表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
没落寸前の男爵令嬢なのに、冷徹な美貌の公爵が我が家を買い取って私のすべては俺のものだと迫ってくる  作者: 黒崎 隼人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/20

第18話「白百合の誓約」

 王都の空高くに、重厚な大聖堂の鐘の音が規則的なリズムで鳴り響いていた。

 雲一つない青空から降り注ぐ朝の光が、ステンドグラスを通して大理石の床に色鮮やかな模様を描き出している。

 教会の奥にある控室の鏡の前に立つアリアは、自らの姿を信じられない思いで見つめていた。

 最高級の純白の絹で仕立てられたウェディングドレスは、彼女の細い身体を隙間なく包み込んでいる。

 長く床に引きずる裾には、公爵家の紋章である剣と盾、そしてアリアが好む白百合の花が銀糸で精緻に縫い取られていた。

 頭上には数え切れないほどのダイヤモンドがちりばめられたティアラが乗せられ、動くたびに鋭い光を放っている。

 薄いレースのヴェールが顔を覆い、高鳴る心臓の脈打つ音だけが耳の奥で大きく響き続けていた。

 重い木扉が開き、迎えにきた初老の執事が無言で深く頭を下げる。

 アリアは大きく深呼吸をし、控室の扉を抜けて大聖堂の長い回廊へと足を踏み出した。

 巨大なパイプオルガンの荘厳な旋律が、石造りの高い天井に反響して頭上から降り注いでくる。

 両側に並べられた木製の長椅子には、国中の有力な貴族たちが僅かな隙間もなく立ち並んでいた。

 彼らの視線はかつてのような下級貴族への侮蔑を含んでおらず、次期公爵夫人に対する畏敬の念だけが満ちている。

 しかし、アリアの目は祭壇の前に立つただ一人の男性だけを真っ直ぐに捉え続けていた。

 純白の特別な礼服に身を包んだセリウスが、祭壇の階段の上からこちらを静かに見つめている。

 彼の銀の髪は神聖な光を弾き、その姿は宗教画に描かれた神の遣いと見紛うほどに美しい。

 アリアが一歩を踏み出すごとに、彼の青い瞳に宿る熱情が深さを増していくのが痛いほどにわかる。

 長いバージンロードを歩き切り、アリアは彼の手の届く場所でついに立ち止まった。

 セリウスが手を伸ばし、ヴェール越しの彼女の手を力強く、しかし壊れ物を扱うように握りしめる。

 白い革手袋を外した彼の素手から伝わる熱が、冷え切っていたアリアの指先を瞬時に温めていった。

 神父の厳かな声が大聖堂に響き渡り、神への誓いの言葉が静かに読み上げられる。


「病めるときも健やかなるときも、これを愛し、敬い、守り抜くことを誓いますか」

「誓います」


 セリウスの声は少しの迷いもなく、広大な空間の隅々にまで力強く響き渡った。

 アリアもまた、震えそうになる声を必死に腹の底へと抑え込み、はっきりとした声で誓いの言葉を紡ぐ。

 白金で縁取られた重たい指輪が、セリウスの指によってアリアの薬指へと静かに滑り込んだ。

 大きな青い宝石が埋め込まれたそれは、彼の瞳と同じ色をして光を反射している。

 セリウスの長い指がアリアのヴェールの裾を掴み、時間をかけて後方へとめくり上げた。

 視界を覆っていた薄い布が取り払われ、彼の熱を帯びた顔が目前に迫る。


「私の命が尽きるその日まで、君だけを愛し抜く」


 唇が触れ合う直前に囁かれた声は、世界中の誰の耳にも届かない、彼女だけに向けられたものだった。

 火傷しそうなほどの熱を持った深い口づけが、アリアの心に巣食っていた長い冬を終わらせる。

 永遠に続く春の始まりを確かなものとして刻み込み、二人の吐息が甘く交じり合った。

 大聖堂の重い扉が外に向かって大きく開かれ、眩しいほどの陽光が祭壇の二人を包み込む。

 アリアは彼の差し出した太い腕に自らの腕を絡ませ、光のあふれる未来へと向かって堂々と歩みを進めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ