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こりすま日記  作者: らいどん


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鏡花読書~小品 その二十(木莵俗見)

木莵(みみずく)俗見(ぞくけん)』(昭和六年七月)


青空文庫

https://www.aozora.gr.jp/cards/000050/files/50790_63058.html


 終始軽い筆致で語られる気さくなエッセイ。鏡花がここまで自身のおどけた姿を写した文章は珍しい。


 東京の山手を訪れた、草花の苗の物売りの声を懐かしみ、話題はやがて鳥の声に。

 鏡花は「犬がほえたような凄じい」声で鳴く(ふくろう)を嫌い、「木精(こだま)が恋をする調子」の木菟(みみずく)の声を好むと言う。

 続いて昭和六年六月に千葉県を旅行し、勝浦町の勝浦間に宿泊したときのこと……と、本題に入るきっかけを作ったものの、各地で見た鳥の姿、聞いた鳴き声に脱線する。よしきり(ギョウギョウシ)、白鷺、そしてまた木菟と、話は迂回。「のッ、ほッほウ」と鳴く木菟を語りの友として、ようやく千葉旅行の思い出を語る。


 この旅には「家内とその遠縁にあたる娘」が同行していた。鏡花が寝た隣の八畳間に、すず夫人とその遠縁の娘が休んだのだが、その部屋の床の間の横には「張だしの半戸だな」があって、「突当りがガラス戸の(はき)だし窓」になっていた。様子がつかみにくいが、床の間の脇にも窓があって、上半分が天袋状の戸棚になっていたということか。

 夜になると、そこから魔ものの鳥、木菟が、覗くように鳴く。

 けれども朝になると、怪奇ムードはどこへやら。同行した娘が窓際から、幼稚園の教員らしきシャン(美人)が歩いて来ると鏡花に教える。「おっと来たり」と応じたから、おそらく前日もその姿をチラ見して待ち構えていたのだろう鏡花が、熱いお茶をこぼしてアチチと慌てふためきながら戸棚の下に頭を差し込んで窓から覗いたところ、残念ながら美人はすでに後ろ姿。だが、振り返った彼女と目が合って、うろたえた鏡花は戸棚に頭をぶつけてしまう。

「たれかの男振は、みみずくより苦々しい。はッはッはッはッ」


 鏡花は深夜に思い出し笑いをしていたらしい。また木菟が鳴く。禽類の習性を考察するのも束の間、鼠の騒音におびえた話やら、銀座のバーから出稼ぎに来た破天荒な女中の騒動やら、木菟の民俗的な題材を仕入れようと思って誘い水をかけた按摩からろくな話を聞けなかった逸話やらを回想。

 自身の醜態を木菟を相手にグチるといった、気さくな調子のままで筆を()く。


 さて、作中に登場する、家内の「遠縁にあたる娘」とは、これ以後の諸作――『山海評判記』(昭4)、『貝の穴に河童の居る事』(昭6)、『斧琴菊』(昭9)、『遺稿』(おそらく昭14)でも鏡花(自身と思われる男)の旅に同行する娘と同一人物であるかのように思われる。

 彼女については、泉斜汀の娘で、鏡花没後の養女になった泉名月が「鏡花とすゞの日々」(『鏡花幻想譚 4 絵本の春の巻』の解説として書かれた文章)で次のように触れている、お雪さんがモデルなのだろう。


 ▶お雪さんは、すゞが吉原で過ごしていた時の、踊りのお師匠さんの娘さん。

 鏡花とすゞとが番町の家に住むようになった頃から、鏡花がどこかへ出掛ける時には、すゞとお雪さんがいつでも一緒だった。

 すゞの旅行友達、散歩友達、買物友達、温泉友達、話し友達で、気さくな仲良し友達だった。◀


『木莵俗見』での彼女とのやりとりや、『山海評判記』でのヒロインぶりからしても、晩年の鏡花の気を若返らせた女性だったに違いない。


 ちなみに彼女が使う「シャン」という当時の学生ことばは、ちょっと前のギャルことば「オシャンティ」と同じようなことばだと思っていたのだが、調べてみてドイツ語のschön(美しい)が語源だとはじめて知った。「オシャン」(美人さん)と「オシャンティ」(お洒落の言い換え)は、似てるけどまったく別のことばなんですね。





『若菜のうち』(昭和八年二月)


青空文庫

https://www.aozora.gr.jp/cards/000050/files/3426_9675.html


 当日記内の別稿「鏡花読書~七宝の柱、若葉のうち、栃の実」(2025/12/01)参照。





 最後に採り上げた『木莵俗見』が思いのほか軽い文章だったので、なんだか気が抜けてしまうのですが、これで小品の部は読了。小説と小品――数えてみると全358篇を読み終えました。

 小品の部にかんしては、やはり先に読んでいた『雛がたり』『二三羽――十二三羽』『若菜のうち』が突出して、それらを越えるものはなかった。ただし、敬遠していた漢籍翻案ものの面白さに気づいたこと、たんなるルポルタージュだと思っていた『深川浅景』に幻想小説の結構を見いだせたことは、得難い収穫だったと考えています。


 鏡花全集(とその後の追加作品)の読書は、残すところ戯曲、紀行、雑記、談話、その他雑文の四冊分ほどがありますが、ここで一区切り。

 しばらくは他に首を突っこむことになるかもしれません。


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