57食目、辣子鶏その2
「辣子鶏星5、豚骨ラーメン入りました」
「はいよ」
先ずは、ホッと心を撫で下ろす。辛い料理が入った時は冷や汗が出る。星10になると、作る側も咳き込む事態に陥るからだ。
ガスマスクを持ち出し、装着する羽目になる。まるで阿鼻叫喚だ。それで、ホール側にも及ばないために提供時、蓋をして出す。これが鉄則。
す
それでも鼻が敏感なガウンには辛い。そのため、ガウンは鼻栓とゴーグルをして立ち向かう事になる。
「オデ頑張る」
でも、炒めるのは鶏肉を揚げた終盤になるから………充満する前に調理が終わるはずだ。カプサイシンが充満した調理場は正に地獄絵図。
辣子鶏の肝となる唐辛子の配合はフェイフェイが行っている。
最初に鶏もも肉を拳大程に切り分け、辣子鶏専用のタレを揉み込む。
このタレにも辛さのランクに応じて唐辛子が投入しており、鶏肉の中まで染み込む仕様となっている。
唐辛子入りのタレが十二分に染み込んだら、これもまた唐辛子入り片栗粉をまぶし、余計な粉を払い落とし油に次々に投入して揚げていく。
半透明だった油は赤く染まり、まるで血の池地獄で揚げてるようだ。
辛さ星5でもガウンには辛そうで、ゴーグル越しでも涙目になっているが、そこは悠真が認めるまでに成長した料理人としてのプライドと悠真の期待を裏切たくない尊敬で我慢出来る。
だが、流石に星10まで来るとガスマスク完全装備でないとダウンする。
「1回休ませる」
1回真っ赤な唐揚げを取り上げパッドに移す。調理法の1つ2度揚げをガウンはやるつもりだ。
2度揚げする事により1度だけよりも外側はパリッと中側はジューシーに仕上がる。
「ガウン、その油は本来なら使えないな」
「でも、今回は加える」
唐辛子により真っ赤に染まった油。誰がどう見ても使えないと判断する。
だが、それはまだ甘口の段階である星1~星3程度ならの話。星5なら炒めて和えるタレに加えても問題無しだ。
赤く染まった油を中華鍋に引きニンニクを炒め香りをプラスする。こうする事で、強過ぎる唐辛子の香りをいくらか中和出来る。
若干、きつね色となったニンニクを取り出しフェイフェイ特製ブレンドした唐辛子の粉を放り込む。
既に真っ赤だった油が、血の色を通り過ぎてマグマの色と化している。
いくらか炒めた後に既に真っ赤な唐揚げを投入する。タレを絡めるようにお玉で掻き混ぜ、最後に切ってない唐辛子を数本足し、数秒炒めれば完成だ。
皿に盛り付けをして、最後に一緒に炒めた唐辛子を彩り良く飾り付ければ辣子鶏の完成だ。
「完成した」
脂汗を掻きながらゴーグルを外すガウン。味見はしてないが、見ただけで辛そうに見える辣子鶏から目を逸らす。
「お疲れ様。運んでくれ」
自分の料理を調理しながら見ていた分、ガウンの肩を軽く叩き労いの言葉を悠真は言う。
「お待たせ致しました。こちら、辣子鶏辛さ星5で御座います。辛いので、ご注意下さいませ」
「これは見事に真っ赤だな」
「初めて見るのに実に辛そうなのだ」
「どれ頂こうとしよう」
慣れない箸じゃなく、フォークで刺して口の傍まで運ぶと手が止まる。
何故だろう?本能からか、はたまた直感からか?止めろと警告して来る感覚がある。
だが、食べない選択肢はない。隣で天使ヘスティアが見てる。俺は、天使ヘスティアを守護する十二守護騎士の一人。けして、無様な格好を見せる訳には行かない。
パクっ
「これはなかなか………うっ」
外はコンガリと歯応えがあり、中はジューシーで肉汁が溢れて来たが、それは最初だけだ。
肉汁の後から辛さが追い掛けて来ては今にでも火を吐きそうになる。
条件反射で水のグラスを掴み、一気に水を口の中に流し込む。
ゴクゴク
「プハッ………ハァハァ」
「ど、どうなのじゃ?美味い………のか?」
今もまだ唇や舌が痺れてはいるが、嫌な痺れ方ではない。むしろ、心地良いと言っても良いくらいだ。
初めて食べた料理にて最初こそ驚きはしたが、今思えばクセになる。これが辛い料理というものなのか。
「おじょ………へスティには毒ですね」
「毒じゃと」
「えぇ毒です。ですから、俺が全部食べます」
これを食べさせたら天使ヘスティアは昏倒してしてしまう。だから、俺が責任もって食べるのだ。そして、今度は一人で来よう。




