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錬金術?いいえ、材料工学です。授かったスキルで海洋国家の覇者になります!  作者: 秋澄しえる


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第80話「改修」

「回流水槽でもあればなあ」


「かいりゅうすいそう?」


「あ、ごめん、独り言」


 僕とアディは研究所(仮)で、ランさんの船のことを検討していた。


「船体そのものを硬くするだけではダメだったんだけど、アディはあの船に乗ってどう感じた?」


「とにかく風と波に弱いって感じた。舳先が波を割る感じが全然なくて、とにかく全部が滑るような感覚だったよ」


「やっぱりそうだよね」


 そう言いながら、紙に絵図面を書いていく。上から見たとこと、下から見たとこと、横から見たとこ。


「前から思ってたけど、ルカって、絵を描くのうまいよね」


「そ、そうかな」


「そうだよ。だって、普通、こんなに細かく綺麗に描けないよ」


 褒められて悪い気はしないけど、こんなに近くで手放しで褒められると照れちゃう。耳が火照った感じがする。


「絵だけは、子供の頃からたくさん描いていたからなあ」


「好きだったんだ」


「うん、そうだね。ただ、動物や植物の絵じゃなくて、設計図ばかり描いていたような気はするけど」


「ルカらしいね」


 アディの微笑みは天使の微笑み。天真爛漫な笑顔ってこういうことを言うんだろうなあ。…いけない、進まなくなる。


「…えっとね、今回の場合、船体のキール(竜骨)で、水を捉えられなくなったのが一番の原因なんだ。だから、ここに…」


 前後の船底に二つの四角を描いた。


「こんな感じの板状のものをつけたい。材質は、船体と同じ樫材プラスCNFセルロースナノファイバーと芯材にタングステンの薄板。ただし、溝も穴も開けたくないのね」


「私のスキルの出番?」


「そう。お願いできる?」


「もう!言ったでしょ!?一言、やって!ってだけいえばいいの!そういう気づかいはいらないの!」


「は、はい」


 アディが、本気で怒っているわけではないのは表情でわかる。本気で言っているのもわかる。遠慮するような間柄じゃないって言いたいんだろうな。


「…じゃ、じゃあ、これとこれを『接合』して」


 樫材プラスCNFの板を机に置き、その上に同じ板を縦にして置いた。


 その接続箇所に、アディが右手をかざした。


「接合」


 アディの『接合』スキルは、発動までに十秒かかる。この十秒間で、徐々に進んでいくわけではなく、十秒たつと急に発動して結果がでる。僕の左手の『粉砕』スキルと、こういうとこが一緒なのだが、なぜ同じなのかは全然わからない。


 十を数えたころ、板と板の間の隙間が消えた。元からその形だったかのように。


「あれ?」


「どうしたの?」


「以前より楽に使えたかも」


 レベルアップしたのかな。僕もそうだったし。


「慣れてきたのかもね」


「うん、そうかも。で?どう?」


「完璧さ。期待通りの結果。これなら、僕が考えた通りにできそう」


 床下に置いておいたCNFの塊を机の上にあげる。


「ちょっと待っててね。必要なの作っちゃうから」


「うん!見てていい?」


「もちろん!」


 最近、『圧縮』スキルもやれることが増えてきたように感じる。樫材へのCNF浸潤もそう。以前はあんなことできなかった。時計の精密歯車を作った時もそうだったけど、それまでできなかったことが新たにできると楽しくなる。


 まずは、タングステンの薄板を六枚作る。五十センチ四方のを四枚と、長さ五十センチ幅三十センチのを二枚。メートル定規とL字定規で計りながら正確に。何回か失敗してやり直したけど、想定通りの重さと大きさの薄板ができた。このような形の微調整が『圧縮』スキルでできるようになったのは大きいなあ。どんどん便利になっていく。


 次に大きい薄板と小さい薄板を合わせてL字にする。


「アディ、ここのくっついてるとこを『接合』して」


「うん」


 アディが右手をかざして十秒たつとくっついた。何度見てもすごい。溶接なんて目じゃない。


「こっちも?」


「そう。こっちも。待ってね」


 今度は逆L字にして、同じく『接合』してもらう。これで芯材は完成。


「で、今度は、この芯材全体を複合樫材(樫材プラスCNF)で覆う。これも『接合』で」


「じゃあ押さえてて」


「うん」


 木材と木材、金属と金属ならわからないではないけど、異なる性質の材料どうしが、元からそうであったかのような接合の仕方をするのは不思議で仕方がない。でも、そんなこといったら、僕の『圧縮』も不思議でしかないけど。


 カイさんの乗船『スパッカ・テンペスタ』。あの時は『圧縮』スキルで圧着して問題なさそうだったけど、アディの『接合』スキルを見た後だと不安になる。大丈夫かな。今度会った時はいろいろ改修させてもらおう。


 さて、これで二枚の板と、L字型と逆L字型の板二枚、合計四枚完成。


「これでおしまい?」


「ううん、まだ。ここから少し調整するよ」


 船体接続部以外の断面部を丸く整形してから、それぞれの板の真ん中から後ろを三センチ、先端を一・五センチに『圧縮』スキルを使って調整する。厚みの差をカーブを描くようにゆるやかに…。あ、これ大変!力技じゃない微調整の方が力を使うのかも。面積も広いから、ゆがみがでないように慎重に。


 四枚すべて終わった頃には汗がでてきていた。アディが心配そうにハンカチで拭いてくれてる。集中しすぎて気づいてなかった。


「ルカ、大丈夫?」


「…うん、ありがとう。これで完成だよ」


「やった!」


「じゃあ、ランさんの船に接合しようか。カヴァーナ(船置き場)まで持っていこう」


 と言いながら持ち上げようとしたけど動かない。あ、しまった…。


「これ…重すぎて持てないや」


 考えてみたらそうだよ。タングステンの比重を考えたら、一個あたりの重さが、えーと、ざっと四十キロ…四十キロ!?今の僕じゃ無理すぎる。


「あ、じゃあ、ルーチェを呼んでくる。ルーチェなら大丈夫だよ」


「え?ルーチェさん?」


 僕が訝しんでる間に、アディは外に走っていった。ルーチェさんってそんなに力持ちなの?イメージ的にリナさんなら片手で持ち上げられそうだけど。


 うーん、重いものを移動させる手段もなにか考えておいた方がいいなあ。今後、なにかとこういうことありそうだし。あ、台車とかいいかも。折り畳み式の台車あったら便利かも。それだと軽い金属も欲しいな。アルミとかチタンとか。今度試してみよ。


「ルカ、お待たせ」


 アディが戻ってきた。ルーチェさんとニーナさんが一緒だ。


「ニーナ、ルーチェ。この四つをカヴァーナまで運んで欲しいけど大丈夫?」


「この板状のものですか?」


 そう言いながらニーナさんが片手で一枚持ち上げた。え!?片手!?四十キロだよ!?


「ニーナさん!重くないの!?」


「軽くはないですが、持てないほどではないです。ルーチェ、二つずつ持っていきましょう」


「はーい」


 ルーチェさんは返事すると、大股で近づいてきて、ニーナさんと同じように片手に一枚ずつ持ち上げた!


「すごい…」


 こんなの驚くしかないよ!二人とも大柄な方じゃない。むしろ華奢な方!エプロンドレス姿の女性が、片手に四十キロずつ持って危なげない足取りで歩いてる。どういうこと!?


「あ、そっか。ルカは初めて見たのか。リゾーラのメイドたちは、みんなあんな感じだよ?」


 リゾーラのメイド衆すごすぎ…。



◆◇◆◇◆



「よし」


 ランさんの船の底に、アディの『接合』スキルで四枚の板がついた。


 前部分に羽付きが二枚、船尾部分に羽無しが二枚。どちらとも微妙に角度をつけてハの字型につけた。


 仕上がりをランさんが確認してる。


「ルカ、これで完成?」


「うん、とりあえず完成。他にもやってみたいことはあるけど、まずはこの状態で問題ないか確認したいかな。ランさん、お願いできますか?」


「ああ、かまわん」


 ランさんが滑車とロープを使って、船を水面に降ろした。僕とアディが急いで船に乗り込む。そして、ランさんが最後に乗った。


「…以前とは見違えるほどに安定性を感じるが…なんだ、これは。勝手に前に進んでる?」


「ええ、先ほど見てもらった四枚の板。あれに角度をつけたのがこのためです。直進安定性は格段にあがっているはずです。ただ、旋回性能は以前より落ちていると思います」


「戦闘する船ではないしな。そこまで小回りは求めないさ。では、行ってみるか」


 ランさんはそう言うと、帆をおろし風をとらえた。その直後、船が即座に加速した。


「なに!?」


 一瞬慌てたようなランさんだったが、すぐに帆と舵を操作して立て直した。そして、前回と同じようにウルカニア島に舳先を向ける。


「ウルカニア島に向かうぞ。その方が比較しやすいだろう」


「はい!」


 船の挙動が比べ物にならないくらいに安定している。合計百六十キロの四つのフィン(板)が船自体の重心を下げ、その形状がほどよい水の抵抗を推進力に変えている。滑っている感じは一つもなくなり、むしろレールの上を進んでいるかのようなブレの無い機動性を感じる。


「ルカ…これはすごいぞ」


 船はどんどん加速していく。今日は前回よりも波が高めだが、舳先という刃がすべて斬り裂いていく感じだ。予想以上に良い仕上がりになったかも。


 前回と同じ様に立っていたアディが怪訝そう顔をしている。


「あれ?なんか…浮き上がり始めた?」


 アディの言葉とともに、船自体の振動が減っていく。波よりも舳先が上に上がったせいで干渉するものがなくなったからだ。よし!設計通り!


 船体の前部分が上がるとともにさらに速度があがった。


「速い!すっごい速いよ!ルカ!すごい!」


「これだけの速度なのに舵がもっていかれない。なんだこれは…こんな挙動は初めてだ」


 二人の賛辞の声を聞き、ちょっと誇らしくなった。海の民に褒められるってうれしいもんだなあ。


「ランさん、減速する時は、通常の船の動きで大丈夫です。今度は言うこと聞いてくれるはずです」


 試してみたのだろう。ランさんが風上に船首を向けた。うん、ちゃんと減速してる。いいこ!


「問題なさそうだ。このままウルカニア島の周囲を回ってから、エスト島の防波堤の建設予定地まで視察してから帰るぞ」


「はい、お願いします」


「たーのしいぃぃぃ!」



(第80話「改修」終わり)



◆◇◆次回予告◆◇◆


「船の改修は成功!でも、やることはまだまだたくさんいっぱ!技術顧問としても、セレニアのために。マルチェッロ家のために!…あれ?兄さん、なんでそんな顔してるの?別に悪いことしてないよ?」


「次回、『悪だくみ?』。善意と計算と」

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