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第20話「触れた側」

止まっている


 前にも、後ろにも、


 動けないまま


 引かれている


 押されている


 均衡が保たれている


 ほんのわずかな差で、


 崩れる位置


 理解している


 次に動けば終わる


 どちらかに決まる


 戻れない


 その感覚が、


 はっきりと残っている


 消えない


 初めて


 完全に途切れない思考


 指先を見る


 震えている


 境界まで、


 あと少し


 透明な膜


 揺れている


 呼吸しているみたいに


 近い


 すぐそこにある


 後ろの気配が濃くなる


 押してくる


 戻そうとする力が強まる


 背中に触れているものが増える


 一つじゃない


 二つ


 三つ


 数えられない


 でも、


 確実に増えている


 冷たい


 重い


 逃がさないように


 絡みつく


 声が重なる


 背後から


「もどれ」


 何度も


 同じ音で


 同じ高さで


 揃っている


 八十七


 その数が、


 一つの意思になって押してくる


 前からも声が来る


 布の奥


 はっきりと


「こい」


 短い


 揺れない


 迷いがない


 その一言だけで、


 空間が少しだけ軽くなる


 前へ行く方が、


 自然に感じる


 初めて


 “楽”だと思う


 その感覚に気づく


 驚く


 でも、


 否定されない


 消されない


 残る


 選ぶ


 考える前に


 体が動く


 指先に力を入れる


 前へ


 ほんの少し


 進む


 後ろの力が強くなる


 引き戻される


 それでも止まらない


 今度は巻き戻らない


 進んだ分が残る


 残る


 初めて


 修正されない動き


 もう一度


 前へ


 押す


 膜に触れる


 指先が


 触れた瞬間、


 音が消える


 完全に


 世界の音が消える


 背後の声も


 足音も


 呼吸も


 全部


 無音になる


 触れている


 確かに


 膜は冷たい


 でも、


 固くない


 押せる


 わずかに沈む


 その感触が、


 はっきりと残る


 消えない


 頭の中が静かになる


 何も入ってこない


 初めて


 “自分だけ”になる


 後ろの力が一瞬止まる


 均衡が崩れる


 前に傾く


 そのまま


 押し込む


 指先が、


 膜の向こうに入る


 通る


 抵抗はある


 でも、


 越えられる


 その瞬間、


 強い衝撃が走る


 頭の奥で


 何かが切れる音がする


 “八十七”という感覚が、


 一瞬だけ消える


 完全に


 空白になる


 何もない


 数も、


 人も、


 広場も


 一瞬だけ消える


 完全な断絶


 次の瞬間、


 戻る


 視界が戻る


 でも、


 違う


 色が違う


 光が違う


 空気が違う


 軽い


 明るい


 広い


 立っている場所が違う


 振り返る


 白い布


 こちら側から見ると、


 ただの布じゃない


 歪んでいる


 空間がそこだけ曲がっている


 その向こうに、


 見える


 広場


 人がいる


 八十七


 そのまま


 変わらず


 動いている


 さっきまで自分がいた場所


 その中に、


 “自分”がいる


 立っている


 境界の前で


 手を伸ばしたまま


 止まっている


 さっきの自分


 完全に同じ姿


 同じ位置


 動かない


 固定されている


 理解が追いつく


 自分は、


 出た


 あっちにいるのは、


 残った自分


 切り離された


 境界で


 内と外に


 分かれた


 その事実が、


 はっきりと残る


 消えない


 初めての“外”に立っている


 空気を吸う


 軽い


 深く入る


 止まらない


 連続している


 時間が流れている


 自然に


 歪みがない


 後ろから気配がする


 振り向く


 いる


 布の奥にいたそれが


 今は同じ側にいる


 はっきりと


 輪郭がある


 顔が見える


 自分と似ている


 でも、


 完全には一致しない


 少しだけ違う


 それがこちらを見る


 静かに


 口が動く


 今度ははっきり聞こえる


 外から


「これでいい」


 短い


 確定した声


 否定が入らない


 その言葉が、


 そのまま残る


 消えない


 振り返る


 布の向こう


 広場


 八十七人


 変わらない


 その中に、


 もう一人の自分がいる


 動かないまま


 境界の前で


 止まっている


 その姿が、


 ゆっくりと


 他の人間と同じ動きに溶けていく


 わずかに遅れて


 周りと同じ軌道に乗る


 区別がつかなくなる


 八十七の中に


 埋もれる


 完全に


 見分けがつかなくなる


 ただの一人になる


 その瞬間、


 理解する


 あれはもう


 自分じゃない


 残された側


 内側の一部


 そういうものになった


 目を離す


 布が揺れる


 境界が閉じていく


 歪みが小さくなる


 ゆっくりと


 見えなくなる


 最後に一瞬だけ、


 中から視線を感じる


 誰かの


 特定できない


 でも、


 確かにこちらを見ている


 その感覚だけが残る


 そして、


 完全に閉じる


 何もなくなる


 ただの空間になる


 そこにあったはずの境界が、


 消える


 最初からなかったみたいに


 立っている


 外に


 初めての場所に


 静かだ


 でも、


 何も消えない


 全部残っている


 “おなじ”


 “たりない”


 “なかにいる”


 “そと”


 全部


 繋がっている


 途切れない


 そのまま、


 時間が進み続ける

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