第18話「外の形」
残っている
違和感が
消えない
胸の奥に引っかかったまま、
そのまま存在している
“おなじ”
“たりない”
“なかにいる”
三つ
消えずに並んでいる
これまでと違う
思い出そうとしなくても、
そこにある
消されない
歩く
足の感覚がはっきりしている
地面を踏む
音がする
遅れない
今度は一致している
周りを見る
人がいる
八十七
変わらない
でも、
初めて思う
“それは正しくない”
その考えが消えない
否定されない
上書きされない
残る
はっきりと
立ち止まる
広場の中央
人の流れが、
少しだけ見えるようになる
今まではなかった
動いていないようで、
わずかに循環している
円を描くように
同じ場所をなぞるように
繰り返している
ずっと
その軌道が見える
重なっている
過去の動きと、
今の動きが
同時に見える
何重にも
少しずつズレながら
でも、
大きくは変わらない
固定されている
繰り返しの中にいる
その中に
自分もいる
視線を落とす
足元
自分の足が、
同じ場所を何度も踏んでいる
跡がある
重なっている
新しいはずなのに、
古い動きと一致している
初めて理解する
ここは、
進んでいない
繰り返している
その理解が、
消えない
消されない
息を吸う
はっきりと
肺に入る感覚がある
吐く
その流れも繋がっている
途切れない
時間が続いている
初めて
連続している
白い布を見る
揺れている
その奥
いる
今度ははっきり見える
形が固定されている
人の形
自分と同じくらいの高さ
同じような立ち方
視線が合う
逸れない
逃げない
そのまま、
相手が動く
一歩
布の手前まで出る
止まる
これ以上は来ない
境界がある
そこに
確実に
気づく
“外”がある
ここじゃない場所
この布の向こう側
そこが外だと、
理解する
理解がそのまま残る
消えない
頭の中に声が入る
今までよりはっきりと
重なりがない
一つの声として
「そと」
短い
確定した音
反射的に口を開く
「……外?」
言葉になる
今度は消えない
周りが反応する
数人が振り向く
でも、
すぐに興味を失う
視線が外れる
それでも、
今の言葉は残る
消えない
布の奥のそれが、
もう一歩動く
境界に触れる
触れた瞬間、
空間がわずかに歪む
見える
今度ははっきりと
波のように揺れる
境目がある
透明な壁みたいに
そこにある
初めて、
“見える”
手を伸ばす
自分も
ゆっくりと
前に出る
一歩
距離が縮まる
心臓の音が大きくなる
止まらない
消えない
もう一歩
踏み出す
周りがざわつく
初めて
空気が変わる
視線が集まる
明確に
今まではなかった
全員が、
一瞬だけ止まる
八十七人
同時に
同じタイミングで
動きを止める
揃う
完全に
その異様さが、
はっきりとわかる
理解できる
これは
おかしい
その確信が、
消えない
消されない
初めて
完全に残る
静止が解ける
また動き出す
何事もなかったみたいに
でも、
もう違う
知ってしまった
視線を前に戻す
布の奥のそれが、
同じようにこちらを見ている
同じ位置
同じ高さ
同じ距離
鏡みたいに
完全には一致しないまま
少しだけズレている
そのズレが、
“外側”の証拠みたいに感じる
手を伸ばす
境界へ
あと少し
触れられる距離
空気が変わる
冷たい
薄い膜みたいな感覚がある
指先が近づく
触れる直前
頭の中に強く声が響く
今までで一番はっきりと
「でるな」
止まる
体が
勝手に止まる
自分の意思じゃない
でも、
完全に止まる
動けない
固まる
その間にも、
布の奥のそれが
ほんの少しだけ
笑った気がする
錯覚かもしれない
でも、
その表情だけは
消えない
はっきりと残る
初めて、
恐怖に近い感覚が生まれる
逃げたいと思う
でも、
体が動かない
境界の前で、
完全に止められている
後ろで人の気配がする
近い
振り向けない
でも、
わかる
八十七人が、
少しずつ近づいている
円を縮めるように
ゆっくりと
確実に
逃げ場がなくなる
理解する
ここは
閉じている
そして
外がある
その二つが、
初めて同時に成立する
消えないまま
そのまま、
時間が続いていく




