60食目、芙蓉蟹その2
蟹の身を取り出したら、甲羅の中にあるカニ味噌を別の器に取り出す。
こんなに身とカニ味噌を使う芙蓉蟹は日本や中国だと数千円は掛かるだろう。
だが、こっちの世界だと誰も蟹には見向きしないため、ほぼゼロ円に近い。
「卵を割って研ぐ」
今のガウンなら焼き物全般を任せてるが、悠真が会った当初は不器用で卵なんて力の入れ過ぎで割るというより殻ごと潰してた。
それが今では器用に割っている。それもヒビを態々入れずに片手だけでパカッと割れるまで成長した。
カシャカシャ
素人や面倒臭がりだと菜箸で生卵を掻き混ぜるが、プロだと態々泡立て器で掻き混ぜる。
泡立て器だと均等に黄身と白身を掻き混ぜる事が出来、空気を内側に閉じ込め焼きムラが無くなり出来上がりがフワフワと口の中で蕩けるような食感になる。
「カニの身とカニ味噌」
研いだ卵にカニの身とカニ味噌を10数匹分加え、食感のアクセントに青ネギとタケノコを微塵切りで加えて混ぜる。
「中華鍋に蝦油を引く」
やはり蟹と同じ甲殻類である海老の香りを抽出した油を使った方が良く合う。
綺麗な円盤状になるよう変に掻き混ぜずに火力と卵の固まり方を見極め、中華鍋を振るい宙に浮いた芙蓉蟹を中華鍋でキャッチして裏返す。
蟹と海老の香りが融合され、中華鍋を握ってるガウンの頬が蕩けてる。
「焼けた」
次に餡掛け作りだ。豪華に蟹と海老で抽出した出汁を煮詰め、そこに塩ダレを投入しグツグツと良い香りが漂い始めたら水溶き片栗粉を回し掛け、トロミを付ける。
最後の香り付けとして蝦油を本の少し回し掛けて餡掛けの完成だ。
「餡掛けを掛ける」
芙蓉蟹の上から餡掛けを芙蓉蟹が、たっぷり浸かる程に掛け、芙蓉蟹の頭上に茹でた蟹の身を飾り付け完成だ。
「出来た」
カパネラが芙蓉蟹の塩をリンリンが座ってるテーブルに運ぶ。
「お待たせ致しました。こちら、芙蓉蟹の塩でございます」
「ありがとうであります」
予想以上に美味しそうでゴクンとリンリンの喉が鳴る。それに湯気が立ち匂いが鼻から抜け脳に到達すると、キューっと可愛らしい腹の虫が早く食べされろと言ってるみたいに鳴く。
「これで食べるのですね」
一緒に着いてきたレンゲを手に持ち、カニ玉を切り分け餡掛けと共に掬い口に放り込む。
「これは!美味しい。卵がここまで美味しくなるなんて知りませんでした」
生で食べるより、たまにゆで卵にして食べるよりも美味しい。そして、この香りだ。何の香りかは分からないが、一層食欲を増進させてくれるような香り。嫌いではない。
肉でも植物でもない。おそらく海で取れる何かだ。食べた事のないのに頭の中で海の光景が過ぎる。
「確か、名前が芙蓉蟹とやらでしたわね」
これが蟹とやらの香りと味なのか?それと、たまにコリコリとした食感がする。これは植物か。面白い食感だ。
「味だけではなく、香りと食感までも楽しませるとは、カイト殿がオススメするだけはある」
それにしても手が止まらない。カニ玉に掛かってるドロっとした汁も良い働きをしている。
この汁のお陰で温かさをキープしつつ、口の中で噛まずにスゥっと溶けるように飲み込める。まるで飲み物じゃないか。
「無くなってしまった」
まだ物足りない。周囲を見渡すと、オカワリと叫ぶ輩がチラホラ見受けられる。
「オカワリ?とは、何なんだ?」
分からないなら女給に聞けば良いか。リンリンはボタンを押す。
ピンポーン
「はーい、ただいま」
タッタッタッと早歩きで来るのは可愛らしい犬獣人の女の子。
「ちょっと聞きたいんだけど、オカワリって何かしら?」
「えーっと、まだ食べたい時に注文する事ね」
「そう、ありがと。同じのを…………そうね、今度は醤油でお願い出来るかしら」
「芙蓉蟹の醤油、承りましたね」
同じのを頼むよりも違う味があるなら、そちらを頼む方が楽しめる。それに龍種は元々好奇心旺盛な種族だ。
ただ時間感覚が人間とかなりズレてるので、のんびりしてると思われる時期もある。
「お待たせ致しました。芙蓉蟹の醤油でございます」
「おぉ待ってました」
塩の時は白ぽい汁であったが、醤油とやらは汁が黒ぽく色付いており、見た目的には食欲を削がれると思いきや、これが醤油の香りなのか?
塩を食べた後だというのに醤油の香りで食欲が逆に爆上がりとなった。益々、お腹が空いていく。
パクっモグモグ
「塩も美味しかったが、醤油とやらもイケるわ」
塩が海を想像出来るというなら醤油は大地を思わせる。この卵を産んだ鶏が縦横無尽に駆け巡る様を容易に想像出来てしまう。
「アースに良い土産話が出来ました」




