第二十三話 似たルーツ
「うにゃん♪ うにゃん♪ うにゃん♪」
馬車に乗り揺られながら、潤平とルリとフミは窓の外の景色を静かに眺めている。
御者には前みたいにスミレとヨリが乗っていて馬車の手綱を握っている。
そこに楽しそうな猫の鼻歌が流れて来て、車内はゆったりとした空気が流れている。
この空間に新たに加わった人物である彼は、器用に二本足で椅子の上に立ち窓の外を眺めている。
彼の名前はピー男爵。二本足で立って喋る猫である。
何故彼がこの車内にいるのか、それは数十分前の事。
※
「何で君がここにいるの!? カントウさんに付いて行くんじゃなかったの!?」
不意に足下から聞こえてきた声に反応すると、そこにはカントウさん達と共に居たピー男爵が立っていた。
「何で!? もうカントウさん行っちゃったよっ!?」
潤平がカントウさん達が向かった方を指差すも、ピー男爵は気にしていない様子で、逆に指を何度も振って自分がここにいる理由を話してくれた。
「にゃっにゃっにゃっ、それは君の勘違いだにゃ。確かに僕はカントウさん達と一緒に過ごしていたがにゃ、それは偶然乗せてもらっただけで最初から旅のメンバーではにゃかったんだにゃ。だから乗せてもらう代わりに護衛兼回復要員として都まで付いて行く予定で、元々ここでお別れだったんだにゃ、それを少し速く馬車の中でお別れを済ましただけだにゃ。なので今僕がここにいても問題にゃいんだにゃ!」
「えっ、じゃあこれからどうすんの?」
「君に付いて行く事にしたにゃ!」
「まじ何でっ!?」
「そっちの方が面白そうだからだにゃー!」
「まじで何でっ!?」
「いいにゃん、減るもんじゃにゃいんにゃし。きっと僕らが出会ったのも偶然じゃにゃいんだにゃっ!」
あまりにも自由すぎるピー男爵の発言に、潤平は彼の行動型理解出来ず固まったまましばらく動かなくなる。
「それ行けーっ!!」
そんな潤平の気持ちも知らず、ピー男爵は元気に勢い良くルリ達が乗っている馬車に飛び込んで行く。
「それに君に付いて行く事だけが理由じゃないんだにゃ。ね、ルリちー」
「……」
「あ? どういう……、二人は知り合い……?」
「久々の里帰りだにゃー!」
「潤平様。大丈夫なので乗って下さい、参りましょう」
「~~~~っ! ……分かりました乗りますっ」
そうしてピー男爵が新たにこのメンツに加わったとゆう訳である。
そして今に至る。
出発して以来馬車の中は変な空気感に包まれていた。
都に入って以来とゆうものの、ルリから発せられる雰囲気が重苦しくなり、それに続いてフミ達もルリを刺激しない様に慎重に接している気がするのだ。
そこに新たに加わったピー男爵の快活さもあって、車内はアンバランスな空気感が漂っている。
この空気の中で、潤平はルリにピー男爵とは知り合いなんですか? とは聞けない気がして何か別の話題がないか必死に頭の中で模索していた。
思考を巡らせながら窓の外を眺めていると、不意に外の風景が変わった事に気付く。
しかもその風景は、潤平が何度も見た事のある風景で、潤平は今考えていた事も忘れて、その風景を見てテンションが一気に上がった。
「田園だーーーーっっっ!!!」
人々が行き交い賑わっていた商業区を抜けた先に広がっていたのは、何処までも続く見事な田園風景だったのである。
潤平にとっては物凄く馴染み深い、自分が生まれ育った日本で何度も見ていた田園を目にした事で疲れも忘れて景色に没頭する。
しかも水が張られていて、今正にこれから稲を植えるとゆう時期らしく、あちらこちらでこの国の米農家さんが稲を植えるため腰を曲げて作業していた。
潤平はその姿に心が何だか温かくなる気がして、自然と顔が綻んだ。
「にゃにゃ!! この風景を初めて見た他の国の人達は皆びっくりするとゆうのに、何で潤平は田園を知ってるんだにゃ!?」
「…………」
潤平の思ったよりも違う反応にピー男爵は違う意味で驚き、ルリは静かに潤平の様子を観察している。
二人の反応を見て潤平は慌てて誤魔化す。
「あー! それが前にちらっと知り合いから聞いた事があって、この国の都には綺麗な田園風景とゆうものがあると……。えへへ」
「そうだったんだにゃー! それは良いことを聞いてるにゃー!」
「………………」
簡単に潤平の言い訳を信じてくれたピー男爵とは対象に、ルリはただ静かに懐疑の目を潤平に向けてくる。
(ううっ、居心地わるいよぉっ)
潤平がルリの視線にいたたまれなくなっていると、ピー男爵は二人の様子を気にせず、田園風景の素晴らしさを喋ってくれる。
「今も十分綺麗にゃんだがにゃ! これがある時期になると稲穂いっぱいの黄金光景が広がっていてにゃ、それもそれで綺麗にゃんだにゃ! それに冬になるとにゃたまに雪が積もったりしてにゃ一面が銀世界になるんだにゃ! それもとても面白いんだにゃ!」
(ええ、ええとても良く知ってますとも)
潤平は心の中で、ピー男爵の言葉に首が千切れんばかりの速度で頷いていた。
そんな潤平を知ってか知らずか、ピー男爵は喋り続けている。
「昔そんな時に兄弟と隠れんぼしてにゃ、僕らはすぐ見つかったんだけどにゃ、弟がにゃ白毛だったもんで誰からも見つけて貰えず、行方不明騒動を起こした事があったんだにゃ。懐かしいにゃー」
(おっ?)
「ピー男爵って兄弟居るんですか?」
「居るにゃー、上に一人、次が僕、次に妹が二人続いて、後は弟が二人いて、計六人兄弟だにゃ」
「へぇー、仲は良いんですか?」
「んー、まあまあだと思うにゃ喧嘩もした事もあったけど、そんな事はすぐに忘れてしまうにゃ、だから皆兄妹仲は悪くないと思うにゃ、潤平は兄妹が居たのかにゃ?」
「ああ~俺は一人っ子だった。物心付いた時には両親が亡くなっててじいちゃんばあちゃんと暮らしていたから、兄姉とかとは縁がなくて」
「む。それは失礼な事を聞いてしまったにゃ、謝るにゃ」
「いいのいいの、そんなんでも楽しく育ったから。」
「そうなのかにゃー、そう言えば血は繋がってないけどルリちーとルリちーのお姉さんとも兄妹同然の様に育ったにゃー」
「…………えっ?」
それまで二人の会話を黙って聞いていたルリは、急に来た自分への会話のパスに驚いて目を丸くしていた。
「僕はルリちーが生まれた時の事をしっかりとこの目で見ているからね、兄妹同然の様に思っているんにゃよ」
「へー、そんな関係だったんですかー、じゃあなんでピー男爵はルリさんの所にいたんですか?」
聞きたかった事を向こうが素直に話して来たので、今がチャンスだと思い潤平は質問をして彼等の関係を深く聞いてみる。
「それはにゃー、ルリちーのおじいさんに僕のお母さんが拾われたからだにゃ」
「……拾われた?」
「そうにゃー、外国の港でこの国の船に間違って乗ってしまった僕らのお母さんが、死にそうになっている所をルリちーのおじいさんが拾って助けてくれたんだにゃ。その時お腹には僕らを身籠もっていた事もあって、放ってはおけないとルリちーのおじいさんは思ったらしく、そのまま屋敷に住まわせてくれる事になったんだにゃ。そして僕らが生まれてルリちーも生まれたとゆう訳にゃ」
「へえーかっこいいおじいさんですね」
「……そうだったニャー、とても格好いい人だったにゃー」
その時、ピー男爵が何処か遠い目をした事と、ルリの握る手に力がはいった事、フミの体が強張った事に潤平は気付く事がなかった。
「おじいさんがルーツですか、そう思うと何か俺にも通じるとこがある気がする」
「んにゃ?」
「俺もね、じいちゃんばあちゃんが居なかったらここにいないだろうし、じいちゃんばあちゃんが亡くなったからこうして都まで旅をしている訳だしさ、それがいきなり世界を救えーっ、お前は大物になるんだーっとか言われても意味わかんないじゃん、だから同じ感じだなーと思って……。そうでもない感じ?」
「うにゃん♪ うにゃん♪ そうだにゃ似ている所があるかもだにゃ」
ピー男爵は両手の可愛い肉球を叩いて愉快に笑う。
「まあ、世界を救うだなんて大それた話だけど、その影響でこうやって旅をしてるんだから、この生活も悪くはないのかなー何て思い始めてるよ」
「良いニャン! 世界を救うのは男の子の浪漫だにゃん! ん? 男の子? そう言えば潤平は何歳だにゃん?」
「17歳だね」
「じゃあまだまだ男の子だにゃん! そうゆうのにも憧れるお年頃だにゃん! うにゃにゃ」
「うるさいなぁ、そうゆう男爵こそ何歳何だよ」
「ん~? 僕はね24歳かにゃ、こう見えて妖精の血を受け継いでるから、普通の猫よりも長生きにゃんだ~。人の寿命より少しだけ長生きにゃんだかにゃ」
「えっ! 年上だったの!? じゃあ敬語使わなきゃじゃん……ないですか」
「ああ~、そう言うのいいのいいの。僕堅苦しいの嫌いだからさ、今まで通り気楽に接してくれていいよ」
そう言ったピー男爵は、足を組んで頬杖を付いて面倒くさそうに喋っている。
まさか潤平よりも年上だったとは、これには潤平も驚いた。
それに妖精の血を受け継いでいるとか、何処ぞのファンタジー小説みたいだなと思ったが、魔法が使えるこの世界なら何でもそうゆう事もあるかと思って深く考える事は止めた。
「じゃあ、今まで通り普通に接するね」
「うんうん、普通が一番だにゃー」
潤平とピー男爵が車内で何てことない会話を繰り広げていると、馬車が第二の外壁に着いたらしくゆっくりと止まる。
そこでの確認はスミレとヨリが済ましてくれて、潤平はいちいち降りなくても済んだ。
潤平が窓からちらっと覗くと、先程と同じ様な堅牢そうな外壁が立っていた。
潤平が不思議そうに覗いていると、ピー男爵が都の区画図について説明してくれる。
「立派な外壁ですねー」
「そうにゃ、今僕らがいる所が第二の外壁にゃ、さっき潤平が通過したのが第一の外壁で、今通り過ぎて来たのが第一区画だにゃ、旅篭屋とかお茶屋とか色んな商業の店が経っているばしょにゃ、そしてその間に田園が並んでいるんだにゃ」
「へー、じゃあこれから行く所は?」
「これから行く所は第二区画だにゃ。そこには魔法ギルドや銀行、魔法学校など国の主要機関があるにゃ、それと格式高いお店や金持ちが住んでいる様な屋敷があるにゃ」
「ふ~ん」
「僕らが最終的に行く所は、そこも過ぎた第三の外壁がある区画にゃ。そこまで行ったらもうこの国の貴族と重鎮、それとこの国のお殿様が住んでいるお城しかないにゃ」
「そうなんですか~……ん? そんな所に今から行くんですか?」
「行くも何もルリの住んでるお屋敷は第三区画の、それもお城に近い所に建っているにゃ、そこに帰るんだにゃ」
「まじ?」
「本当だにゃ」
所作や振る舞いからただのお嬢様では思っていたが、まさかそんなに凄い家柄のお嬢様だとは。
それもこの国のお殿様が住んでいる近くの屋敷だとは、凄い人と出会ったものだ。
しかし何故そんな立場の人が、盗賊に捕まっていたんだろうか? 良く聞くお家騒動とかに巻き込まれてるパターンかな。
でもそしたらルリのお父さん、言ってしまえば現当主だろ? それが反逆罪で捕まるってのもおかしな話だよな?
何かなー、この国の中心に行ったら何か淀みの魔力の情報が掴めるかと思ったんだけど、何かきな臭そうな話に関わってしまったかもなー。
どうにかして、淀みの魔力の手掛かりを掴みたいんだけど、どうしようかなー。
てか都に来たってゆうのに、淀みの魔力の気配が一つもないのはおかしいよな、人が集中してる場所に多く存在してるって話だったのになぁ。
助けたお礼と護衛の報酬を貰ったら、適当に都の中を歩いてみるかな、それか魔法ギルド辺りで何かしら、それっぽい情報がないか探してみるかな。
潤平が色んな事を考えていると、馬車は詰め所を通って第二区画の町並みに入って行く。
ピー男爵が言っていた通り、この第二区画は都の主要な部分だと感じる。
まずは道が広くゴミが落ちていない、馬車が二台通り掛かっても余裕が有る位だ。
そして町の端には街頭が置いてあり、それが均一な間隔で並んでいる。
建物や店の入り口も綺麗で頑丈な作りになっている。
道には、衛兵が巡回しており不審者がいないか確認している。
それに通り掛かる人が、全て綺麗でしっかりとした服装や身だしなみをしている。
第一区画では、汚い格好良いをしてる人を多少は見掛けたが、それがほとんど無い。
それにあれは……、外国の人だろうか。
金髪碧眼の男性が有る建物から出てきた、後ろには茶髪や黒人の人が着いてきている。
それらは皆馬車に乗り込むと、潤平達の馬車とは違う方向に行ってしまった。
「あれが、この国一番の魔法ギルドだにゃー」
ピー男爵が反対の窓からそう告げたので、潤平はそちらの方向に移動して建物を見上げる。
途中揺れているピー男爵の尻尾が、顔に何度も当たったが面倒くさいので放っておく。
そこに有ったのは、五階建ての大きな入り口を備えた、頑丈そうな石造りの建物であった。
そして建物の入り口には、大きな弓を構えた男性の石像が建っており、その前でお祈りをしてる人や食べ物を備えてる人、はたまた遠くから来たのかじっと見上げてる人、色んな人がいた。
中には魔法ギルドに入っていくだけの人もいたが、人が集まるとゆう事は、それだけ大きな象徴となっているのだろう。
「凄い大きい魔法ギルドですね、俺が見たのは一階建てのちんちくりんな魔法ギルドなので、これだけ大きいのはびっくりしますね」
「そうだろうそうだろう。ここまで大きいのは他の国でもない位だろうからにゃ。中はもっと凄いにゃ、いつも人でごった返しているにゃ、それと他の国の魔法ギルドと繋がっているゲートも備えてるのもここだけにゃ」
「ゲート! そんなのも有るんですね!」
「そうにゃ、我々一般人が使うとなったら、結構な使用量を取られるが公的な理由だったら無料になるにゃ。まあまあそうそう使う機会なんてないんだけどにゃー」
「ほえー凄いっすね」
「そして、魔法ギルドの斜め後ろにちょこっとだけ見えるのが、魔法学校にゃ。他の町にも学校は有るが、規模と在籍数はここがだんとつだにゃ。フミちーが卒業した所で、ルリちーとスミちーとヨリちーが通ってるどころだにゃ」
「おお~!」
確かに、魔法ギルドの後ろにちらりと見えた建物、大きな鐘がちらりと見えたがあれが魔法学校か。
機械が有れば通ったんだろうけど、そんな暇ないしな。
それに学校はもういいだろう、まあ俺も元高校生だし恋愛とか興味ない訳じゃないけど、勉強今からまたやるのはな、ちょっといいかな。
その後もピー男爵が見える建物と、お店を紹介してくれて第一区画の時よりも、建物の知識が増えていった。
「あ! あそこに少しだけ見えたのがカントウの『エノキヤ』だにゃ」
馬車からだと、通りすがりでしか見えなかったが、立派な『エノキヤ』とゆう文字が付いた看板が、掲げられてる黒作りの建物が見えた。
そうかあそこがカントウさんのお店か。
暇が出来たら後で覗きに行こうっと。
「あの店のお向かいさんに、凄い別嬪さんな娘がいてあの店に寄るたび、用もないのに挨拶に行ったもんだにゃ。まだあの娘はあそこにいるのかにゃ~」
ピー男爵の恋愛事情も聞きつつ、潤平は見たことのない町の景色をその目に納めていく。
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