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こりすま日記  作者: らいどん


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鏡花読書~小品 その十九(鳥影、九九九会小記)

『鳥影』(昭和三年一月)


青空文庫

https://www.aozora.gr.jp/cards/000050/files/50789_44659.html


 鏡花が晩年期の保養先としてしばしば利用した、伊豆市修善寺温泉、新井旅館を舞台にしたと思われるエッセイ。

 宿の敷地内にあった、別荘と呼ばれる使われていない建物の近辺で、鏡花夫人が美しい鳥を見かける。宿の者にもその鳥の名がわからない。鳥の様子を聞いた鏡花は、「居ながらにして知ってるぜ。かわせみさ、それは」と、夫人に教える。


『鳥影』が書かれた直近の修善寺旅行は、吉田昌志『泉鏡花年譜』では次のように書かれている。


 ▶大正十四年、四月二十日、すず夫人同伴で修善寺を訪れ、新井旅館に宿泊した。さる十日から滞在していた芥川龍之介と同宿になり、鏡花夫妻の部屋は桂二階、芥川が欅三階であった。◀


 芥川龍之介はこのとき、友人宛に「修善寺画巻」なる絵手紙を書いて、そのなかに鏡花夫妻を描きこんでいる。また、自身が読書をする部屋の屋根には鳥が留まっていて「コレハ鶺鴒(セキレイ)」と注書きがされている。

 本作に登場する鳥は翡翠(かわせみ)で鶺鴒ではないのだが、芥川の自殺(昭和二年七月二十四日)からそれほどの時を経ずにこの短文を書くにあたって、鏡花が芥川のことを想い出さなかったはずはない。もしかしたら鏡花は、三年ほど前のその宿で、芥川と鳥についての会話を交わしたのかもしれず……そう思うと、異様なほどに美しい姿を見せた鳥というものが、どこか霊的な影を含むものにも感じられる。

 鳥影射すとは、人の訪れの前兆を言うことばでもある。


 ▶私は狩猟を知しらない。が、()ものでない、山の幸は、其の姿を見、その、もの(がたり)を聞くのにある、と、思いつゝ。……◀


『十万石』(明30)でも、『桜心中』(大4)でも、『玉川の草』(大13)でも繰り返し主張されているが、鏡花にとって鳥は捕まえるものでも籠に閉じこめるものでもない。自由に飛ぶ姿をこそ愛でるものである。





九九九(くうくうくう)会小記』(昭和三年八月)


青空文庫

https://www.aozora.gr.jp/cards/000050/files/50788_63059.html


 九九九会とは、鏡花の熱心な支持者たちが集って酒肴と歓談を楽しむ、お遊びの会。大正五年の秋に、水上瀧太郎と久保田万太郎が鏡花を夕食に誘ったことが始まりだという。

 先日採り上げたエッセイ『春着』(大13)にちらりと触れられた、


 ▶このあいだ、水上 [瀧太郎] さんに誘われて、神樂坂の川鉄(鳥屋)へ、晩御飯を食べに出向いた。もう一人お連れは、南榎町へ浅草から引越した万ちゃん [久保田万太郎] で、二人番町から歩行(ある)いて、その榎町へ寄って連立った。が、あの、田圃(たんぼ)大金(だいきん)と仲店のかねだを橋がかりで歩行(ある)いた人が、しかも当日の発起人だと言うからおかしい。◀


 ……といったあたりが、会の始まりなのかもしれない。

 震災以降、しばらく中断していたこの会が、ふたたび開催されるようになった事情を振り返ったのが、この文章である。

 会の様子や参加者は本文にある通り。

 昭和三年五月二十三日の再開後は毎月二十三日に集まると決まり、昭和十四年八月まで一回も休まずに続いた。

 昭和二十四年十一月には存命の会員――里見弴、鏑木清方夫妻、久保田万太郎夫妻が集って、一時的に再開したのだという。


 昭和二年の十円を企業物価指数というもので現在の価値に換算すると 6,136円になるという計算がレファレンス共同データベースにあって、労働賃金で換算すれば、もう少し高くなるのかもしれない。そこからすると九九九会の会費、九円九十九銭というのは、座敷を借りた集まりとしては格安だが、無謀なほどに安いというわけでもないようだ。小村雪岱のように、人脈作りの場として活用した人も多かったのかもしれない。


 鏡花没後の昭和十七年には、九九九会の会員が中心となって、湯島天神境内に「泉鏡花 筆塚」を建立した。


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