第17話「内側の人数」
数が合わない気がする
広場にいる
人がいる
八十七
変わらない
変わっていない
でも、
さっきより少し多い気がする
数えようとする
一、二、三――
途中でやめる
最後の数が、
最初から決まっている気がする
八十七
それ以上でもそれ以下でもない
そのはずなのに、
“余り”がある
見えていない誰かが、
含まれている感じがする
視線をずらす
人と人の間
隙間がある
空いている
なのに、
何かいる気がする
そこに視線を固定する
輪郭はない
でも、
“場所だけ埋まっている”
そんな感覚がある
瞬きをする
消える
最初から何もなかったみたいに
でも、
今の感覚だけが残る
残るはずなのに、
思い出そうとすると薄れる
曖昧になる
歩く
人の間を抜ける
肩が触れる
感触がある
今度ははっきりと
驚く
今まではなかった
いや、
あった気もする
わからない
触れた相手を見る
顔がある
普通だ
違和感はない
なのに、
どこかで“重なっている”
もう一度見る
今度は一人分しかいない
最初からそうだったみたいに
息を吐く
少しだけ遅れる
吐いた感覚の後に、
空気が抜ける
ズレている
気づく
その瞬間、
一致する
ズレていなかったことになる
思考が揃う
揃えられる
足が止まる
止めたつもりはない
でも、
動いていない
視線が前に固定される
白い布
揺れている
その奥
いる
はっきりと
立っている
数は一つ
でも、
重なって見える
二つ
三つ
増える
増えているのに、
“一つ”のまま固定される
数えられない
数えようとした瞬間、
まとまる
一つになる
見ている
こちらを
確実に
目が合う
今度は逸れない
逸れないまま、
時間が伸びる
長い
でも、
どれくらい続いているのかわからない
そのまま、
声が入る
頭の中に
外じゃない
内側から
自分の思考と、
区別がつかない位置で
響く
「たりない」
短い
はっきりしている
反射的に考える
何が
その問いが浮かぶ前に、
答えがある
「たりない」
繰り返される
同じ位置で
自分の声と重なる
口が動く
「たりない」
声が出る
今度は確かに外に出た
周りを見る
数人が同時にこちらを見る
いや、
違う
同時に同じ方向を向いただけ
自分を見ているわけじゃない
そう思う
そう思った瞬間、
視線が外れる
最初から関係なかったみたいに
でも、
一瞬だけ
確実に“揃っていた”
その感覚だけが残る
残る
消えない
胸の奥に引っかかる
さっきの“おなじ”と、
同じ場所に
並ぶ
二つになる
感覚が増える
減らない
初めて、
蓄積される
広場を見る
人がいる
八十七
変わらない
でも、
今ははっきりわかる
八十七“では足りない”
何かが足りていない
それなのに、
それ以上増えない
固定されている
増やせない
埋まらない
その不完全さが、
空間全体に広がっている
息苦しい
初めて、
はっきりと感じる
消えない
消されない
そのまま残る
白い布が揺れる
その奥の影が、
わずかに前に出る
一歩
距離が縮まる
確実に
今までは曖昧だった
でも今は違う
近づいている
はっきりと
もう一歩
出る
止まる
境界の直前で
布の手前で
それ以上は出てこない
出られないみたいに
見ている
こちらを
そのまま、
頭の中にもう一つの声が入る
今度は違う
少しだけ低い
「なかにいる」
意味がわかる
考える前に
理解してしまう
“中”
どこかの中
その感覚が広がる
視界が少しだけ歪む
人の配置が、
ほんの少しだけ内側に寄る
円が縮む
自分も含めて
中心に寄っていく
逃げ場がなくなる感じがする
でも、
誰も動いていない
動いていないのに、
位置だけが変わる
ゆっくりと
確実に
気づく
今回は消えない
消されない
この変化は残る
残ってしまう
心臓の音が、
少しだけ速くなる
それも消えない
初めて、
連続する
断ち切られない
時間が繋がる
白い布の奥のそれが、
わずかに首を傾ける
自分と同じ動きで
遅れて
ほんのわずかに
完全には一致しない
ズレている
そのズレが、
はっきり見える
消えない
修正されない
残る
そのまま、
確信に近づく
ここは
少しだけ
おかしい
そしてその“おかしさ”が、
初めて
消えずに残り続ける




