第15話「上書きされる輪郭」
夕方のまま、時間が止まっている気がする
変わっているはずの色が、
途中で止まったまま残っている
⸻
歩く
⸻
どこへ向かっているのかはわからない
でも、
足は止まらない
⸻
止まる理由がない
⸻
広場の端まで来る
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来た気がする
⸻
振り返る
⸻
同じ景色がある
⸻
さっき見た配置と、
微妙に違う
⸻
違うはずなのに、
すぐに“同じだった”ことになる
⸻
その切り替わりが、
はっきりわかる
⸻
少しだけ遅れて、
認識が塗り替わる
⸻
今、
違ったはずだ
⸻
そう思った直後に、
“違っていない”ことになる
⸻
言葉にしようとする
⸻
間に合わない
⸻
形になる前に、
考えが崩れる
⸻
何も残らない
⸻
立ち止まる
⸻
足元を見る
⸻
影がある
⸻
ひとつ
⸻
自分のもの
⸻
……のはず
⸻
少しだけ揺れている
⸻
風はない
⸻
もう一度見る
⸻
止まっている
⸻
最初から動いていなかったみたいに
⸻
視線を上げる
⸻
人がいる
⸻
八十七
⸻
変わらない
⸻
変わっていない
⸻
でも、
数える前に“八十七”が浮かぶ
⸻
順番が逆になる
⸻
確認のために数える
⸻
一、二、三――
⸻
途中で、
数えている感覚が消える
⸻
口だけが動く
⸻
数は続く
⸻
自分が数えているのか、
数が勝手に並んでいるのか、
区別がつかない
⸻
止める
⸻
止めたはずなのに、
数は最後まで続いた気がする
⸻
八十七
⸻
やっぱり同じ
⸻
同じでいい気がする
⸻
違ってはいけない気がする
⸻
その感覚が、
どこから来たのかはわからない
⸻
「なあ」
⸻
声がする
⸻
振り向く
⸻
誰かいる
⸻
顔を見る
⸻
輪郭がはっきりしない
⸻
焦点が合わない
⸻
でも、
見えていないわけじゃない
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「今、何してた」
⸻
問い
⸻
答えようとする
⸻
一瞬前のことを思い出す
⸻
……思い出せるはずなのに、
空白になる
⸻
「……何も」
⸻
言いかける
⸻
違う気がする
⸻
“何かしていた”
⸻
その感覚だけが残る
⸻
でも、
それ以上は浮かばない
⸻
「……何もしていない」
⸻
言い直す
⸻
その瞬間、
さっきの“何かしていた”感覚が消える
⸻
完全に
⸻
「そうか」
⸻
頷く
⸻
その動きが、
少しだけ遅れる
⸻
遅れていると気づく
⸻
気づいた瞬間、
“遅れていなかった”ことになる
⸻
上書きされる
⸻
はっきりと
⸻
今、
確かにズレていた
⸻
そう思う
⸻
でも、
その思考が続かない
⸻
途中で途切れる
⸻
何もなかったみたいに
⸻
口を開く
⸻
言うべきだと思う
⸻
何か
⸻
でも、
何を言うのかがわからない
⸻
言葉が出ない
⸻
出そうとした形だけが、
崩れて消える
⸻
「どうした」
⸻
聞かれる
⸻
「……いや」
⸻
それで終わる
⸻
終わってしまう
⸻
それ以上続かない
⸻
続けられない
⸻
そのことに、
ほんの少しだけ違和感が残る
⸻
でも、
すぐに消える
⸻
最初からなかったみたいに
⸻
視線がずれる
⸻
白い布
⸻
揺れている
⸻
その奥に、
何かいる
⸻
今度ははっきり見える
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人の形
⸻
立っている
⸻
動かない
⸻
見ている
⸻
目が合う
⸻
はず
⸻
その瞬間、
形が崩れる
⸻
いなくなる
⸻
最初から、
何もなかったみたいに
⸻
いや、
⸻
違う
⸻
今、
確かにいた
⸻
そう思う
⸻
思ったはずなのに、
⸻
その“確か”が、
少しずつ薄れていく
⸻
曖昧になる
⸻
消える
⸻
残らない
⸻
立っている
⸻
何もしていない
⸻
何も起きていない
⸻
そういう形に、
全部が整う
⸻
広場を見る
⸻
人がいる
⸻
八十七
⸻
変わらない
⸻
変わっていない
⸻
その“変わらなさ”が、
少しずつ強くなる
⸻
固定されていく
⸻
他のものが、
全部曖昧になる代わりに
⸻
その数字だけが、
異様に鮮明になる
⸻
八十七
⸻
それだけが、
ずれない
⸻
ずれないことが、
少しだけ怖い
⸻
でも、
その感覚もすぐに消える
⸻
最初から、
何も感じていなかったみたいに
⸻
白い布が揺れる
⸻
風はない
⸻
なのに揺れている
⸻
その動きが、
ほんの少しだけ遅れる
⸻
いや、
⸻
最初からそうだった気もする
⸻
わからなくなる
⸻
全部が、
少しずつ、
⸻
上書きされていく
⸻
気づいた順番に、
消されるみたいに




