63食目、皮蛋
普段、忙しい身としては冒険者ギルドに隣接してる酒場で酒と飯を食べる事が日課となっている冒険者ギルドマスターであるドラン。
だが、久し振りギルドから遠出し繁盛しているという中華大衆食堂「悠」に足を運んでいた。
カランカラン
「いらっしゃいませ。一名様でしょうか?」
「あぁ1人だ」
「お一人様ご入店でーす」
噂に聞いていたが、女中は変わった格好をしている。少なくとも古都では見たことない服装だ。
それに太腿部分が歩く度に見え隠れするのも男性客に好評らしい。
「こちらにお願いします。お冷です。メニューでございます」
「あぁありがとう」
「ご注文がお決まりになりましたら、こちらのボタンを押してください」
水が入ったグラスは冷たい。噂程度しか知らなかったが、実際に見ると驚く。均一に整ったガラスで出来ているグラス。
ゴクン、水も美味い。成程、繁盛してる理由が良く分かる。別に女中の服装が物珍しいだけではない。料理もかなり美味しいに違いない。
「これがメニューか」
どれも見た事のない料理だ。どれにしようか悩む。お酒もあるのか。取り敢えず………生ビール?エールみたいなものか?
それと、さっきから気になっていた。黒い卵がどうしても気になる。
「このボタンを押すのだったな」
ピンポーン
「はーい、ただいまぁ」
小走りで案内してくれた女中とは違い、可愛らしい犬人族のお嬢さんが耳をピコピコさせて来る。
「ご注文をお伺い致します」
「あぁえーと、この生ビールを」
「ジョッキにしますか?それともビンで」
メニューを見ると、酒の量が選べるらしい。ギルドに隣接してる酒場にはないシステムだ。
「ジョッキで頼む。それと、この皮蛋とやらを頼む」
「繰り返します。生ビールをジョッキで、皮蛋を1つで宜しいですか?」
「あぁ」
「ごゆっくりどうぞ」
こんなに丁寧な接客は他の酒場では有り得ない。だが、ギルマス的には隣接する酒場にも金を落とさないと示しがつかない。
「はぁ上に立つのも辛いぜ」
ドランがため息を吐いてる最中、厨房では皮蛋を櫛形に切り分け盛り付けされていた。
皮蛋を作るには1ヶ月~3ヶ月は掛かるため、予め作られたものを盛り付けする。
皮蛋の作り方は、生石灰・木炭・塩・茶葉を混ぜたアルカリ性の泥の中に密閉させ発酵させる。
使う卵は、アヒルや鶏があるが、ここではアヒルの卵を使う。
殻を剥いた瞬間にアンモニア臭がするため、20分程置いた方が匂いな柔らかくなる。
皮蛋に合うタレは色々あるが、ここでは黒酢を使用している。皮蛋のクリーミーさと黒酢の酸味が調和して良い味になる。
「お待たせ致しました。生ビールのジョッキと皮蛋でございます」
「おぉ、これが生ビール…………何とも美しい」
キメ細やかな泡に金色に輝く液体が目を奪わせる。今まで木のコップに注がれていたエールとは見た目から大分違う。
「これが皮蛋、こちらも美しい」
櫛形に切られたそれは花弁みたく盛り付けされ、白身が黒く変色しているが透き通っており皿か透けて見える。
黄身は、幾分かトロッととろみがあり匂いが多少キツイが嫌な匂いではない。
「どれ、先ずは生ビールから!」
口に含んだ瞬間に苦さがガツンと来る。この苦さが美味しさなのだ。この苦さが無ければ、生ビールとは呼ばないだろう。
今まで飲んで来たエールとは根本的に違う。それに冷えている事も大きい。
今までのエールは常温、気温と同じ温度だったが、冷やす事で、ここまで美味しくなるとは!
このガツンと来る苦さはないが、もしかするとエールも冷やすと美味しくなるのではと頭の中で過ぎった。
いや、恐らく冷やすための魔道具を使っているのだろう。購入費と維持費で、容易く飲めるものじゃなくなる。
そうなっては酒場が立ち行かなくなる。だが、ここで偶に飲むのも悪くない。
「どれどれ、皮蛋とやらはどうか」
タレを漬け、口に放り込む。
「これは!」
黄身のクリーミーさにタレの酸味が調和して美味い。酒飲みには最高のツマミだ。ドランは気に入ったが、匂いが壁となって、皮蛋単体では頼む客は少ない。
「無くなってしまった。うむ、この値段ならまた頼むのも良いだろう。同じのを頼む」
「かしこまりました」
たまにの自分へのご褒美なら丁度良い。値段も料理によっては高いが、手頃なものは手が届く。
それに生ビールと皮蛋という新たな好物を見つける事が出来、それだけでも来て良かったと内心から歓喜を表していた。




