
先程謝罪の言葉を述べたが、丸で反省してない潤平の言葉にピー男爵はどうするか考える。
「…………。取り敢えず体を回復させるにゃ。話はそれからだにゃ、タマヨにこの事は報告しといたけども、回復したら潤平の口でちゃんと説明しとかないとにゃ」
「……分かった。前にも魔力切れで倒れた時があって、その時は一晩寝たら回復していたから、それ位休めば大丈夫だと思う」
「そうかにゃ」
「うん」
「……正直潤平が起こした事は信じられない事だと僕は思ってるにゃ。魔法を五百個だったかにゃ? それ位の数を出せる人を僕は見た事も聞いた事もないにゃ。幾ら初級魔法だと言ってもそんなのは不可能なんだにゃ。それが目の前で起こって僕はとてつもなく驚いたにゃ」
ピー男爵は腕を組んで、潤平が起こした行動について真剣に話す。
「潤平が、普通の人よりも多くの魔力を保有してるのは聞いていたが、正直ここまでとは思いもしなかったにゃ。一体どれだけの魔力を持ってるんだにゃ」
「……分からない。前に若気の至りで大規模な収納魔法を、作った時から魔力がちゃんと回復したって認識が無いんだ。それでも力任せに魔法を使える位には、魔法が発動するから自分がどれだけの魔力を持ってるか知らないんだ」
「……にゃあ~。まじかにゃそれはやばいにゃ。因みに魔法ギルドで魔力を測定した時は何色だったかにゃ?」
「……魔法ギルドの人が言ってたのは俺の魔力量は銀色だって」
「さっきまでの状態で銀色の魔力量なら、潤平の魔力が全回復したらどうなってしまうんだにゃ……」
「……知らない。寝ても食べてもあんまり回復しないんだもん。魔力が最高値まで有ったのなんてこの世界に来た時だけだから。感覚も忘れちゃったよ」
「そうかにゃ。まあ今は休んで体を回復させる事に集中するにゃ」
「……そうする。けど一つだけお願いをしてもいい?」
「? 何にゃ」
「……お腹減ってきた」
「かぁーっ。さっき昼食を食べたばかりなのにもう消費しちゃったのかにゃ。若い者のエネルギー効率は凄いにゃ」
「……やばい。お腹が減って眠れないよ……」
「とは言ってもにゃ。昼食はさっき終えたばかりだからにゃ、そんな都合良く食べる物が残ってるのかにゃ」
「……お腹が空いたよ~」
潤平が空腹と体の倦怠感で心が弱り、布団に包まれながら半泣きになっていると丁度良く襖が開いた。
襖が開くと、廊下にはスミレが立っておりお盆を抱えていた。
そのお盆の上は、山盛りになっていて白い布巾が被せられていて何が乗っているのか分からなかった。
「ああ潤平さん目を覚ましたんですね……。無事で本当に安心しました」
「…………スミレさん……、本当に迷惑掛けてすいません……」
スミレは、潤平が何事もなく無事に目を覚ました事が分かると、ほっと一安心した表情を見せる。
「大げさだにゃ~。只の魔力切れを起こしただけにゃ。こんなの学生や兵士がよく起こす事にゃ」
「私は見るのが初めてでしたから……」
「なら見れて良かったにゃ。これが魔力切れを起こした人の反応にゃ」
「……良かったのかな?」
「うんにゃ。潤平聞くにゃ、君が倒れた時のスミちーの反応物凄かったんだから。気が動転しちゃって必死に君の事を呼んでいたんだからにゃ。まあ興奮していたのは僕も何だけどにゃ」
「ピー様?」
「にゃ!? ま、まあ初めて見たならそうゆう反応もするだろうにゃ~」
寝ながらじゃ二人の表情は良く伺えないが、一瞬スミレの魔力が濃くなったのは何故だろうか。そしてピー男爵も何故か頭から汗を流して、ブルブル震えている。
「……お腹……」
「ああ、そうだったにゃ。スミちー台所に何か食べ物が残ってないか知らないかにゃ。潤平が魔力の使い過ぎで、さっき昼食を食べたのにお腹が減ったって言ってるんだにゃ」
横になりながら半泣きになっている潤平と、それを見てピー男爵はスミレに何か食う物がないかと聞いてくる。
スミレはきょとんとした顔をすると、次の瞬間には朗らかな笑顔を見せる。
「タマヨ様は凄いですね。こうなることを見越して、食べ物を持って行きなさいと私に言っていました。空腹が辛いのは私も死ぬほど理解出来ます。先程渡しそびれたお団子と合わせて、新たに空腹を満たす食べ物を持って来ました」
スミレは意気揚々とお盆を潤平とピー男爵の目の前に置くと、上に被せてあった布巾を捲って食べ物を見せてくれる。
そこにはみたらし団子と、笹に包まれた何か良い匂いのする何かと酒まんじゅう、そして蒸した大きな饅頭がお盆の上に乗っていた。
「……おおっ。おおおっ」
美味そうな食べ物にさっき昼食を食べたばかりだとゆうのに、潤平は丸で一週間も食べ物が食えていなかったかの様な反応を見せて、歓喜の涙を流す。
「……ありがとうございます……。スミレさん……」
「お礼ならタマヨ様と総料理長に言って下さい。二人とも快く食べ物をくれたので」
「ありがとうございます……。ありがとうございます……。」
潤平は横になって泣きながら胸の上に両手を握って、両名に感謝を捧げる。
「大げさだにゃ~、別に大病を患った訳じゃないんだから。僕もちょっと貰っていいかにゃ?」
「どうぞ。沢山有りますので」
「じゃあ、みたらし団子を二本貰うにゃ~」
「ああっ、ああああっ」
潤平は自分よりも先に食べるピー男爵に悔しそうな反応をする。体がまだ満足に動かないので食べ物一つ取るのも煩わしい。
どうにか体に力を入れて起き上がろうとする。肘を使いそこを起点にして体を起き上がらせる。
「あっ、私が支えますから」
そんな潤平を見てスミレはさっと動くと、潤平の体の補助にまわる。
「……そんないいですから」
「良いんです。私は潤平さんに大きな借りがあるんですから。これくらいはさせて下さい」
何とかスミレの支えもあって、潤平は体を起き上がらせる事に成功する。
先ずは喉を潤してからと、スミレが枕元に置いてあった飲み物を渡してくれたので、それを受け取って口に運ぶ。
以外と喉が渇いていたのか、一口飲んだら飲み進めるのが止まらなくなり、湯飲みに入っていた分は全部飲みきってしまった。
そして目の前に置かれた食べ物を見る。
潤平は何から食べようか悩んだが、甘い物が食べたかったのでみたらし団子を選んだ。
決して、ピー男爵が美味そうにみたらし団子を食べていたから、食べたくなった訳ではない。決して。
「……あ~ん」
久しぶりに食べたみたらし団子は格別においしく感じた。
疲れた時は甘い物とは言うが、ここまで美味しく感じると甘い物の中毒性に依存してしまいそうだ。
前にフミさんとお茶屋で甘い物を食べた時も、特段美味しく感じたが今もそれに負けないくらいの幸福感を感じる。
「そのみたらし団子は、カントウ様が経営してるお店の中でも特に目玉になってる売り物なんですよ」
「……これをカントウさんのお店が?」
「はい。直接カントウ様がお作りなっている訳ではないですが、この商品の開発に至っては大切な友人に教えて貰ったのが切っ掛けとなったと、市民の間では有名な話です」
「……カントウさんありがとう」
頬にお団子を詰めて泣きながら、みたらし団子をこの世界に作ってくれたカントウさんに感謝する。
もくもぐと口の中で咀嚼しながら、飲み物で団子を流し込む。なんせ弱った体なので喉に詰まらない様にしないと。
次に手を伸ばしたのは、湯気が立っている蒸した饅頭である。
熱々のそれを掴むと、半分に割って中身を確かめて見る。
中には、茶色い具材が詰められており具材からしみ出した、油と汁気が饅頭に染みていた。
「それは総料理長が考案した物で、海の幸ときのこと山菜を細かく切って練って蒸した物だそうです」
「あ~んぐっ。すはっすはっ、あつっ美味っあつっ美味っ」
潤平は一口食べて、最初肉まんかなと思ったがスミレの説明ではそうではないらしい。
一口食べると、確かにエビやカニ白身等のプリプリとした食感が伝わってきて、後からきのこの旨み山菜の匂いが口の中を巡って、鼻から抜けていく。
これも絶品だと感じながら、この海鮮まんを五個ペロリと平らげてしまう。
そしていつもの酒まんじゅう。この酒まんじゅうはやはりいつ食べても美味しい。
潤平の周りではあんまり食べる高校生がいなかったが、家に帰るとばあちゃんが好きだったので、いつもテーブルの上に置いてあった。
しつこくない甘さがとても美味しい。
最後に手に取ったのが笹に巻かれた何かである。
正直さっきからこの食べ物から良い匂いがしていて、非常に気になっていた。
それを手に取り、笹をめくると中から出て来たのは、黄色いぷるぷるとした塊だった。
余りにもぷるぷるとしているので、潤平は少し面白くなり軽く横に揺らして、その黄色い塊の動きを楽しむ。
そしてスミレさんの説明を待ってたが何も言ってこないので、潤平はそのまま口に入れる。
「……んぐんぐ」
こ、これは!
ぷるぷるとした食べ物はしっかりと出汁が利いていて、中には色んな食材が小さく切って入っている。
そしてこの風味、この味。俺はこの食べ物を知っている。俺が風邪を引いた時ばあちゃんが必ずと言っていいほど買ってきてくれた食べ物。
そうこれは茶碗蒸しだ。
まさか異世界で茶碗蒸しが食べれると思ってなかったので、潤平は衝撃を受ける。
しかしどうやって、茶碗蒸しを笹で包んでいるんだ?
確か茶碗蒸しって、名前の通り蒸しの行程が有る筈だよな。
その時に笹から漏れそうなもんだけどな。
「……スミレさん。これってどうやって作っているんですか?」
潤平が大事そうに抱えている笹の茶碗蒸しについて、スミレに聞くがスミレは難しそうな表情を見せる。
「その食べ物についてはわたしも知らないんです。どうやら総料理長が作った試作品らしく、他の人も誰も知らないんだそうです」
秘密の作り方。
本人しか作り方を知らず、どうややってこの食べ物を作っているのか、他の料理人の人達も知らないと言う。
潤平は取り敢えず、笹茶碗蒸しが四個あるので一つずつピー男爵とスミレにも食わしてあげる。
いい加減横から涎を垂らして此方を見上げてたピー男爵が、うるさく思ったとかは考えない。
純粋に好意で笹茶碗蒸しを分けてあげるのだ。
二人も初めての食べ物に楽しそうな反応を見せていた。
それを見て、潤平も楽しそうに笑顔になる。
しばらくおやつを食べながら、三人で和やかに談笑をする時間が続いた。
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