第三十話 新たな役目
「昼食も済ませ、潤平とピー男爵、向かいにはルリとタマヨ、そして傍にフミが控えた部屋で、五人はお茶しか置いてないテーブルを囲んで、本題に入ろうとしていた。
内容は潤平がこの世界に来た方法と理由について。
祖父母の代わりに神様に送られたこと、そしてその時に受けた使命、淀みの魔力を浄化する事と手懸かりを探している事、そして見つけたら即座に浄化か排除。
そしてこの間起きた、スミレさんに対する襲撃事件。正しくはスミレさんが襲われた訳じゃないけど、間接的に被害を受けたとゆうのなら、襲われたと解釈してもいい筈だ。
ルリの側からは、彼女達のお父さんが捕まった事とその理由について。
お父さんは誰かに嵌められたとルリは言っていた。
そしてスミレさんが襲われたのも、無関係ではないと言う。
どうしてその二つが繋がっているのか分からないが、ルリは姉に話したら納得してくれると言った。
その件についてと、後は俺が正式にルリの護衛に付いた事を話さないといけない、今この屋敷の当主はタマヨさんが引き受けている、ならこの屋敷を出入りする以上ちゃんと許可は貰わないと駄目だ。
潤平は、この世界にきた理由とその為に帯びた使命。そして淀みの魔力の手懸かりを探してる事。その途中旅をしていて盗賊に制服を盗まれ、それを取り返す為盗賊のアジトに殴り込みをしたら、色々あってルリさん達を助ける事になった。
そして一緒に都まで旅をしてる内に、ルリさんのお父さんが捕まってしまい、急いで都まで走っていた所ピー男爵の一行と出会い、この屋敷に来た。
そんな時屋敷に襲撃があり、その時のいざこざでスミレさんが意識を失ってしまい、その理由を説明するために、今の噺をピー男爵とルリに話した、そしたらルリは自分の姉にも話した方が良いと言ったので、帰って来るまで待っていた、そして今に至る。
潤平は正直にタマヨに全て話した。
何故か潤平側でピー男爵がウンウン頷いていたが、気にしない事にする。それに時折話に補正を入れてくれたので、ちょっと助かった。
潤平はずっと喋っていた事と、緊張で渇いてしまった口を潤すためにお茶をぐいっと一気に飲み干した。
空になった湯飲みを、トンっとテーブルの上に置いてタマヨの反応を待った。
「…………」
しかしタマヨは目を瞑って何やら考えてる様子で反応がない、居たたまれなくなった潤平は、空になった湯飲みに新しくお茶をお代わりしようと、フミさんにお願いする。
「少し待っていて貰っていいですか」
フミが湯飲みを受け取ったと同時に、タマヨはいきなり立ち上がると襖を開けて、隣の部屋に向かってしまった。
タンッと閉められた襖を潤平は不思議そうに見ていたが、周りを見るとピー男爵は静かにルリは堅い表情をしてタマヨを見送っていた。
フミさんが新しく入れてくれたお茶を飲んでいると、タマヨは以外と早く戻って来た。
しかしその手には、何やら大きなモノを抱えて持ってきている。
タマヨは元の場所に座り直すと、テーブルの上に抱えていたそれを置く。
手に抱えていたのは隣の部屋に飾っていた大弓で、それをテーブルの上に置いたのはいいが、テーブルの上には収まりきらず少しはみ出している。
何故そんなモノを持ってきたのかと、潤平は頭に疑問符を浮かべていると、タマヨが口を開いた。
「……潤平君、正直に話してくれてありがとう。とても言い辛かったと思いますが、君がその事を話してくれたお陰で私も考えを変えることが出来ました。きっとルリも同じ気持ちを感じたからこそ、この話をさせたんだと思います」
「そうすかね」
その言葉を聞いてルリを見ると、彼女は頷いていた。
「まずルリの護衛の件についてですが、これは了承します。ルリが護衛を認めた以上、私が横からとやかく言う事はありません。なので護衛をしてる間は、この屋敷を出入りする事を許可します。その代わりルリをしっかり守って下さいね」
「分かりました、引き受けた以上は頑張ります」
「お姉様、ありがとうございます」
ルリの言葉にタマヨは頬を緩めると、ルリの頭を優しく撫でた。
ルリはそれをどこか恥ずかしそうに受け入れてる。
「では本題に入ります。潤平君が言っている淀みの魔力の手懸かりについてですが、私はそれについて何も知りません」
「そうなんですか……」
「ですが、私達のお父様が捕まった事と、屋敷が襲撃された事はその事と無関係じゃないと私は思います」
ルリが言っていた事と同じ事が、タマヨの口から出る。
何故なのか、それについては潤平はさっぱり分からないが、その理由はタマヨが説明してくれる。
「手懸かりは知りませんが、その言葉を聞いた事は有ります」
「それはどこでですか?」
「それを言う前に、私が持ってきたこの大弓。これが何だか分かりますか?」
「? いえ分からないす」
「では、ピー君とルリはこの大弓が何に使われるのか分かりますか?」
「勿論だにゃ」
「はい……。これは我が家に代々伝わる鎮魂祭の時に使われる、儀式用の大弓です」
「そうです。これは我が家の当主が、鎮魂祭の締めくくりに使う為に受け継がれてきた、由緒正しい大弓です」
潤平の目の前に置かれているモノが、そんな国宝級の代物だとは思わなくて、潤平は大弓をまじまじと見る。
「この大弓は、鎮魂祭で彷徨った魂を導く為と、行き場を失った感情を浄化する為に、鎮魂祭の締めくくりに空に向かって矢を放つために使います。その役割を我が一族は代々受け継いで来ました。浄化するとゆう点では潤平君と似たような役割を持っている事になります」
「この大弓が……」
「触っても良いですよ。この大弓は長年この国の魂の導き手として、重要な事を担って来たと思っています。そして私とルリがまだ小さい頃私達のお爺様、先代の当主が言っていたのですが……」
『魔力が淀んでいる』
「鎮魂祭が行われる度、大弓を握る度にその言葉を言っていたのを記憶しています。ルリもそれを覚えていたからこそ、私に話を持って行くよう進めたのでしょう」
「ルリさんのお爺さんは……、浄化の魔力が使えたんですか……?」
「いいえ、普通の人より魔力の内包量が遙かに多かったのですが、私達と変わらない普通の魔力を使っていました」
まさか、潤平の他に淀みの魔力を感知出来る人が居たとは、潤平はその話を聞いて驚く。
(神様はそんな事言っていなかったよな? もしそんな人が居るのならば事前に言っている筈。それとも神様が知らなかった? 有り得るのかそんな事。でも浄化の魔力を持ち合わせていない、淀みの魔力は浄化の魔力とセットな筈。淀みの魔力が感知出来て浄化の魔力が使えない何て事、もしかしてだが、この世界には淀みの魔力を感知出来る人が居る……? ……そう思った方が筋が通るよね)
「もしお爺様が、その大弓の本来の力を発揮出来たんだとするならば、お爺様は潤平様の様に知らない間に、浄化の魔力を使えてたんだと思います」
「もしそうならば凄いと思います。普通の人が浄化の魔力を扱えるとは思いません」
「……そうですねお爺様は凄い人でした。祖父の名前はミツナリ、この国の英雄です。優秀な人で武勇も有りましたし、この国のサムライが束になっても適わない程強かった。常に現実に目を向けて、他人にも公平な人でした。私達にもちゃんと厳しかったのですが、しっかりと愛情が有りました。それにとても愉快なお人でした」
遠い目をしながらタマヨは自分達の祖父の話をする。
口ぶりから察するに、既にこの世にはもう居ないんだろなと、潤平は思った。
潤平はどこか自分の祖父と重ねて、タマヨの話を聞いていた。
そんな武勇を誇れる程の事は何もしてないが、立派に自分を育ててくれた祖父母が頭を過る。
「……凄い人だったんですね」
「……はい」
タマヨは潤平に視線を合わせると、何処か悲しそうな顔で笑った。
タマヨが自分の祖父の話をしてる間、ルリは静かに話を聞いており、ピー男爵は俯いてその表情が伺えなかった。
そして、ピー男爵の柔らかそうなふさふさの両手が、テーブルの下で力一杯握られてる事に、潤平は気付く事はなかった。
「でもそんな凄いお爺様と、ルリさんのお父さんが捕まった事と、屋敷が襲撃された事に何が関係してるんですか?」
「それはお爺様が亡くなった後の話に関係してきます。お爺様は凄い人だったんです、いえ凄すぎたの。お爺様が鎮魂祭の儀式を納めている間は、この国では何も起きませんでした。災害も疫病も飢饉も大きな戦争も、この国にとって辛い事件になる事は何も起きませんでした」
しかし彼が亡くなった後、この国を取り巻く状況は一変する。
「大雨による氾濫で田畑は流され、土砂崩れによって幾つもの村が無くなりました。主要な町で疫病が流行り、多くの人が亡くなりました。大雨と干ばつで作物も育たなくなり、家畜も人も亡くなりました。魔獣も凶暴化し獰猛に執拗に人を襲うようになりました。そして数年前にこの国に攻め込む国が現れました」
たった十年の間で、アズマの国を取り巻く状況は代わり、一人の男が亡くなった事で大きく、国の指針が壊れてしまった。
「お爺様の後を継いだ私達のお父様、現当主は優秀な人です。他の魔術師に比べても比類無き才能と魔力量を持っています。ですが先代の威光が凄すぎたのか、それとも大弓の力を発揮できないのか、この国にとって不幸な事が次々と起こりました」
この国の大貴族の当主になる、それだけでその人物がどれだけ優秀な人か、考えれば直ぐに分かる。
だが、純粋に力が足りないのかそれとも呪われてるのか、鎮魂祭の締めを同じ様に努めていても、状況は良くなるどころか益々悪くなって行った。
「そんな父様を他の有力貴族は罵り責任を追及してきました。一部貴族からは、我が家一族の締めの役目を下ろすべきだとゆう意見も出ました。そして父様はそれに反目するように、必死に鎮魂祭の儀式とこの国の為に働いてきました。それに父様には心強い味方も居ました。この国の将軍とお爺様の友人であり、同じ御三家であるモトマサ殿とナオイエ殿のお二人です」
この国を納めていると言っても過言ではない将軍様と、同じ御三家でミツナリと同年代ながら、今なお御三家の当主を勤め上げてるモトマサとナオイエ。
この三人が、同じ御三家であるタマヨとルリのお父さんを、決して孤立させない様に、他の有力な貴族からの声を和らげていた。
「お父様はこの国を守るため、我が一族を滅ばさないため、身を削って奔走して参りました。でも、数日前決定的な事件が起こり、父様は国家反逆罪で捕まる事になったの」
その事件が起きたことで、決定的となりタマヨとルリのお父さんは捕まり、現在この屋敷には当主が存在しなくなっている。
「将軍が病で急逝したの。これはまだ一部の人しか知らずルリにも喋っておりません。極秘扱いとなっています。そのせいで父様を守っていた大きな後ろ盾も無くなり、御三家の二人も流石に庇いきれなくなりお父様は捕まりました」
アズマを統べる存在である人が、病気で急死したごとにより、他の貴族からの責任の追及が一層強くなり、御三家の二人も圧力を止める事が出来なくなり、父親に逮捕に踏み切ったと。
「将軍の役目を継いだのは前将軍の長男です。若く能力もあり政治や外交能力にも長けていますが、しばらくの間は御三家の二人と他の老中が、国の舵取りをやる事でしょう」
そこまで言ってタマヨは唇を強く噛む。
「ですがっ、そんな事はどうでもいいのですっ。何故この国をあれだけ尽くした筈の父様がっ、こんな仕打ちを受けなければならないのかっ、それがとても悔しくてしょうがないっ! 父様は当主として立派に役目を努めていた筈なのにっ! 私はこれ程天を呪いたいと思った事はないっ!」
口から唾が飛ぶほど力強く語ったタマヨは、噛んだ下唇から血が出て、手には爪が食い込むほど力が込められていた。
「……お姉様」
そんなタマヨを見かねて、ルリはタマヨの手に両手を添えると、優しく寄り添う。
「…ありがとうルリ。これが潤平君の話を聞いて私が繋がっていると思った全てです。この屋敷が襲われたのは、他の貴族からの私達に対しての脅しでしょう。私達が折れればそれで良し、逆に奮起すれば捕まえる口実になる。どちらに転んだとしても奴らの思う通りでしょうから」
彼女達の父が捕まったのはいわゆる見せしめ、それと民からの圧力。
屋敷に届いた荷物は、タマヨ達を貶めたい他の貴族からの脅し。日頃からタマヨ達を貶めたいと思っていた貴族からすれば、当主が不在の今は絶好の好機に見えるのだろう。だから襲撃なんて馬鹿げた事もしてきた。
タマヨは顔を上げると、さっきまでの悲壮に満ちた顔付きとは違って、覚悟に満ちた顔付きで潤平を見てきた。
「先程私は天命を呪うと言いましたが、潤平君の話を聞いて、今ほど天に感謝をしたいと思った事はありません。とても自分勝手に聞こえますが、それ程運命とやらに感謝をしています」
タマヨは薄らと潤んだ目で、だけども覚悟を決めた顔で潤平に話をする。
「潤平君。とても自分勝手な事を言っているのは分かっています。それでもこのお願いを聞いてくれると助かります。どうか貴方の力を貸して欲しい。私達のお父様を救う力になってくれませんか?」
タマヨの顔から伝わる気迫のこもった顔に、潤平はどこか気圧されながらも、心の中では笑みが出て来ていた。
決して馬鹿にしてるつもり等はないが、タマヨの顔にどこか見覚えがあると思ったのだ。
(似ているな。ルリさんが俺に助けを求めてきた時の顔とそっくりだ、流石兄妹そっくりだ)
元より潤平の思いは決まってる。
やる事はただ一つ、この世界に来た目的淀みの魔力を浄化する事。その為に俺はこの世界に来ている。
「タマヨさん。俺がする事は決まってます、それはこの世界の全ての淀みの魔力を浄化する事です。その為に俺はこの世界に来ました。喜んで力になります」
そう潤平が返事をした瞬間、タマヨの目からポロリと涙が零れ頬を伝う。
張っていた緊張が切れたのか、潤平に何度もありがとうと嗚咽の混じった感謝をしながら、頭を下げる。
ルリも泣きながら潤平に感謝の言葉を言っている。
潤平は心に決める。
この国の淀みの魔力を無くし、目の前の泣いている可憐な姉妹を絶対に助けると。
「僕も力になるにゃ。僕からしても決して他人事ではないからにゃ」
いつもはおちゃらけてるピー男爵も今回は静かに話してくる。
「そうと決まれば、手を合わせて皆で誓うにゃ! ほら皆手を重ねてフミチーもやるにゃ! 絶対に当主を助けてこの国を守るんだにゃ! 行くにゃ! えいえいおーっだにゃ!」
前言撤回。やっぱりいつものピー男爵でしたわ。
しかもフミさんまで巻き込んでるし。
まっ良いか。これがピー男爵のやり方なんでしょうし。
泣きながらも笑顔が溢れてる二人を見て、潤平はそう思う。
願わくばこの可憐な女性達が二度と悲しむ事がありません様に。
潤平は心の中で静かに決意を固めるのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
皆さんの応援が日々の執筆の励みになっています。
もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたら、画面下の【★で称える】や【フォロー】をポチッと押していただけると非常に嬉しいです!




