第14話「重なりの浅い場所」
夕方のはずなのに、光が弱くならない
空を見上げる
色は変わっている
変わっているはずなのに、
明るさだけがそのまま残っている
⸻
広場にいる
位置は同じ
動いていない気がする
⸻
歩いたはずなのに、
その実感が薄い
⸻
足元を見る
土がある
踏み固められている
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踏んだ記憶が、
少しだけ遅れてくる
⸻
さっき、歩いた
⸻
そう思う
⸻
でも、
どこをどう歩いたのかは思い出せない
⸻
視線を上げる
⸻
人がいる
⸻
八十七
⸻
変わらない
⸻
変わらないはずなのに、
少しだけ“詰まっている”
⸻
距離が近い
⸻
昨日よりも
⸻
いや、
さっきよりも
⸻
でも、
比べる基準が曖昧になる
⸻
すぐにどうでもよくなる
⸻
その感覚だけが残る
⸻
歩く
⸻
一歩
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音がする
⸻
その音が、
地面からではなく、
少し横から聞こえる
⸻
止まる
⸻
もう一歩
⸻
今度は普通
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気のせいだと思う
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そう思った瞬間、
さっきの違和感が消える
⸻
消えたことに、
少しだけ引っかかる
⸻
でも、
すぐに馴染む
⸻
広場の中央に出る
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人の間を抜ける
⸻
距離が近い
⸻
肩が触れそうになる
⸻
でも、
誰も避けない
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ぶつからない
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すり抜けるみたいに、
位置が微妙にずれていく
⸻
その動きが自然すぎて、
気づいたときには終わっている
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振り返る
⸻
誰も気にしていない
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最初からそういう距離だったみたいに
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視界の端に、
同じ顔が入る
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さっき見た
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はず
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もう一度見る
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違う
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似ているだけ
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そう思う
⸻
そう思った瞬間、
さっきの“同じ”という感覚が消える
⸻
残らない
⸻
最初からなかったみたいに
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「なあ」
⸻
声がする
⸻
振り向く
⸻
誰かいる
⸻
顔を見る
⸻
さっきのやつと似ている
⸻
でも、
同じかどうかはわからない
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「今、どこ見てた」
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問い
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「……前」
⸻
答える
⸻
嘘ではない
⸻
でも、
正確でもない気がする
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「そうか」
⸻
それで終わる
⸻
続かない
⸻
言葉が伸びない
⸻
余りがない
⸻
会話が“必要な分だけ”で切れる
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それが普通になる
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少しだけ、
息苦しい
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でも、
その感覚もすぐに薄れる
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視線が自然と布へ向く
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白い
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揺れている
⸻
その奥が、
少しだけ近く見える
⸻
距離が変わっている
⸻
はず
⸻
でも、
近づいた記憶はない
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目を細める
⸻
奥に、
影が重なっている
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二つ
⸻
いや、
三つ
⸻
形が重なっている
⸻
でも、
数えようとした瞬間、
輪郭が崩れる
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ひとつになる
⸻
何もない
⸻
最初から
⸻
何もなかったみたいに
⸻
目を逸らす
⸻
それで終わる
⸻
広場に戻る
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人がいる
⸻
八十七
⸻
変わらない
⸻
変わっていない
⸻
でも、
“同じものが重なっている”感じがする
⸻
数は合っている
⸻
でも、
中身が少しずつ曖昧になっている
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誰が誰か、
区別がつきにくい
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つける必要もない気がする
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その方が楽だ
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そう思う
⸻
その思考が、
少しだけ遅れて自分に返ってくる
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違和感が出る
⸻
でも、
すぐに消える
⸻
馴染む
⸻
均される
⸻
広場の中央に立つ
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動かない
⸻
動く理由がない
⸻
周りが少しずつずれていく
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自分はそのまま
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なのに、
位置が変わっている気がする
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基準がわからない
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考えるのをやめる
⸻
それで収まる
⸻
白い布が揺れる
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その奥から、
一瞬だけ、
こちらを見る気配がする
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視線
⸻
確かにある
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でも、
形がない
⸻
顔もない
⸻
ただ、
“見られている”という感覚だけが残る
⸻
振り返る
⸻
誰もいない
⸻
最初から、
何もなかったみたいに
⸻
広場を見る
⸻
人がいる
⸻
八十七
⸻
変わらない
⸻
変わっていない
⸻
その確かさだけが、
少しずつ、
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現実から浮いていく
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足元が、
ほんの少しだけ軽くなる
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沈んでいない気がする
⸻
地面との距離が、
わずかにずれている
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でも、
それを確かめる方法はない
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確かめようとした瞬間、
どうでもよくなる
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やめる
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それで、
全部が元に戻る
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最初から、
何も変わっていなかったみたいに




