↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界、遺します ~天涯孤独となった俺に亡き祖父母が『異世界』を遺してくれた~  作者: 鏑右いなだ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/86

第二十五話 約束の報酬

 意識を失ったスミレを抱えたまま、潤平はルリに連れられて奥の来賓用の部屋へと通される。

 その際、他の使用人の人が潤平からスミレを引き受けると、大事そうに抱えて別の部屋に消えて行った。


 部屋の中は和風な感じで、高級な旅館を彷彿とさせる様子だった。部屋の真ん中には大きな木を切り出して作ったテーブルが置かれていて、その周りに刺繍が施されていて色合いが奇麗な座布団が置かれている。

 その他にも壁に飾っている掛け軸や、置かれている装飾品なんかも非常に高価な物なんだと思わせるようなオーラを出していた。


 ルリがテーブルの前に座ったので、潤平とピー男爵も同じ様にルリの向かい側に座る。

 

 大きな一本の木を削り出して作ったテーブルは、とても年期が入っているのを感じられた。

 素人の潤平から見ても一目見て、見事な逸品だと分かる位高級そうな雰囲気を醸し出していた。

 何だか、今自分の尻の下に敷かれている座布団に座るのがとても忍びなく感じてきた潤平だった。


 そこにこの家の使用人の人が、潤平とピー男爵の目の前にお茶と何かのお菓子を出してくれる。

 潤平は少し躊躇ったが、隣のピー男爵はすぐさまにそれにありつき美味しそうにお茶菓子を食べていた。

 それを見て、せっかくの厚意を無駄にするのも申し訳なくなり、潤平はお茶を口の前に運ぶ。


 飲む前に、香しいお茶の香りが鼻から入って来て、それだけで美味しいお茶なのだと分かる位、良い香りが鼻から抜ける。

 大声を出した事と緊張していたのか、思っていたよりも乾燥していた口の中にお茶を運ぶと、適度に温められたお茶が、潤平の乾いた口内を潤す。

 一気にお茶を飲み干すと、美味しかったのか口から自然と息が漏れる。


 いきなりの出来事に慌てた潤平の乾いた口と心を、美味しいお茶が癒やしてくれる。

 落ち着いた事で潤平は、ようやくルリとの会話に心の余裕を持てる位回復する。


「落ち着きましたか? 温かいお茶を飲めば自然と心も安らぐと言うもの。まずは一旦私も潤平様も落ち着きましょう」


 そう言って、ルリは疲れた顔を誤魔化す様に、無理に作った笑顔を潤平に向けていた。


「それで、何があったのでしょうか?」


 幼いながらも真面目な顔つきで、先程起きた事件の事の説明を、求めてくるルリの姿勢に潤平はどう説明しようか考えていた。

 

 配達人が配達した木箱から、かなりの濃さの淀みの魔力が噴出していて、それを受け取ろうとしたスミレさんが危険だと思い、咄嗟に大声を出して危険を知らせた。

 その際スミレさんを守って、木箱とその中身を処理したのは良いが、配達人は逃がしてしまったと。

 その際何故か浄化の魔力をスミレさん流した所、気を失って倒れてしまったと、これが先程起きた事の全容であると。


 しかし神様に貰った浄化の魔力と、淀みの魔力を説明した所でルリにそれが分かってもらえるのか、そしてその魔力はいったい何処から生まれてきているのかとか、深掘りされたらどんどんと他の事も説明していくしなきゃいけなくなる。


 果たして、そこまで説明していいものかと。

 まだ知り合って、少ししか経っていない人に自分の正体を話しても良いのかと。


 それに神様は言っていた。

 この旅路には危険が伴うと、それをこの目の前の少女に打ち明けていいのか、それを言ったらこの娘も危険に晒されるのではないかと。

 潤平の中に複雑な思いが巡って喋ろうとするか口が重くなる。


 どうすればいいのか分からなくなった潤平は、縋るように隣のピー男爵を見たが、彼はお菓子が無くなった空の皿を舐めるのに夢中で、此方になど見向きもしなかった。

 彼から視線を外すと、今度は正面にいるルリに視線を向ける。  


 彼女は、只々真っ直ぐな目をして潤平を見つめており、その目に潤平は少し気圧される。

 ルリの考えてる事など分かる筈もないが、その目からは、説明をしっかりとしてほしいと強く聞こえて来た気がした。

 

 思えば潤平は、自分の胸中を誰かに打ち明けるなんて事をした事がなかったので、素直に胸の内を打ち明ける事が出来なかった。

 じいちゃんばあちゃんにも、思春期だった事もあって悩み等を言うことはなかった。


 それを今、自分よりも年下の少女に話す事を躊躇っている。

 取るに足らないプライドが邪魔をして、ただ起こった事を説明すればいいだけなのに、余計な事を考えて話せずにいる。

 そして潤平はそのプライドを手に取り、話を掻い摘まんでそして誤魔化して説明しようとする。


 口を開こうと顔を上げた瞬間、潤平の目に飛び込んできたのは、ルリの体が震えている光景だった。

 それだけではなく、口元も力が入りすぎていていて、首筋に筋が立っているの見えた。

 きっとテーブルの下では手に物凄い力を込めて真っ白になっているだろうと予想が出来た。


 それを見た潤平は自分の考えの浅はかさを呪った。

 彼女は自分の家臣の身に起きた事を、全部素直に説明して欲しいのだ。

 大事な家臣の身に何が起きたかを知りたくて、当事者の潤平に説明を求めてるのだ。


 それを気付いた瞬間、ピー男爵の言葉が頭を過った。

 

 話せば通じる。

 ただそれだけの事なのに、何を言い淀んでる暇があるのか、大義とか使命とかそんな物に拘るな。

 目の前には、自分の身内の安否が心配な少女がいるのだから、全て話してしまえばいいんだ。


 そう思ったら、潤平の口から自然と言葉が出て来た。


「二人は神様って信じてる?」


 これには、潤平の言葉を今か今か待っていたルリも呆気に取られる。

 ピー男爵に至っては、必死に舐めてい皿をテーブルに落としている。


「…………何を言ってるんですか?」


 数秒時が止まると、ルリが言葉を発した。


「……神様が……えと、え?」


「俺は信じてる。何せ実際にあったから」


「本当に何を……」


「ごめん、でも本当のことだから」


 そう言い切って、潤平は自分の事を話した。

 ある使命を持ってこの世界に来た事。

 淀みの魔力がこの世界を浸食していて、それを消すために浄化の魔力を授かった事。

 世界中の淀みの魔力を探していて、その途中で盗賊に絡まれて暴れた事。

 そのお陰でルリ達と出会った事。

 淀みの魔力の手掛かりを探してこの都に来たこと。


 全てを話して、そして先程スミレの身に起きた事件の事を説明した。


「そして淀みの魔力に、スミレさんが汚染されてると思ったから、浄化の魔力をスミレさんに施したんだ。そしたら何故か気を失ってしまった。これがさっき起きた事件の全てです」


 潤平の説明を聞いたルリとピー男爵は黙ってしまった。

 潤平は一通り説明した事で、また喉が乾いてしまいお茶を飲もうとするが、先程飲み干した事を忘れており、湯飲みの中は既に空だった。

 湯飲みを置いて、手持ち無沙汰になった潤平は、話を聞いて黙ったままの二人の反応をじっと待った。 


 以外にもピー男爵が先に口を開いた。


「納得がいったにゃ」


「……何の?」


「潤平の周りが居心地がいい理由が。浄化の魔力の影響で魔力を持った全ての生き物に、心地良さを感じさせると言ったにゃ?」


「うん、そうだね」


「それは僕なんかは、もろに影響を受けてしまうにゃ。妖精の血を引いてる僕らは澄んだ魔力を好むにゃ。それが潤平の体内にあるという事は、物凄い影響を僕は受けてる筈にゃ」


「確かに、その話を聞くと妖精の人達はかなり影響を受けるね」


「なーるほどにゃ。通りで居心地が良いわけだにゃ、納得納得」


「……それだけ? 他には言いたい事無いの?」


「別に? 神様から使命をもらった男の子が世界を救うんだろ? 格好いいじゃにゃいか。救ったろうぜ世界を」


「こんな話を信じるの……?」


「まあ祖父母に世界を救えとか言われた、って言ってた時は何を言ってんだこいつは、とか考えてたけど話を聞く限り、本当の事だから信じるしかないにゃ」


「そんな事思ってたのか……」


「やったろうぜっ! 男の子は世界を救ってなんぼだにゃ!」


 そう言ってピー男爵は机に乗り、格好いい決めポーズをする。


「机に乗るな」


「はいにゃ」


 潤平が注意すると、ピー男爵はすごすごと座布団に座り直す。


「……私もその話を信じます」


 それまで潤平とピー男爵が会話をしてる間、黙っていたルリが潤平の話を信じると宣言した。


「潤平様が時折話す自分の事。それらは少し嘘くさいと感じていましたので」


「そう……なんですか」


「それに『収納』スキルを持っていたい事も隠していましたし」


「隠していたのではなくて、忘れていたんです……はい。それにスキルではなくて、収納は魔法で作りました……」


「…………聞けば聞くほど不自然な事が多々ありました。この国の事も何も知らなかったようですし。…………潤平様が不思議そうに見ていた魔法ギルドの前に建っていた銅像の人は誰か分かりますか?」


「えっと……、…………分かりません」


「やはり……」


「知らないのかにゃーー!!」


銅像の人物について聞かれて、潤平は答えられずその答えに、ルリは呆れてピー男爵は驚いた反応をする。


「この国を作って、魔法ギルドの創設メンバーの一人に数えられる、ウノハタノカミを知らないなんて、子供でも知ってるのにとんだモグリだにゃー」


「魔法の礎を築いた賢人の一人で、この国を興した偉人の名前も知らないとは、歴史を見れば必ずと言っていい程出てくる人物ですよ?」


「……すいません、知らないです」


 すっかり縮こまってしまった潤平に、ルリはこれ以上追求する事はなかった。


「そのちぐはぐさが少し怪しいと感じてもいましたが、同時に盗賊から助けてももらった、とゆうのも事実なので私とフミは潤平様を信じて、あまり深くは追求しませんでした。まあスミレとヨリは遠くから見ている感じで、信用しきってはいませんでしたけど」


「そうのなか……。だから二人からは少し距離を感じていたんですね」


「はい。まあ早い段階から潤平様が悪人だという線は無くなっていました。何せ悪人にしては行動がおかしいんですもの。フミも言っていました。全てが楽しそうに見えていると。ですからスミレとヨリも少しは信用していたと思いますよ」


「俺、そんな風に見えてますか?」


「はい、この世界の全ての事が、まるで目に映る世界の景色が初めて見たかの様な赤子みたいな目をしてましたから。」


「確かに、都に入る前からたかだか建っているだけの外壁何かを、しばらく眺めていたもんにゃー」


「良いじゃん、初めて見たんだから」


「フミも、あんなに楽しそうにしている人が、悪人等とは考えづらいと言っていましたので、私達は潤平様を信じています。それに神様から使命を与えられた人物が、その様な人とは思えませんから。なので潤平様の話を信じます」


 ルリは真っ直ぐな目つきで、そう潤平に言い切った。

 これには、潤平も何とも言えない気持ちになる。

 何だろう、もにょもにょするとゆうか、むずむずするとゆうか、心を優しく撫でられてる様な気持ちになる。


「二人ともありがとう……」


「いいえ」


「何のにゃー」


 潤平は何だか恥ずかしくなり、取り敢えず二人にお礼を言った。


「お礼を言うのは、寧ろ私の方です。説明された通りならば、スミレの命を救ってもらったのですから。またしてもお礼を申し上げねばなりません。スミレに代わってですが、助けていただいてありがとうございます」


 そう言ってルリは頭を深々と下げる。

 その際綺麗に切り揃えられた、黒髪がさらりと垂れてくる。


「いえそれが俺の役目ですから、それにもっと早く淀みの魔力に気付いていれば、こんな事にならなかったかもしれないですし、木箱を持ってきた配達人も逃がす事もなかったと思います」


「そんな事はないです。潤平様は十分に仕事を果たしてくれました。それ以上言うのは高望みとゆうものです」


「いえそんな……」 


「一旦ストップにゃっ。二人がそんな事を言い続けていたら、一生感謝の押し付け合いだにゃ。それよりも誰がこんな事をして、何が起きてるのか話し合ったほうがいいにゃ」


「……確かに」「……ですね」


 潤平とルリはお互いを見ると、恥ずかしそうにはにかむ。


「それで取り敢えず、スミレは何で気を失ったのかにゃ? 潤平の話では、淀みの魔力に触れていないとゆう話だったのににゃ」


「それが俺も良く分かんないだよね。淀みの魔力には触れてはいないと言えるし、外傷もないと思うし。ちょっと分からないごめん」


「そうかルリちー、お医者さんは呼んでいるのかにゃ?」


「はい先程使いを走らせましたが、まだしばらく掛かると思います」


「ならそれを待つより僕がスミちーを看るにゃ。そっちの方が早いにゃ」


「そうですね、そちらの方が良いと思われます」


「そうかそう言えば……」


「そうにゃ。僕はこう見えても中々の回復要員なんだにゃ。今から来るお医者さんがどの位かは分からないが、十分に役に立つと思うにゃ」


「はい。ピー様の腕の良さは重々承知しています」


「となると、後は何故こんな事が起きたかたがにゃ。どうしてスミちーが狙われたか、何かルリちーは心当たりがあるかにゃ?」


「……はい。その事何ですが潤平様、今話した内容を私の姉にもう一度話してもらうことは可能ですか?」


「お姉さんに?」


「はい。私の姉はこの国の第二師団の団長を務めているのですが、父が捕まった件とスミレが襲われた件は、無関係ではないと思われるのです」


「でもルリさんのお父さんは国家反逆罪なんて、大きな罪で捕まったって聞いたけど」


「それが姉の調べでは、どうやら誰かに嵌められた可能性があるとゆう事らしいのです。そしてその嵌められた件がどうやら、スミレが襲われた事件と繋がりがあるような気がしてきたのです」


「そこにどんな繋がりが?」


「それはまだ不明ですが、きっと姉もこの話を聞いてくれたら、繋がっていると考える筈です。なので潤平様が打ち明けてくれた話を姉にして欲しいのです」


「成る程。お姉さんは今どこにいるんですか?」


「お姉様は、父上の弁護に奔走しているのと、都の風紀に勤しんでいるので、今は第二区画の議会堂に居るはずです。帰ってくるとすれば、夜をまたいで朝になると思われます」


「それまではここで待機ですか」


「そうなります。何が起きるか分からない以上、無闇に動き回るのは得策じゃありません」


「分かりました」


「とゆう事は、やっぱりそうするしかないんだにゃー!」


「うわっ、急に何なんだよ」


「さっき話してたにゃ、ルリちーの護衛の件にゃ。延長した方が絶対に良いにゃ!」


「あ、ああ、その事ね」


「延長とは……?」


「えとそれがね、ピー男爵がルリさんの護衛の仕事の延長をした方が良いんじゃないかって。人手は足りてないし、腕の立つ奴は幾ら居ても困らないからって」


「それと、二人とも気心が知れてるからにゃー、そうした方が良いと思うにゃー」


「成る程……」


「でも状況がさっきと違うじゃんか……」


「いえ、良い案だと思います。」


「えっ」


「この屋敷にまで、魔の手が伸びてきてるとゆう事は、何処に居ても襲われる可能性があるとゆう事。ならば護衛は居てくれた方が助かります」


「でもそんな簡単に良いんですか……? ほらこの家の家主とかに確認しなくても……」


「今は私が家主となっております。姉が帰ってくれば姉が家主となりますが、後で話を通しておけば宜しいでしょう。それに今から知らない者を雇うよりも、状況を知っている潤平様の方が色々と助かります」


「あっ、良いんですね」


「勿論、潤平様が承諾をしてくれればですが。食料と私達が出します。住処はこの屋敷のお部屋の一角を与えます。それでどうでしょうか?」


「まぁ良いですけど……」


「あっ! そう言えば今までの報酬と感謝の印を渡しておりませんでしたね! 誰か!誰か!居ませんか!? 私の部屋から袋を二つ、大至急持って来てくれますか?」


 ルリが大声で廊下の奥まで消えるように叫ぶと、襖の奥から誰かがトントンと急いで動くのが聞こえ、数十秒するとフミさんが袋を二つ持って来てくれた。


「まず小さい方の袋が護衛の分の報酬。そして大きい袋の方が私達四人を救って貰った分の報酬です。どうぞおうけとり下さい」


 そう言うと、テーブルの上に袋が二つ置かれ、潤平の目の前に差し出される。

 中からはジャラリと硬貨の音が聞こえた。


「これが報酬ですか……?」


「はいどうぞ受け取って下さい」


 ルリは柔和に笑ってそう告げた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。