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錬金術?いいえ、材料工学です。授かったスキルで海洋国家の覇者になります!  作者: 秋澄しえる


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第86話「巨人、到来」

 四月上旬のお昼過ぎ。


 居間で図面とにらめっこしてたら、ヴァレリアさんが入ってきた。


「ルカ様、お客様です」


「お客様?」


「はい」


 え!?まさか…。


「す、すぐ行きます!」


 扉が開くと、見覚えのある大柄な男性。傷だらけの顔、太い腕。


「よお、ルカ。久しぶりだな」


「マルコさん!」


「おう。予定通りで問題ないか確認しておきたくてな、先触れとして来ちまった」


 マルコさんがニヤリと笑う。


「ロレンツォ兄さん!マルコさんが来ました!」


「お、マジか!」


 兄さんが階段を駆け降りてきた。


「マルコさん、お久しぶりです」


「おう、ロレンツォ。元気そうだな」


 二人がガシッと握手。


「で、船団は?」


「三日後に到着する。予定通りで問題ねぇか?」


「もちろん。ドージェと評議会からの承認も得ている。ウルカニア島の使用許可も」


「そうか。じゃあ、打ち合わせた通り、ウルカニア島の北側に停泊させる」


「了解。じゃあ、ドージェへは俺から連絡しておくので安心してくれ」


「ああ、頼んだ」


 マルコさんがこっちを向いた。


「ルカ、三日後にウルカニア島で落ち合おう」


「はい!」


「じゃあな」


 マルコさんはそう言うと、さっさと帰っていった。相変わらずせっかち。


「三日後か…」


 僕は拳を握った。ついに、始まる!



◆◇◆◇◆



 三日後。


 僕とアディは、改造した船でウルカニア島へ。ランさんも自分の船で並走。


「ルカ、楽しみだね!」


 アディが目をキラキラさせてる。


「うん!すっごい楽しみ!」


 風が気持ちいい。船は、フィンのおかげで安定してる。最高!


 やがて、ウルカニア島が見えてきた。僕たちは島の北側に船を繋いだ。ランさんも隣に。


 僕たちが、島の東側の岸辺に立って、少し靄っている水平線側を見つめていると…。


「…来た」


 靄の中から次々と船が見えてきた。一つ、二つ、三つ…。


「うわ、すごい…」


 船だ!たくさんの船!二十隻以上!


 そして、その背後に、他を圧する巨大な船が姿を現した。


「あれが…」


 僕は言葉を失った。


 他の船の倍以上ある。いや、三倍?四倍?


 双胴船だ。二つの船体が並んでる。


「ナーヴェ・マードレだ」


 それがドック船の名前なのか。かっこいい。


 船団は、迷うことなく、ウルカニア島の北側へ。次々と停泊していく。


 ナーヴェ・マードレは、その真ん中にドーンと。


 圧倒的すぎる。


「…行こう」


 僕たちは、それぞれの船に乗り込んで、ナーヴェ・マードレへ。



◆◇◆◇◆



 ナーヴェ・マードレに横付けすると、タラップが降りてきた。


 甲板に上がると、マルコさんが待ってた。


「よお、来たな」


「マルコさん!」


「おう。ラン、アディ、お前らも元気そうだな」


「ああ」


「はい!マルコおじさん!」


 アディが元気よく答えた。


「ははっ、元気でいいな。さあ、中に入れ」


 マルコさんに案内されて、船内へ。


 広い会議室みたいな部屋。テーブルには、すでに図面が広げられてた。


「さて、ルカ。工場の詳細を確認させてくれ。変更点があれば、それも含めてな」


「はい!」


 僕は、持ってきた図面を広げた。


「以前もお話しましたが、工場は三階建てにします」


「ふむ」


「一階は高炉と鉄筋の製作場所です。当初、精錬炉も考えていましたが、高炉の温度を予想よりも高く設定できそうなため、精錬炉は作らないことにします」


 僕は図面を指差しながら説明していく。


「高炉はここ。形状がこれまでの高炉とは大きく異なりますので注意してください。完成後は、鉄筋製作とともに、セレニアの鍛冶師であるマエストロ、ビアージョさんに管理をお願いしてあります」


「なるほどな。で、二階は?」


「二階は、鉄筋に亜鉛メッキをするための場所です。亜鉛は大丈夫そうでしたか?」


「ああ、相当な数を持ってきた。おそらく足りるだろう」


「良かった。このメッキをするための亜鉛を溶かすのは、高炉の排熱を使います」


「妥当な線だな。いいだろう」


 マルコさんが頷いた。


「三階は、海水の濾過と蒸留です」


「ほう」


「はい。海水を濾過してから、高炉の排熱で蒸留します。そうすれば、真水と塩ができます」


「それはいいな」


「三階で作った水は、重力を使ってパイプで工場内に供給したり、同じく排熱を利用してお湯を作ったりと、自由に使ってもらってかまいません。お風呂を作るのも良いと思います」


「…よく考えてあるな。風呂が使い放題になるのは助かる。そんな現場は聞いたこともないがな」


 マルコさんが満足そうに笑った。


「それと、高炉から出るスラッグは、冷やせばコンクリートの砕石として使えます」


「ゴミも資源になるってか。完璧じゃねぇか」


 マルコさんがニヤリと笑った。


「で、動力源は、持ってきた潮汐水車と波力水車ということか」


「はい。水車で蓄圧式の動力を作って、高炉の送風や鉄筋製作の機械を動かします」


「蓄圧式?」


「はい。水車で海水を圧縮して、タンクに溜めるんです。そこから徐々に使っていくように仕組みを作れば、連続運転ができます」


 図面を見ながらマルコさんが思案している。


「…こんな手があったか。こりゃすげぇな。おまえさんには驚かされてばっかりだ」


 マルコさんが呆れたように笑った。


「わかった。こいつは面白い。やってやろうじゃねぇか」


「お願いします!」


「あとな」


 マルコさんが立ち上がった。


「工場の外壁はレンガ造りにするぞ。材料は全部持ってきた」


「本当ですか!」


「ああ。レンガも木材も、全部な」


「助かります!」


「ただし、高炉用の耐火レンガはおまえさんが用意するんだろ?」


「はい。もう作ってあります。いつでも持ってこれます」


「よし。ラン!」


 マルコさんが図面の上に手を置いた。


「工場建設の指揮は、おれがやる。ランはそれを見て、現場指揮の仕方を覚えろ」


「わかりました」


 ランさんが頷いた。


 それを確認して頷き返すと、マルコさんは、紙とペンを取り出した。


 そして、僕の説明を思い出しながら、サラサラと描き始めた。


 速い!あっという間に、工場の概要図ができた。


「こんな感じでいいか?」


「…完璧です」


「よし。じゃあ、これで進める」


 マルコさんが満足そうに頷いた。


「さあ、次はお楽しみだ」


「お楽しみ?」


「おう。ついてこい」


 マルコさんに案内されて、船内を歩いた。長い廊下を進んで、階段を降りる。


 そして、一際大きな扉の前で止まった。


「開けるぞ」


 扉が開けられ始めるとともに空気が変わった。新しい木材の香り。


「…すごい」


 そこは、巨大な空間だった。船の中とは思えないくらい広い。天井も高い。


 そして、その真ん中に…。


「船…!」


 これは…マルコさんに以前渡した設計図通りの船!


 全長三十メートル。三角形にも似た、流線型の美しい船体。


「おまえさんの設計図を元に作った船体だ」


 マルコさんが言った。


「どうだ?」


 僕は船体に駆け寄った。手で触れる。


 滑らか。精密に組まれてる。


「マストもあるぞ」


 マルコさんが指差した。


 船体の傍らに、長いマストが横たわってた。全長五十メートル。


 これも、設計図通り!


「マルコさん…ありがとうございます」


「礼はいらねぇ。これはおれが請け負った仕事だからな」


 マルコさんが笑った。


「で、いつからやり始める?」


「工場が稼働したら、すぐに」


「よし。楽しみにしてるぜ」


 その時、外から轟音が聞こえた。


 ズドン、ズドン、ズドン…。


 木が倒れる音だ!


「お、始まったか」


 マルコさんがニヤリとした。


「行くぞ」


 僕たちは急いで甲板に出た。そして、ウルカニア島を見た。


「…すごい」


 アディが呟いた。


 島の木々が、次々と倒されていく!


 三番衆の人たちが、斧を振るってる。いや、斧だけじゃない。魔法だ!


 風の刃が木を切り裂いてる!


 倒れた木は、すぐに枝が全部落とされて、荷運び用の船に次々と運ばれていく。


 その船も、特殊な形。甲板がほぼ平らで、マストが邪魔にならない位置にある。作業用の船だ。


 よく見ると、見たことがない形の船が多い。職人集団専用の船なんだろう。


「ありえない速さ…」


「これが三番衆の力だ」


 マルコさんが誇らしげに胸を張ってる。


 轟音が、島中に響いてる。木が倒れる音。人々の声。


 全てが、始まった。


 胸が高鳴る。期待と興奮で、体が震える。



(第86話「巨人、到来」終わり)



◆◇◆次回予告◆◇◆


「アディです!三番衆の人たち、すごすぎる!あっという間に木を倒して、島が変わっていくの!ルカも興奮してる。工場の建設も始まるし、ルカの船も作り始めるんだって!楽しみがいっぱい!」


「次回、『建設開始』。夢が、形になる」

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