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異世界、遺します ~天涯孤独となった俺に亡き祖父母が『異世界』を遺してくれた~  作者: 鏑右いなだ


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第三十三話 馬鹿共

 屋敷は一時騒然とした。

 ピー男爵のにゃあああああっっっっ!! とゆう甲高い声と、スミレの事件性のある叫びが重なり、屋敷にいたタマヨと使用人が何事かと思い、騒ぎの元に駆け付けたのだ。

 因みにルリは、熱を出して寝込んでいるのでその騒ぎには気付かなかった。


 タマヨ、フミ、ヨリ、その他数名の使用人が悲鳴が起きた中庭に駆け付けると、そこには意識を失って倒れてる潤平と、それを見て慌ててるピー男爵、それと必死に潤平に呼び掛けてるスミレの姿があった。


 どうして潤平が倒れてるのか、今ここに来たばかりの人間には分からなかったが、タマヨが一番先に状況を理解しようとして、ピー男爵とスミレの元に駆け寄って行く。


「ピー君! スミレ! ここで何があったの!? 何故彼が倒れているの!?」


「凄いの見ちゃったにゃっ! 奇跡だにゃっ! 僕らは奇跡を目撃したんだにゃっ!」


「潤平さんっ! 大丈夫ですかっ!? 潤平さん!」


 片や興奮して話しが通じず、片や意識を失った人間の心配をして回りが見えてない。

 こうゆう時は、タマヨは風球を使って興奮状態の物の前で、それを爆発させる。

 パンっと風船が割れる音と、少しの衝撃と風が起きそれを食らった物は正気に戻る。


 ピー男爵とスミレも同じ様に、風球を食らって一瞬びっくりすると二人ともタマヨに目を向ける。


「二人とも落ち着きなさい。先ずは何があったのか説明しなさい、それから直ぐに倒れた彼も介抱してあげなさい」


 正気を取り戻した二人は、タマヨの言葉を聞くとすぐに倒れた潤平の上腿を確認する。

 幸い潤平の体には何もなく、倒れた時にぶつけた頭も大丈夫で外傷は無いと診断した。

 ピー男爵が冷静さを取り戻して、潤平を診察した限り魔力を使い果たした事によるショックで意識を失ったと診断した。

 子供が自分に魔力の限界を知らず、魔力を使い果たした事がよくあるらしいが、潤平もそれと同じ症状だとピー男爵は判断した。


 取り敢えずタマヨは潤平が無事だと分かると、潤平を魔法を使って優しく持ち上げ、目の前の部屋に運び入れる。

 そして既にフミが敷いて置いた布団の上に潤平を寝かせる。


 それが終わると他の使用人は通常の業務に戻らせ、タマヨはその場にピー男爵とスミレを残して話を聞く。

 フミは潤平の傍に付き添い、枕を充てたり枕元に飲み物を置いて、かいがいしく世話をしていた。

 ヨリも自分の業務があるため、元の場所に戻ろうとする。その際ある人の行動が気になったので、ちらりと中庭に居るタマヨ達に目を向ける。


 「…………」


 しかし、すぐに切り替えて自分の業務に戻るため走って戻って行く。



 「それで? 一体何があったのか説明してくれるかしら? ピー君」


 この場に残らせた目撃者であるピー男爵にタマヨは説明を求める。


「ぽんぽんぽんぽんって、ぶわぁーって凄い光景を見ちゃったんだにゃっ、こんなの初めてだにゃっ」


 どうやらまだ興奮が冷めていない様で、説明にもなっていない擬音を使い、早口で喋っている。

 これには流石にタマヨもイラッと来たのか、額に血管が浮き出て手に力が入り拳の形を取る。


 そんなタマヨの雰囲気を察したのか、ピー男爵は今度こそ真面目に状況の説明をする。


「あっ怒んないでにゃ、ごめんだにゃ。うんと潤平の魔法の制御の訓練をしていたんだにゃ。潤平は魔力の制御がまだ赤ちゃんみたいな物だから、僕とスミレが魔力制御の方法を教えて見守っていたんだにゃ」


「……続けて」


「それで行き詰まった潤平が、普通の人がやる魔力の制御方法、まあ魔法を常時出したり、生活の為に使ったり複数出したり、魔法の混合を遊びで使ったりする方法を教えたりしたにゃ。最初の内は潤平も一つ一つ試していたんだがにゃ、何を思ったか潤平はそれを全部やろうとしたにゃっ」


「…………」


「しかも、それも全部の魔力を使って出したのにゃっ、僕が気付いた時には、中庭の空中に数百個の風球が浮いていて、潤平はそれを全て制御していたんだにゃ。信じられるかにゃ!? しかもそれを縮小する事にまで成功したんだにゃっ!? これが一人の人間が起こした事なんて誰が思うにゃ!?」


「……そんな事」


 有り得るのか。と口に出そうとしてタマヨは口を噤んだ。


「んで、魔力切れで潤平はぶっ倒れたのにゃ」


 ピー男爵はやれやれと言った感じで溜息を付く。


 タマヨはその話を聞いて考える。

 彼がこの世界の神様によって、遣わされた存在だとゆうのは彼の口から直接聞いた。信じるとは言ったがその存在がどれ程の物なのか、タマヨは見たことがないので分からない。

 しかし話を聞く限り、とんでもない人間がこの世界に降り立ったのではないかと考える。

 幾ら初級魔法とは言え、風球を数百個もの数発動できるものなのか? 私でさえ十個が限界なのに。しかもそれを制御して縮小する事にまで成功するとは。俄には信じがたい事だ。


「……スミレも同じ様に証言出来ますか?」


 二人が話している間も、潤平の方をチラチラと気にしていたスミレに、タマヨは確認のため話を聞く。


「はっ、はい。私は元々潤平さんにお礼を言うため、潤平さんが中庭に居ると聞いてここに来ました。そしてお礼を伝えてピー様と共に潤平さんの魔力制御の訓練を見てました」


 スミレは乱れた髪の毛が下がって前に垂れてきたので、手でそれを掻き上げると話を続ける。


「途中ピー様がブラッシングをしたいと言い出したので、専用の櫛を取りに私はここを離れ、そして戻ってきた時には、中庭に数百個のもの風球が浮いていて、驚いて固まってしまいました。潤平さんはその間全身から汗を吹き出して、物凄い集中力を見せていました。そして倒れてしまったのです」


「……そうですか。ピー君彼はどれ位で目を覚ましそうですか?」


 タマヨはピー男爵に彼の状態について尋ねる。ピー男爵はどう話したらいいか悩んだが、タマヨとスミレを交互に見ると潤平の状態について説明した。


 

「んとにゃー。もし倒れたのが只の魔力切れなら、普通ならば数時間もすれば目を覚ますと思うにゃ。でも潤平の体はそこら辺の人とは違う体にゃ、まあ数十分もすれば起きると思うにゃ。ただ問題なのが、あれだけの大規模な魔法を行使したら、普通の人は倒れても目を覚ます事はないにゃ、例え意識が戻っても重度の障害を抱える事になるにゃ。その辺が潤平の体だとどの様な結果をもたらすかさっぱり分からないにゃ。まあ丈夫な体で出来てるらしいし? その辺は大丈夫なんじゃないか……、と思いたいにゃ」


 ピー男爵は少し自信なさげに、両手を体の前でモミモミしながら潤平の体の状態を話す。


「……彼がもう二度と起き上がる事がなかったら?」


「……そうならない様願いたいにゃ。念の為僕も傍にいて見ておくにゃ」


 彼は私達が手にした微か希望。

 それが意味の無いことで消えてしまっては笑えない。それにタマヨは目撃してはいないが、護衛としてもかなり腕が立つ人物なのだ。タマヨは彼が何事もなく目を覚ます様無事を祈る。

 

「ええ、済まないのだけれどそうしてくれると助かるわ。ルリの事も見ていてくれるのに、本当ごめんなさい」


「いいのにゃ。それが僕の仕事だしこんなの全然平気なのにゃ。……それにあの時に比べたらこんなの楽勝だにゃ」


「……そう」


 ピー男爵の言葉に、タマヨは忘れられない記憶を思い出す。それは二人にとって辛く苦しいそして惨めな記憶。


「まあ、それなら彼の事はピー君にお願いするわ。何かあったら私に報告して頂戴。スミレは? どうしますか? 貴方は今日と明日臨時で休みを入れましたが」


 タマヨがスミレにこれからの事を訪ねると、スミレは少し考えてから話し出す。


「……私は潤平さんのお世話をします。フミさんが潤平さんのお世話をすると、フミさんの負担が増えるのでそうさせない為に私が、潤平さんの身の回りのお世話をします」


「へぇ……そう。それならそうゆう事にしましょうか」


 タマヨはスミレの顔を見ると、何か気になった様子でけれどもそれを飲み込んで、スミレの言葉を了承する。


「それじゃ二人ともお願いするわ」


 そう言ってタマヨはその場を後にした。

 ピー男爵とスミレは潤平が運ばれた目の前の部屋に行き、彼の容態を確認する。


 何も変化が無い事を確認すると、ピー男爵はルリの所に行き、スミレはフミから後は自分が引き継ぐと説得する。


 そしてしばらくの間部屋に潤平しかいなくなる。

 それから数十分後、潤平は何事もなく無事に目を覚ました。


 


※ 


「俺が死にかけたのはこれで何度目かね」


「……十から先は数えてませんぜ」


「その度に、こんな姿になっていたらザマァねえぜ」


 ある屋敷の一室でむさ苦しい中年二人が、顔を付き合わせて話をしていた。

 最初に口を開いた男は、火傷を負った全身を治療するため包帯に巻かれて布団の上に横になっている。

 大頭目ワドウは、盗賊の頭だった時の姿が見る影も無く、見るも無惨な姿で横たわっていた。


「ここまで来ると悪運と言うより、神に愛されていると勘違いしそうすね」


 ワドウが寝ている傍にいるのは、盗賊とゆう荒くれ者達の相談役をしていた男。ワドウに次ぐ強さと盗賊としての確かな腕を持つ男、相談役ハズシ。


「馬鹿たれ。俺がそんなもん信じてる様に見えるか?」


「全く」


「にしても体が痛むぜ~、安静にしろとは言っても、これだけ体が痛いと寝たいもんも寝れんぜ。おいハズシ、お前酒か何か持ってねえか?」


「馬鹿はあんただよ、この前まで死にかけていた男が、酒なんか飲んでいいわけあるかい。黙って寝てろっての」


「だからそれが出来たらしてるつっーの。体が痛すぎて寝られんちゅーのに」


 二人が会話をしてると、部屋の外の廊下から誰かが歩いてくる足音が聞こえる。

 その足音はワドウ達が居る部屋の前で止まると、スパンッと襖を開けて部屋の中に入って来た。


「……ほら、医者がこの痛み止めを飲みなって言ってたからわざわざ届けに来たよ」


「おおっ、すまねぇ悪いな。痛ててっハズシ悪いけど、そこの水瓶取ってくれるか?」


「……噂に聞こえた大頭目も、こうなってしまっては只の死に損ないだね」


 部屋に入って来てワドウとハズシを見下ろすこの女性は、ワドウと比べても遜色の無い身長を持つ。

 くノ一のイチヨウ。彼女はハズシの隣に勢い良く座ると、ハズシが取ろうとしていた水瓶を代わりに取って、ワドウに注いであげる。


「お、おお。悪ぃ、んぐっ。……それで? お前が来たって事はあの人から何か言われたのかい?」


「いやそれが何にもさ。今は体を癒すことに集中しろって事だけ言われてさ。それ以外は何にも」


 その言葉に、ワドウとハズシ驚いて顔を見合わせる。

 二人の考えでは、アジトも失って手下も多数無くした事で、てっきり命くらいは取られるもんだと思っていたので、どうやってこの屋敷から逃げ出すかを話し合ってたのだ。

 それが何もお咎め無しだと聞くと、却って不気味に聞こえる。

 

「まああの人の事さ、私らが使い物にならなくなっても他に考えが有るんだろうさ」


「……その言葉が本当だったら俺らは助かるがよ、そんな簡単にいくのかよ」


「私が知ったことじゃないよ。私はただあの人から言われた事をするだけさ。取り敢えずあんたは体を休める事に集中しな、いつあの人から指令が下るか分かんないんだ、すぐに出れるよう体を万全にしときな」


「……俺はお前らの下に降ったつもりはねぇ」


「はいはい、何とでも言いな。今は傷ついた野良犬が吠えてるようにしか見えないよ」


「……っ」


「取り敢えず私はこれを届けに来ただけだからね、私は帰るとするよ」


 イチヨウはその場から立ち上がると、二人を見下すように部屋から出て行った。

 ワドウは悔しさが表に出てて、手には物凄い力が込められていて布団を握りしめていて、歯を食いしばり過ぎてゴリッと口から鈍い音がした。

 ハズシは表情こそ表に出さないが、気に入らないと言った雰囲気を体から出していた。


「お頭、当面の所はどうしますかい?」

 

「どうするも何も、言われた通り体を休めとくしか出来る事はないだろうが。どうせその時が来たら向こうから連絡が来るさ」


「そうですかい、なら俺は都に繰り出して例のあいつの情報を調べときます」


「……あんまり動き回るなよ。あの人に感付かれたらまずいからな」


「そこら辺は十分承知してます。では」


 ハズシも部屋から出て行くと、ワドウは一人残された部屋で面白くなさそうに、布団の上で寝転がる。


「クソがっ。この借りは百倍にして絶対に返してやる。俺の邪魔をする奴は全員ぶちのめしてやる」


 部屋の中で、誰が聞いてる訳でもないのに復讐の炎を燃やす、ワドウが長年掛けて積み上げた組織とアジトを潰した、あの憎き若いサムライに復讐を果たすまでワドウはこの怒りを忘れる事はなかった。





 



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