第二十八話 使えない中級魔法
「取り敢えず、何の魔法が使えるにゃ?」
二人がいるところは、ルリ達が住んでいる本邸と使用人を繋ぐための通路、その通路の隣にある広大な中庭だった。ここには使用人が訓練をするための場所や器具が置いてあり、魔法を発動させても大丈夫な場所だった。
中庭に来た潤平とピー男爵の二人は、中庭の真ん中に来ると向かい合う形になると、ピー男爵は潤平に何の魔法が使えるのか聞いてきた。
「えっと、火魔法、水魔法、風魔法の初級と、鑑定と収納の魔法と、それに物を生み出す物質魔法と物を直す修復魔法かな?」
潤平は、今自分が使える魔法を指で数えながら、一つずつ思い出して行く。
思い返せば、前の魔法を作ってからしばらく期間が空いているなと考え、潤平は今度暇な時間が出来たらその時にでも新たな魔法を作ろうと考える。
「んんんん?」
「どうしたの?」
「何か変だにゃ。どうして原始の魔法が初級しか使えないのに、物を生み出す物質魔法と鑑定の高度な魔法が使えるんだにゃ。それに収納はスキルでしか使えない筈にゃ、修復魔法とか言うのも聞いた事ないにゃ。それも神様の影響なのかにゃ?」
「いや、俺が今使ってる魔法に関しては、全て俺が作った物で神様は何もしていないね。神様に貰った魔法は強いて言うなら前に話した通り、魔法を作れるスキルだけかな」
「何て贅沢なスキルなんだにゃ……。魔法ギルドの上層部と、魔法学院の人達が聞いたら白目向いて卒倒するレベルだにゃ」
「……やっぱ他に人に話したらまずいかな?」
「そうにゃね。間違いなく普通の日常を生きる事は不可能だと思うにゃ。一生地の果てまで追われて、捕まったら死ぬまで研究対象にゃ。まあその体が丈夫なスキルのお陰で、死ぬ事はないかもしれんが、そうなったら潤平にとっては地獄の日々になると思うにゃ」
「……うげぇ」
「まあルリチーもフミちーも口が堅いから大丈夫にゃ。タマヨはそれ以上に口が堅いし、何より情報の処理を分かってる女だにゃ。今の身内以外に広まる事はないにゃ。」
「……ピー男爵は?」
「…………僕も口が堅いから心配しなくていいにゃ」
「間っ! 間が長い!」
「まあその辺は心配するにゃ。それよりも潤平の使える魔法のアンバランスさが気になるにゃ」
「アンバランス? 何で?」
「本来なら鑑定と物質魔法は覚えれる物じゃないからにゃ。これらの魔法は極み魔法と言われていて、上級魔法の上に存在してるもんなんだにゃ。これらは一部地域の口伝で伝わっていたり、血の繋がりがある人しか使えなかったり、使える人が稀なんだにゃ。そして原始の魔法の極み魔法ともなると、災害を起こすレベルになってくるんだにゃ」
「うん」
「それなのに、潤平は原始の魔法が初級しか使えない。これはとてもおかしな事なんだにゃ」
「ちょっとごめん。その原始の魔法って何なの?」
「あーそうかにゃ、知らないんだなにゃ。原始の魔法はと言うと、この世界にいたと言われる最初の魔法使いが、妖精に教えて貰って使ったと言われる魔法だにゃ。その者は、火の妖精に火を分けて貰い、水の妖精に水の出し方を習い、風の妖精とどもに舞い、鉄の妖精に打って貰い、光の妖精に癒して貰ったと言われているにゃ」
「火、水、風、鉄、光、五つの魔法が原始って言われてるのか」
「そうにゃ、原始魔法は初級ならば魔力を実感した時に、その魔法の適性があれば使えるにゃ。火の魔法の適性があれば、火魔法の初級が使えるにゃ。指から火を出したり、小さい火球を出したり等がこれに含まれるにゃ」
「ふんふん」
「そして中級になると、ちゃんと人から教わらなきゃいけなくなって来るにゃ。ここから殺傷能力があったり、人を助けるための魔法になって来るにゃ。その上にあるのが上級魔法で、これは中級魔法を長年極めた物と、それに値する魔力量を持っている者が使えるにゃ。後は才能にゃね。上級魔法を使える者は少なく、大抵の人が中級魔法を使ってるにゃ」
「因みにピー男爵は何を使えるの?」
「よくぞ聞いてくれましたにゃ。僕は光魔法の上級が使えて、他の原始魔法は中級と初級が混じってるにゃ。でもそれを補えるほど、光魔法の種類は多いんだにゃ。傷を治すのは勿論、欠損も直せるし毒をくらっても直せるにゃ。それに盾の魔法が優れていて、どんな攻撃も通さないにゃ。」
「ああっ、いつかの猫の肉球の盾ってピー男爵のだったんだ」
「そうにゃ。自慢の盾だにゃ。それにもう一つ自慢の魔法があるにゃ。」
「それは何?」
「それはにゃ、…………秘密だにゃ」
「…………はぁ?」
「大事な情報はそう易々と言うもんじゃないにゃー。知りたかったら僕ともっと仲良くなるんだにゃ」
そう言ってピー男爵は煽るような顔で潤平を見る。
その表情を見た潤平はイラッとしたが、ある方法が思い付いてそれを実行する事にした。
「ほ、ほ~ん。仲良くなったら教えてくれると?」
「そうにゃ、僕は安い男じゃないんだにゃ」
「そうか、それならこれでどうだっ!」
潤平は、ピー男爵との間にあった距離を一瞬で詰めると、ピー男爵の胴体を一瞬で掴み、そこをくすぐる様になで回した。
「おりゃおりゃ、これでどうだっ」
「うにゃにゃにゃっ、やめっ、止めるにゃっ、うにゃにゃにゃっ、苦しいっにゃっ」
「なら言え、今すぐ言えっ」
「わかっ、分かったにゃ。うにゃにゃにゃっ、離すっにゃっ」
一分間程続いたじゃれ合いは、潤平の勝利で幕を閉じた。
「んもー、これを知ってるのは極一部の人だけなんだけどにゃ」
ピー男爵は立ち上がると、転がり回った事で体に着いた砂埃を、パンパンと手で弾いて落としている。
その行動の元となった潤平は、胡座をかいてピー男爵を、見ていた。
「僕は二つの極み魔法が使えるにゃ。それは『騎乗魔法』と『収縮魔法』だにゃ」
「何それ? 何かに乗ったり物を縮めたり?」
「『騎乗魔法』は生き物に乗るとその生き物を事由に操れるんだにゃ。まあ限度があったり相性があったりするけど使える魔法にゃ。そして『収縮魔法』は僕の体を事由に縮める事が出来るにゃ。これが結構便利で使い勝手がいいんだにゃ」
「へえ~、中々良さそうな魔法だね」
「そうにゃ。二つとも知ってる人が少ないんだから、絶対に極秘だからにゃ」
「分かってるって、そっちもだからね」
「にゃあ。…………んで何の話をしてたっけ?」
「えーとっ、原始魔法が分からなくて……じゃなくて、俺の使える魔法のアンバランスについてかな」
「そうだにゃ。それで君の使える魔法はおかしいんだにゃ。人に教わる中級魔法を超えて、極み魔法を使えてるのは変なのなんだにゃ」
「そうかー。まさかそんな感じだとは思いもしなかったよ。てっきり初級魔法を使ってれば勝手に中級魔法に上がるもんだと思ってたから、中級魔法を教わるとかゆう発想はなかったよ」
「まあ、大抵は近しい人が教えるからにゃ。この世界に知り合いがいなかった潤平が知らないのも無理ないにゃ」
「……それってさ、教わるって言うけど俺の場合、魔法を作れるんだから作れちゃったりしない?」
「ん~どうなんだろうにゃ。教えるとゆう過程が必要な以上、出来ない気もするし極み魔法が作れたなら、出来ちゃう気もするにゃ」
「物は試しだ。やってみるか」
潤平は久々に『魔法創造』のスキルを使い、魔法を作ってみる。
願うのは火の中級魔法、それを作れるよう頭の中でイメージする。
やがて体から、魔力がちょっと抜けた感覚がすると、どこからともなく一粒のチョコが落ちてきて、潤平はそれをキャッチして手のひらの上で転がす。
見るからに只のチョコボールだが、これを食べると創造した魔法を使える様になる。
「何にゃこりゃ、うんち?」
「違うわっ。これは俺の世界にあったお菓子っ」
いつの間にか、潤平の肩に乗ったピー男爵が、手のひらの上にあるチョコボールを見て、うんちと言いやがった。
チョコボールを作ってる会社に謝れっ。
「これを食べると、俺が創造したとおりの魔法が使える様になるんだよ。今回創造したのは、火の中級魔法だからそれを使えるようになるかな」
「ふーん。火の中級魔法の何をにゃ?」
「えっ、だから火の中級魔法だよ」
「火の中級魔法を使える様になったからと言って、何を模した魔法を使える様になるにゃ?」
「だから……、例えば?」
「例えば、剣や槍を模した魔法が使えたり、遠距離の弓や大砲を模した魔法も作れるにゃ。それに生き物に模した魔法を使う人もいるにゃ。その上でどの魔法を使える様になるにゃ?」
「…………」
「もしかして、只中級魔法を作っただけで何かをイメージするまでは考えていなかったのかにゃ?」
「……やばい」
「これはどうなんだにゃ、中級魔法を作った事実はあるのだがにゃ、それを使うための何かを模したイメージがない以上、成功したとは言い難いのかにゃ。」
「そんな筈は……、だって神様に貰ったスキルなのに」
「やっぱり誰かにちゃんと教わるとゆう行為が必要なんだにゃ」
そう言って、ピー男爵は優しく潤平の肩を叩いてくる。
「まあ気を落とすなにゃ。中級魔法は修得するのに一年は掛かるのにゃ。その分時間を得したと思えばいいにゃ。まあ、僕は火の中級魔法は教えれないけど、きっと誰かが助けになってくれるにゃ。何なら風の中級魔法なら教えれるにゃ、覚えるだけなら直ぐなんにゃし。」
「……後で良い」
思わぬ落とし穴に落ちて、潤平はテンションがガタ落ちする。
折角格好いい魔法が使えると期待していたのに、その夢が急な所で無くなって絶望した。
潤平は、手のひらに乗ったチョコボールを勢い良く口に入れるとそれを味わう。
心なしか甘い筈のチョコが少し苦みが強い気がした。
「そういや、忘れてたけど魔法の出力媒体はどうするにゃ?」
「……出力媒体? 何それ?」
「そうか~、それも知らないのかにゃ~。出力媒体とは、魔法を効率良くそれも素早く出すための道具の事だにゃ。例えば、杖だったり指輪とか腕輪だったり、取り敢えず身に着ける道具の事にゃ」
「ああ、杖の先から出したりするやつの事ね。映画とかアニメで有るやつ」
「えいが? アニメ? 取り敢えず何か無いのかにゃ?」
「う~ん、今の所何も無いなー。あっ! 収納の中に槍があるけどそれは使える?」
「使えなくも無いけど、潤平が槍術を出来るかどうかだにゃ。使えないなら只の棒と一緒にゃ」
「じゃあ何もないや」
「そうかにゃ、ならそれも後で買わなきゃいけないにゃ」
「覚えとく、魔法の出力媒体ね。てかそんな難しい言葉良く知ってるね」
「知ってるも何も、これも魔法ギルドを作った過去の偉人が使い出した言葉にゃ、その人が魔法を行使するには、道具を使うのが適切だと唱えたのにゃ」
「はえー、何でも作ったんだね昔の人は」
「そうにゃ凄いんだにゃ。そうだにゃ! 試しに僕の出力媒体を貸すから、何でもいいから魔法を試しに出してみるにゃ」
「おっ、良いの?」
「うんにゃ」
そう言って、ピー男爵は自分の胸にぶら下がっていたペンダントを外して潤平に渡す。
チェーンで繋がったペンダントは真ん中に、青い宝石が繋がっており輝きを放っていた。
「それを持って、何かの初級魔法を唱えてみるといいにゃ。そうだにゃ~火魔法は危ないし、風魔法は吹き飛ぶ危険があるから、水魔法を唱えてみるにゃ」
「分かった」
言われた通り首に着けようとしたが、サイズ的に付けれなかったのでペンダントを握って水の初級魔法を唱えてみる。
『水球』
手を前に突き出して水球をイメージすると、みるみると何も無いところから水が集まって来て水球の形を成していく。
それは一瞬で乗用車以上の大きさになると、止まらずにどんどんと大きくなっていく。
まだまだ膨れ上がっていく気配に潤平は冷や汗を垂らす。
「これはちょっと……」「まずいのにゃ……」
見ていた二人が危険を察知した頃、魔法の出力が終わった水球は潤平の手から放たれようとした。
潤平は危険を感じて、水球が放たれる直前に手を真上に上げると、その動きに合わせて水球がドタプンと動いて、空に放たれる。
水球はそのまま空に昇って行くと、ある一定のラインを超えて爆発して空に散った。
辺り一面に勢い良く降る急な土砂降りに、二人はポカーンと空を見上げる事しか出来なかった。
もしあのまま正面に打っていたら、ピー男爵を巻き込んで屋敷も吹き飛ばして、大事故になっていた事だろう。
びしょびしょになった男二人が、そこら中に水溜まりを作って、びしょびしょになった光景を見て呆けている。
二人のやっちまったとゆう気持ちとは裏腹に、空には綺麗な虹が架かっておりそれが虚しい気持ちを加速させる。
そこに女性の怒声が割り込んでくる。
「何の騒ぎですかっこれはっ!?」
屋敷の方から聞こえてきたその声は、今し方起きた魔法の行使とそれに伴う爆音、それと庭と屋敷の一部をびしょびしょにしてしまった、その原因を探している声だった。
潤平が恐る恐る大声がした方を見ると、屋敷の軒の下には綺麗な女性が立っていた。
綺麗に切り揃えられた黒髪が、肩の辺りまで伸びていて前は邪魔なのかこめかみの辺りで前髪をピンで留めている。
耳にはピアスを付け、軽く化粧していて唇には薄い紫色の口紅が付いていた。
綺麗な女の人なのに、濃紺の袴を着ていてまるで男の様な格好をしているのが目に付く。
だが一点だけ、左のこめかみから頬にまで、大きな傷跡が付いておりそれが綺麗な顔と相まって、目立って見える。
だがそれを隠しもせず、堂々とさらけ出しているとゆう事は、本人は気にしてもいないとゆう事だろう。
その女性は、びしょびしょになった中庭と屋敷の一部をぐるりと見渡すと、ぐりんぐりんとピー男爵と潤平を交互に見て、どちらに原因を追及するか見定めていた。
若干ピー男爵の方に、視線の重きを置いているとゆう事は、初対面の潤平に聞くよりピー男爵の方に聞いた方が、いいだろうと判断しての事だろう。
「ピーとそれと貴方、騒動の話を聞きますから着いてきなさい」
そう言って体を翻すと、二人を待たずに屋敷の中に消えていく。
ピー男爵はやっちまったにゃー等と言いながら、濡れた体で廊下に上がろうとする。
潤平も遅れて、廊下に上がろうとするするが全身がびちょびちょになっているので、どうしようかと思い止まっていると。
「早く来なさい」
二人がもたもたしていると焦れた女の人が、見かねて冷たい声で急かしてくる。
そう言われても、急ぎたい気持ちがあるがと悩んでいると、スッとフミさんが二人に、濡れた体を拭くための大きな手拭いを差し出す。
二人はフミにとても感謝すると手拭いで濡れた体を急いで拭く。
まだ若干濡れているが、水が滴らなくなった程度にはなったので首に手拭いを掛けて、女の人に続いて屋敷の中を歩く。
女の人はある部屋の前で止まると、そこに入って行き上座に座る。
「座りなさい」
潤平とピー男爵は少し離れて下座に並んで正座する。
一瞬で潤平は部屋を見渡すが、無骨な部屋で掛け軸と少しの置物と刀がす絵本が架かっているだけで、他には何も無い部屋だった。
只目についたのは右の隣の部屋に、大きな弓が飾られているくらいで、他に気になった事は何もなかった。
「それで、あの騒動を起こしたのはどちらなのですか?」
冷たい声でそう言われ、身が竦むような気分になり、潤平はちらりと助けを求めるようにピー男爵を見る。
だが彼は、いつもはペラペラとうるさいのに今だけは静かになっていて、しかも額に汗までかいている。
それだけ見れば、今の状況がどれだけやばいか直ぐに分かった。
ちらりと女の人を見ると、冷たい視線で二人を見下ろしてきてる。
潤平は正座をしながら心の中で、どう説明しようかと必死に考えを巡らせる事しか出来なかった。
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