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異世界、遺します ~天涯孤独となった俺に亡き祖父母が『異世界』を遺してくれた~  作者: 鏑右いなだ


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第十九話 いざ都へ

 暖かい日差しと心地よい風が体をくすぐり、心を落ち着かせてくれる。

 

 生き物としての正しい行いなんだろうか。陽光を全身に浴びて体が喜んでると感じる。

 ましてここは川沿いのお茶屋さん、全てがベストマッチと言えるほど訪れた人の心を落ち着かせてくれた。

 だがその光景や景色を受けて尚、それ以上に潤平の体を喜ばせる体験していた。


  

「美味へぇ~っ!、脳がいや、体がいや、全身が痺れてる!! 久々の甘味は美味ぇなっ!」

 

 と潤平は久々に食した甘味の甘さにやられて、あまりの上手さに悶絶して体を捻る。


 注文したばかりの甘団子も早々に平らげて、お茶屋の店員が持ってきた焼き饅頭に手をつける。

 その光景を、フミは隣に座りながら静かに眺めていた。

 最初は次から次に甘い物を食べる潤平に驚いたりもしたが、まあ年頃の男の子だからこれ位平気で食べるか。と自分を納得させた。

 

 それにフミ自身も、既に焼き団子とお饅頭を二皿ずつ平らげていたこともあり、甘味に対する感覚は一般の人間とは少し違っていた。

 因みにフミだけではなく、ルリと他二人の使用人も甘味に対する感覚が大分ずれていて、フミ以上に甘味が大好物であったりする。


 甘い物を食べたので今度はしょっぱい物が食べたくなり、潤平は店の前で焼かれていた美味しそうな匂いを放つ焼き魚を注文する、それも今焼いている分を全部。

 店主は少し驚いたが、これも商売のチャンスだと思い快く焼き魚を売ってくれる。


 早速、潤平の元に届いた焼き魚を頬張るとあまりの美味さに自分の膝を叩く。

 そしてそれを隣で暖かいお茶を飲みながら、静かにだが満足そうに潤平を眺めているフミ。

 時折吹く心地よい風と川から反射する陽光が、人を待っているという事実も忘れさせてくれる位、落ち着いた雰囲気を作っていた。


「ふうフミさんご馳走様でした、でも本当にこんなに食べても良かったんですか?」


「これ位なら問題ないです、寧ろまだ足りないくらいだと感じています。我々を助けてくれたお礼はこんなモノでは済まされないとお嬢様も仰ると思いますし」


 甘味数十皿と焼き魚七匹、それと足してフミの分までの会計を考えたらかなりの金額になると思うのだが、彼女たちが感じている恩義はこれ位では清算されないらしい。

 別にただ命を助けて護衛をするだけなのにとも潤平は思っているのだけれども、彼女たちがそう思うのならそれで良い。


「しっかし、ルリさん達来る気配ないですね~」


 串に付いた焼き魚の身を残す事なく齧り付いてる潤平がそう呟く、ばあちゃんに下品だからそうゆう行為はやめろと怒られていたが、どうしてもこればかりはやめられないと潤平は思っている。

 因みにエビフライの尻尾は食べるタイプだ。


「そうですね、もうここに着いても良い時刻だと思うのですが……」


 そう言い町の中心地にある木製の時計塔を見上げるフミ。

 時計塔の時刻は既に待ち合わせの時間は過ぎていることを指し示している。

 盗賊に襲われた旨を衛兵に伝え、実家に自分達が無事だと知らせるだけの事なのにこんなに遅くなる事があるのだろうか。

 まさか何かあったのかとフミの中に良くない考えが浮かんでくる。

  

 フミは静かにだが力強く座っていた椅子から立つと、主の危機に駆け付けようとする。

 だがそんなフミの心配とはよそに道の向こうから、ルリ達三人の姿が視界に映る。

 フミは、主の無事な姿に安堵して早足で主の元に駆け寄るが、近付いてみるとどこかルリの様子がおかしい事に気が付く。

 別れた前よりも表情が暗く険しい顔になっている、後ろのスミレとヨリも何だか顔付きが暗い気がする。


「……どうされましたかお嬢様?」


「……」


「……お嬢様?」


「……早急に都に行かねばならない理由が出来ました」


 ルリは顔を上げるとしっかりとフミを見据えた、その顔は決意に満ちた顔付きだったが、目の奥底はどこか戸惑いの色が映っている。


「お父様が国家転覆罪の容疑で捕まったと屋敷から返答がありました」



 ◆



「お疲れ様です」


 この町に入った時とは反対の関所からルリ達一行は出て行く。

 

 身分は証明出来ているので衛兵達は軽い確認だけで済ましてくれ、そんな衛兵の人達にスミレは労いの挨拶をする。


 次の目的地はこの国の都、ここから三日ほどの旅程になる。

 それをとにかく急いで一日で辿り着かなければいけなくなったのだ。

 

 そんな中一番負担がかかる事になったスミレは、深呼吸をして気合いを入れ直す。

 スミレが作り出してるこの馬車は維持出来るのが最長で一日が限界だ。

 そしていつもは大体時速二十キロ前後で走り続けているのを、それを一日以上行使して尚且ついつもの倍以上の速度を出さなければいけなくなったのだ。

 本来のスミレならば到底出来そうも無い計画。

 それでも無理を承知でやり遂げなければいけない、自分が仕えている主の危機となれば例え自分の体がどうなろうと構わない。


 そのためにこの家に仕えると決めて使用人になったのだから。


 スミレはいつもの馬車より簡素に、それでいて軽さを追求した馬車を呼び出す。 

 スミレはもう一回深呼吸をすると後ろの荷車に乗ってるルリに視線を向ける。

 ルリはその視線を受けるとこくりと頷き、スミレは覚悟の決まった顔でそれに頷き返す。


「はあっ!」


 スミレの掛け声とともに勢い良く馬車は走り出すと、瞬く間に先程までいた関所から離れていく。

 後ろに乗っているルリ達は荷車の窓から、勢い良く流れていく光景をただ見ている事しか出来ず、何とも言えない気持ちになる。

 そんな中潤平はルリ達とは違う複雑な気持ちを胸に抱えて何やらじっと考えていた。


「……」


「スミレには辛い思いをさせます」


 沈んだ顔でポツリとルリは呟く。


「お嬢様……」


 そんな様子のルリにフミとヨリは掛ける言葉が見つからず、労る事しか出来なかった。

 

 自分の身の無事を知らせたのはいいが、家から返ってきたのはまさかの当主の逮捕の一報。

 それもどうゆう事か国家転覆罪なとどゆう大罪での投獄、まさかの返答にルリは衛兵の館を出た時の記憶が無く、とびらから外に出た同時にその場にへたり込んでしまった。

 スミレとヨリの二人の力を借りて立ち上がったは良い物の、顔色は悪く手も震えていたとヨリは言っていた。

 ルリは震える体に無理矢理力を入れて、何とか頭の中で考えを纏めて潤平達が待っている待ち合わせ場所に向かっていった。


「…………」


 車内が重く苦しい雰囲気に包まれていても、未だ潤平は何やら一人難しい顔をして悩んでいる様子だった。

 そんな潤平の様子に気が付いたフミは、自分達が大変な事態だとゆうのに、それをおくびにも出さないで優しく潤平に問いかける。


「……潤平様、どうされましたか?」


「うーんいや、それがですね……」


 口の中でもごもごと言葉を発し、何だか煮え切らない様子の潤平。それを見てもフミは決して動じず静かに潤平が話し出すのを待っていた。


「もしかしたら……、もしかしたらですよ今よりももっと早く移動出来るかもしれない方法が思いついちゃったかもしれないです……」


 潤平の言葉に一瞬後ろの面々が固まり静寂が流れる。

 一番に思考を取り戻したのはルリで、今し方潤平が述べた言葉を飲み込むと潤平にその言葉が本当かどうかの確認を取る。


「スミレっ! 一旦止まって下さいっ! ……潤平様今仰られた事は真ですか?」


 態々馬車を止めてまで潤平の言葉の真偽を確認する、ルリは潤平に向き直るとその目で潤平をしっかりと見た。

 その目からは決して冗談では済まされないとの強い気持ちが伝わって来る。

 その力強いルリの目を見て、潤平はこんなタイミングで冗談を言うつもりはなかった。

 まあ最初は馬鹿げてるとも考えたが現状これより良い案が浮かばなかったので、潤平はこれで納得したというより納得するしかなかった。

 そして思い付いたその馬鹿げた案を、今からこの目の前の自分の肉親を助けたいと願う少女に説明しなければいけなかった。

 

「えと……、どう考えてもこの速度だと一日で三日分の距離を走るのは無理だと思います。そこにスミレさんの負担を考えると不可能に近いと思います」


「ですがっ! これしか方法がないんですっ! スミレも了承してくれましたっ!」


 今更最初の計画を否定されるとは思っていなかったので、フミは言い返す言葉が少し強くなる。

 そしてスミレの奥では御者から此方を見て話を消えていたスミレは小さく頷いている。そのスミレの額には汗の玉が所々浮いており、前髪が乱れて額に張り付いていた。


 ものの数十分でこれなので、どう頑張っても一日で到着出来るとは思えないと、改めて潤平はスミレさんの様子を見思った。


「ええですから役割を変えるんです。あっスミレさんには負担を掛ける事にはなっちゃうんですけど……、でも今よりかはずっと楽だと思います」


「…………何を変えるんですか?」


 少し興奮してきたルリに変わって、フミが潤平の言葉の続きを促した。


「ちょっと恥ずかしいかもしれませんが俺が馬車を引いて走ります。所謂人力車だと思って下さい」


 潤平以外の全員が、潤平の言葉に呆気に取られていたフミも普段は澄ましているが、今ばかりは抜けた顔をしており潤平の言葉の意味を必死にかみ砕こうとしている様子が見て取れた。

 他の従者二人も例外ではなく、どちらも呆けた顔をしている。

 だが流石と言うべきか、その中でもルリだけは意味を理解をし、いや理解したけど理解出来てないと言うべきか、どっちでもいいがとにかく潤平の言葉に素早く反応していた。


「人四人分と荷物、それに荷車を丸ごと運べると言うんですか? それもかなりの速度で……?」


「……やった事はないので何とも言えませんが、直感で可能なんじゃないかなと思いました」


 まるでお巫山戯とも取られない潤平の言動に、スミレとヨリは顔をげんなりとさせるが、ルリとフミだけはちょっと感じ方が違ったようだ。


「……っ! ……分かりましたっ、潤平様の言うことを信じます」


「「良いんですかっ!?」」


 冗談とも言える潤平の案をルリが認めた事で、スミレとヨリは悲鳴染みた反応を見せる。

 ただ一人フミだけは静かに自分の主が出した結論を受け止めていた。


「当初私達が出した予定よりも、早く都にたどり着けると言うのならばその話を信じるしかないでしょう。それにスミレの負担が減ると言うのならば、私はそれに超したことはないと考えます」


 主が下した結論に三人の従者は違った反応を見せるが、最終的にはその結論を受け入れた。


「それで潤平様。私達は具体的には何をすれば宜しいのですか?」


「あーええと、まずはスミレさんにこれよりも少しだけ小さい、それでいて頑丈な馬車を作って貰いたいと思います。その間に他の人は出来るだけ荷物を纏めて貰って小さい馬車に収まる様にして貰いたいんです。それと……、ああ良いですねそれで前の方に俺が馬車を牽引出来るように掴みやすい取っ手を付けて貰って、もうちょい短くで、大丈夫すよ、はい大丈夫です。それでルリさん達が衝撃を受けない様に馬車の中をクッション製の高い感じにして、シートベルトを付けて……、と言ってもシートベルトの事が分からないから……」


 潤平が拙くも指示を出して馬車を作るために格闘すること十五分ちょっと、何とかそれなりの潤平が思い描く形の人力車が出来た。

 とは言っても、素人の潤平が思い付く馬車の機能なんてそんなに分からなかったが出来る限り不足のない様に作って貰ったつもりだ。


 ワイシャツの袖を肘までめくって、多少動きやすくし汗をかいてもいいように準備をする。


「それではこれから都まで全速力で飛ばします。合間に合間に休憩を挟んでいきますが、もし何かあったらその都度大声を出して下さいそうしたら止まりますので」


「「「はい」」」


「それとスミレさん何か荷車に異変があったら直ぐに教えて下さい。その都度修正していくので」


「はい」


「それでは、行きますっ!」


 潤平が合図の一声を出した瞬間、物凄い勢いで仮想人力車が動き始める。

 後ろの荷車の中で待機していたルリ達もあまりの速度に、バランスを崩しそうになり互い互いにお互いを支え合うがそれでも足りず、中に備えたシートベルトや取っ手に捕まりバランスを取り合う。

 

 比較的バランス感覚の良いヨリがその速度に慣れてき始めた時、窓の外を見て驚愕した。

 スミレが馬車を運転していた時よりも、流れていく外の風景が段違いで早いのである。

 それもその筈で、今潤平が走っている速度はスミレが出していた時の速度よりも倍以上早いのだから。

 

 何故、人を乗せた荷車を率いていてこれだけの速度が出せるのか。前にこの世界に降り立った時森を抜け出すために、全速力で森の中を走った時でもここまでの速度は出なかった。

 それは何故なのか、答えは潤平にも分からないのである。

 ただ無性に心の底から助けたい。それとやってみたい。

 その気持ちが湧き上がってくるそれだけだ。

 そして実際にやってみるとこれが物凄く楽しい。


「うっはははははははは!!!」


 何だか楽しくなってきて笑い声まで出てきた。

 物凄い速度で走っていると、前に走行している馬車の一団がいたのでほんの少し速度を落としてそれを避けるように潤平は走る。

 

 そして、前にいた馬車の一団は何か高笑いした馬車が、自分達を物凄い速度で横を通り過ぎて行く事しか確認する事が出来なかった。

 まさかそれが、人間が馬車を率いてるとは思いもせず、ポカンとただ通り過ぎて行ったそれを眺めていた。


 しばらくの間笑いながら物凄い速度で、荷車を牽引する男が街道を走る様子がそこにはあった。

 

 そして後の世に、街道を爆走する魔物がいないとか何とかとゆう伝説が生まれる事になるとは、その時の潤平は思ってもいなかったのである。





 



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