そもそもガチャは引いたのか-2
恒常星5キャラ、シボラ・カカオとは、本編のストーリー内容では本来敵対していたキャラクターの一人である。
簡単にその存在を説明するならば、並行世界の存在を吸収する異物側のソレであり、一癖も二癖もある性格がウリだった。シナリオ終了後はそのあくどい性格が露骨に出ることなくナリを潜めて虎視眈々とエリシオンの組織乗っ取りを企てていたのだが、諦めたなどといった描写が一切なかったことから警戒すべき対象であることには変わりない。
玄武が指揮者の前にサッと出た姿を見て、シボラは苦笑を浮かべる。
「え~と、どうしてそう警戒……と云うより敵対心を向けられているのか分からないんだけど?」
「はじめまして、シボラさん」
「元気がいいね! 俺はそういうやる気がある人は大好き」
「あ、ちょっとそう気軽に馴れ馴れしく近付かないでほしい」
まるで友好的な握手を求めるかのように指揮者に片手を伸ばしたシボラに玄武は、焦燥にも似た危機感を抱きながら、口頭で注意をする。シボラは玄武の牽制に何か思うことがあるような表情を浮かべたものの、無理をしてまで指揮者と握手をすることはなかった。
「ハハハ、どうしてか分からないけど嫌われてるみたい。エリシオンの組織は新参者には厳しいのかな」
シボラはそう云いながら、チョコレート味のキャンディをポケットから取り出し、包み紙を外して口の中で転がす。その様子を見て指揮者は「チョコレートが好きなんですか?」と訊ねた。
「うん、俺か? そうだなぁ、チョコに関しては色々思うところはあるけど、基本的に好きだぜ」
「思うところ、ですか」
シボラは指揮者の質問に答える代わりに、笑ってみせる。笑うだけで何も答えなかった。
「俺の好物よりも指揮者……ちゃんと食べているのか? 身体は資本なんだから基本的なメンテナンスは欠かしちゃ駄目だ。真冬でも寒さなんて知らないように外を駆け巡る。それぐらい元気な風の子でいてほしいな」
「ありがとうございます。ちゃんと食べてますよ。エリシオンの食堂のご飯って、美味しくっていつもより食べてしまうんですよね」
「太り過ぎに注意だね」
……玄武は指揮者の前から退かない状況でありながらも、二人のやり取りを黙って聞いていた。通常ならばシボラは要注意とまでいかずとも、思わず注意を注がずにはいられない人物だ。だがそれよりも気になったのが、玄武と同じくエゴ……自我を獲得していないかの注意であった。
上記の会話は当たり障りのない……シボラの素性を知っている者からすれば「それらしい」台詞に満ちているものであるが、脚本の台詞ではなかったのである。
玄武は拠点に戻った時、相棒である青龍の存在がないか探している時に台本の台詞を繰り返し述べる者と、そうじゃないものがいることに気付いた。その差異、違いの意味は何なのだろうかと思い、シボラだけに限らずキャラクター全員に意識を向けている。まるで生きているような……と思わせる脚本から離れた言葉の数々は、意思があるように見受けられるのだ。それに玄武自身、己だけが自我を会得したと判断をつけるのはあまりに早計過ぎる為、可能な限り冷静な観察眼で静観しているのが現状である。
もしもシボラに自我があると云うのなら、非常にややこしいキャラクターが来たものだと思う。何せ相手は異物側の敵、章ボスでありながらエリシオンの檻に閉じ込められ、紆余曲折を隔てて自由になり、仲間になることが許された存在だ。油断ならぬ点として、この組織を乗っ取ろうと画策している点が非常に悩ましい問題であった。
玄武が云えたことではないが、シボラは限定ガチャから来るキャラクターほど強烈な強さを持っていないがレアリティの高いキャラクターが来てくれたことは非常に喜ばしいものだと思う。どうせ来るのであれば、強さに限らず安全だと判断し云い切ることのできるキャラクターであってほしかったが、それを望むのは強欲なのだろうか……?
玄武は、悩むことが多くなったと思う。その例として、そもそもキャラクターである架空の存在が自我を会得したこと……それに付随する理由、もしくは他に自意識を芽生えさせた者がいないかの思案。時折、現実世界の情報が脳内になだれ込む謎の現象。ほぼ諦めかけているが、相棒である青龍との邂逅。そして腹に一芸を持つシボラの登場など、一つひとつが難題で考えることが多いと思うのである。
知恵熱が出そうだと玄武は戦闘要員であるにも関わらず、研究者のように頭を使わなくてはならなくなった。頭脳労働よりも身体を動かす方が好ましい玄武にとって、今の状況は苦手の一言につきる。
重苦しい溜息を出したいところであったが、今早急に対処すべきはシボラの方かと悩み事に対して優先順位と重要度を付けた矢先、キズナが現れた。




