56食目、辣子鶏
「ここがカイト殿に教えて貰った料理屋か」
本当なら見上げてる2人は、庶民が通う料理屋に来れる立場ではないし、街中を自由に出歩けられない。教会に出る事が、余っ程の事がない限り出来ない。
それも全部黄昏カズトに貰った魔道具である【姿変えの眼鏡】を装着してるお陰だ。
「周りの連中、本当に我の事を気にしてない!それに………クンクン。まだ外にいるのに良い匂いがする」
180cmある長身な黒髪の男と140cmほどの小柄な白髪の少女が中華大衆食堂「優」の看板を見上げている。
今、二人の姿は【姿変えの眼鏡】で本来の容姿を変化させているからだ。
とはいえ、本当に変化させてる訳ではなく、周囲に幻を見せているに過ぎない。が、黄昏であるカイトにかかれば、幻を限りなく現実に近く昇華させられる。
「お嬢、入りますかい」
「外ではヘスティと呼びなさい。我………いや、ワタシもレオンハルトと呼ぶからの」
「へいへい、ヘスティ」
カランカラン
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「2人だ」
「ご案内致します。2名様入りまーす」
「わぁー」
今まで教会の外を出歩いた事はないけれど、本で読んだ事のある料理屋より綺麗で初めて見るものばかり。
つい、炎の天使であるヘスティアはキョロキョロと見渡してしまう。
「レオンハルト、お主もこんな料理屋は初めてか?」
「はい、おじ………ヘスティ。俺も自由に旅が出来る身分じゃないからな」
まるで別の世界に来たような感覚だ。神聖国ロマーでも見掛けない物ばかりだ。
「こちらへどうぞ。お冷とオシボリです。こちらがメニューとなります」
「水は頼んでないが」
「こちらはサービスとなっております。ご注文がお決まりでしたら、こちらを押してください。では、ごゆっくり」
透き通ってきるグラスに濁りが一切ない水、その中にある氷。神聖国ロマーで頼めば、金貨数枚は飛びそうだ。
「これがタダだと?!」
「レオンハルト珍しいのか?」
「水自体は珍しくないでしょう。しかし、ここまで透き通っている水は珍しい。しかも氷まで入っている。氷は極寒な地域で自然に凍るのを待つか、氷属性の魔法使いに凍らせて貰うかのどちらであります」
氷を極寒な地域で切り出し持ち運ぶのは現実的ではない。運んでいる内に溶けてしまうし、運送者もタダでは済まない。
氷属性の魔法使いを雇うにも大衆食堂で雇える程安いものではない。
それに1番の問題は、ここまで透き通っている水だ。ここまで浄化出来るのは、光属性の上位である聖属性か宮廷魔法使いレベルの水属性の魔法使いに限られる。
ごくん
「美味い」
しかも美味いときたものだ。見たところ、魔法使いを雇っている風には見えない。
「こんなに美味しい水を飲んだのは初めてよ」
水を浄化する意味は、安全に飲めるレベルまで不純物を取り除くのみ。味までは保証しない。
「これなら料理も期待出来るな」
レオンハルトがメニューを開くと、美味しそうな写真がズラっと並んでいて驚いた。
「こんな精密な絵は初めて見るな」
「すごーい。どれも美味しそう」
目移りしてしまう。それに1部を除いては庶民の懐に優しい値段にも驚く。
いくら大衆食堂といっても庶民なら3ヶ月に1回食べれば良い方だろう。
安くて量を食べたいなら神聖国ロマーでも宿屋の食堂に行く。レオンハルトでもそうする。
だが、ここなら毎日食べても暮らして行ける。まぁ美味し過ぎて、お代りをし過ぎたら別だが。
「俺は、これにしよう」
「ワタシはこれにする」
「これを押すんだったな」
ポチ
「はーい、ただいまぁ」
タッタッタッ
「お待ちしました」
「俺は、これだ」
「辣子鶏ですね。辛さはどうしますか?」
「辛さ?」
「こちらは辛い料理となります。星1~星10までありまして、目安として星1~星3までが甘辛、星4~星6までが中辛、星7~星10までが辛口となっております」
むむっ?今まで辛い物を食べた事はあっただろうか?今思えば、神聖国ロマーには辛い食べ物は無かった。
「星5を頼むとするか。おじ………ヘスティは何にするのだ?」
「ワタシは、この豚骨ラーメンするのだ。何か、ときめきを感じたのだ」
「えぇ、繰り返します。辣子鶏の星5がお1つ、豚骨ラーメンがお1つでよろしいでしょうか?」
「あぁ頼む」
レオンハルトとヘスティの注文を取り終えたカパネラは、お辞儀をし厨房の奥へと消えて行った。




