第13話「空白の均衡」
昼なのに、朝が終わった感じがしなかった
時間が進んだというより、
場所だけが少しずれたような感覚が残っている
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広場に立つ
見慣れているはずの景色が、
ほんの少しだけ平たく見える
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奥行きがない
重なりが浅い
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目を細める
戻る
戻ったことだけが残る
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人がいる
数えなくてもわかる
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八十七
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その数字が、
妙に“先にある”
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視界より先に、
結論だけが置かれているみたいに
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少しだけ気持ち悪い
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理由を探す
見つからない
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石を拾う
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指先にざらつき
少しだけ安心する
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蹴る
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音がする
⸻
その音に、
何かが続くはずだった気がする
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少しだけ待つ
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何も来ない
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……こんなものだったか
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考える
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すぐにやめる
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どうでもいい気がする
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でも、
やめたあとに、
“やめたこと”だけが引っかかる
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視線を上げる
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誰かと目が合う
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向こうが先に逸らす
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そのタイミングが、
ほんの少しだけ遅い
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いや、
自分が早いのかもしれない
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どっちでもいい
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でも、
どっちでもよくない気がする
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その感覚だけが残る
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「なあ」
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声がする
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振り向く
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誰かいる
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顔を見る
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知らない
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知らないのに、
少しだけ“続きを持っている顔”に見える
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「さっきから、何してる」
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問い
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意味は通じる
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答えようとして、
一瞬だけ言葉が遅れる
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「……何もしていない」
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言ったあと、
違和感が残る
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本当に“何もしていなかった”か
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何かをしていた気がする
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でも、
それが何かは浮かばない
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「そうか」
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それで終わる
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その終わり方が、
妙に綺麗すぎる
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余りがない
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少しだけ、
気持ち悪い
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沈黙が落ちる
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今度は、
はっきり長いとわかる
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さっきより、
少しだけ長い
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その間、
何をしていたのか思い出せない
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でも、
何もしていなかった気がする
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それで納得できてしまう
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「なあ」
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また声
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「ここ、こんなだったか」
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同じ問い
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聞いたことがある
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でも、
誰が言ったのか思い出せない
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「……変わっていない」
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答える
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その言葉が、
自分の中にうまく収まらない
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少しだけ浮く
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「だよな」
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すぐに引く
⸻
引き方が早すぎる
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まるで、
最初から答えを知っていたみたいに
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石をまた蹴る
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音
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遅れる
⸻
今度ははっきりわかる
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でも、
指摘しようとした瞬間、
どうでもよくなる
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口が閉じる
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何も言わない
⸻
そのことに、
少しだけ違和感が残る
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言うべきだった気がする
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でも、
何を言うのかがわからない
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視界の端が揺れる
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白い布
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風
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奥に、
何かいる
⸻
確かにいる
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形がある
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手が動く
⸻
振られている
⸻
……誰に
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考える前に、
体が動く
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手を上げる
⸻
返す
⸻
その動きが、
少しだけ遅れる
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いや、
最初からそうだった気もする
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目を凝らす
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もういない
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最初から、
何もなかったみたいに
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手だけが残る
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上げたまま
⸻
下ろす
⸻
理由がない
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ただ、
上げていたことだけが、
妙に引っかかる
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誰に向けたものだったのか
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考える
⸻
浮かばない
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浮かばないことに、
少しだけ焦りが出る
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でも、
その焦りも、
すぐに薄れる
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溶けるみたいに
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広場を見る
⸻
人がいる
⸻
八十七
⸻
変わらない
⸻
変わっていない
⸻
その“変わらなさ”が、
さっきよりも重く感じる
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何かが足りない気がする
⸻
確実に
⸻
でも、
その“何か”を思い出そうとした瞬間、
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考えること自体が、
少しだけ面倒になる
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やめる
⸻
それで収まる
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最初から、
足りていたみたいに
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風が吹く
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布が揺れる
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音が、
少し遅れる
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それを、
もう誰も気にしない
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気にしないことが、
自然になる
⸻
その上に立っていることが、
一番気持ち悪いのに、
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それも、
すぐに馴染む
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何もなかったみたいに




