59食目、芙蓉蟹
「リンきゅん、あそこ行ったぁ」
「アース、私はリンリンです。何度も言えば分かるのですか?」
ここは各龍種が住む龍の国、龍渓国。その八つある玉座の内、今2匹の龍が座っている。
1匹は緑色の鱗を持ち龍種で珍しい翼を持たない。その代わりに脚力に自信があり、土魔法と植物を操る能力を持っている。
その龍こそ、緑龍であり、玉座に座って居るのが緑龍王アースなのである。
そして、もう1匹は黄色の鱗を持ちアースよりも一回り大きく、アースと違って翼は生えている。
色からして雷魔法が得意で八人いる龍王の内最速で飛べるという。
この龍こそ、黄龍であり、アースの隣に座って話してるのが黄龍王リンリンなのである。
「リンきゅんはリンきゅんなの」
「まぁ良いです。あそこというのは、カイト殿が言っていたお店ですか?」
龍種の時間感覚は、森精族と同じで人間とズレてる部分がある。
5年前の事柄が、つい昨日の感覚に思えてしまう程だ。カイトと会ってからは直したい習性の1つだ。
「そうなの。アースは1人で行って来たの。とても美味しかったの」
「1人で………ですか」
そして、来てしまった。アースがうるさいものだから、自分も行ってくると言うまで話は続いていただろう。
それにカイト殿がオススメしていた店だけあって、いつかは行ってみたかったのは本当た。ただ、龍種の悪癖で億劫になっていた。
「たまには【人化】しないと腕が鈍りますし」
リンリンが【人化】すると、長髪の金髪で黄色いワンピースドレス、妖艶と思わせるスタイルの良さ、人が通り過ぎる度に振り返る。
「さぁ入りますか」
チリーンチリン
「いらっしゃいませ。お一人様でしょうか?」
「あぁそうだ」
「お席にご案内致します」
これが、カイトがオススメにていた店か?何度か人間の店へ訪れた事があったが、ここまで綺麗ではなく、活気もあるとは言い難かった。
だが、この店どうだ?常に活気はあり、清潔を維持している。それに良い匂いが漂い、席に着く前から腹が空いて仕方ない。
「こちらになります。オシボリとお冷でございます。メニューとなります」
「ありがとうございます」
リンリンは置かれたオシボリとお冷を見詰める。
「なるほど、これで手を拭くのですね。そして、これが水ですか?美味しい」
こんなに美味しい水は見た事がない。これなら料理も期待出来る。
「このメニューとやらに出せる料理が載ってるんですね」
リンリンは卵が大好物だ。龍の状態だと、殻のまま丸呑みをしてしまう。
「卵料理は………ここですね」
卵料理1つとっても色々あって目移りしてしまう。こんなにあったのか?
リンリンが知ってる卵料理といや、ゆで卵と目玉焼きくらいだ。
「これにしますか。これを押すのですね」
ピンポーン
「はーい、ただいまぁ」
数秒で女給が来る。他の飯屋には無いシステムだ。流石はカイトがオススメするだけはある。
「これをお願いしますわ」
「芙蓉蟹ですね。こちらはアンカケ、上に掛けるスープが選べますがどうしますか?塩と醤油になります」
塩と醤油?塩は分かる。だが、醤油が分からない。ここは未知じゃなく、分かってる味を選ぼう。
何故なら、ワタクシが大好きな卵を味わいに来てるのだから。
「塩でお願いしますわ」
「繰り返します。芙蓉蟹の塩が1つですね?」
「えぇ、間違いないわ」
「少々お待ちください」
リンリンは関心する。同じ飯屋でもここまで客に対する態度が違うものかと。
リンリンが知ってる飯屋は、もっと客に対して無関心であり、あれを類は友を呼ぶというのだろう。
そこに来る客もまた粗暴で、女であるワタクシにお酌を勧めてきた。
店員も特に止める素振りは一切なく、ワタクシはもちろん断った。その後の出来事は想像にお任せするとしよう。
「芙蓉蟹の塩1入りました」
「オデ作る」
焼き物担当のガウンが作る。
先ずはメイン材料の1つであるカニの身を用意する。ここ中華大衆食堂「悠」では、豪華にも高級食材であるワタリガニつまり上海蟹を使用している。
上海蟹は、5対目の足がヘラ状になっており、蟹の中で珍しく泳ぐからワタリガニとも呼ばれている。
身体自体はそこまで大きくないため、身を集めるために数十匹の個体を使う。
身を穿くり出すため、細長い金属製の道具を使う。足と挟みを全部切り落とし、グリグリと身を取り出す。
このまま生でも十二分に美味しいが、こちらの世界ではグロテスクに見えるらしく誰も食おうとしない。




