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そもそもガチャは引いたのか-1

 当然のことながら、このゲームはソシャゲである以上、課金システムの一環……いや醍醐味であるガチャ要素がある。最早全てのソシャゲに標準装備されていると云っても過言ではないそれは、プレイヤーの歓喜と阿鼻叫喚がギッチリと詰まった天国と地獄であった。

 確かガチャの種類はキャラクターと装備品の二つがあると玄武は思いながら、指揮者に俗にガチャ石と呼ばれている、『円盤』なるものが丁度十連分揃ったことを告げるのであった。本編や一キャラクターとしてはあり得ないメタ的な言葉を喋っていると思いながら、軽く新しい出会いや戦力強化のためにこの円盤は消費すべきだと進言すると、「そうなんですか」と何処か要領を得ない返事が返ってきた。

「君ね……ガチャ石を十連分集めたということは、日頃のデイリークエストやプレゼントボックスの中身を開いて得ているだろうに。ガチャ石を消費せず初期の無料ガチャで今後のストーリーを攻略しようだなんて……どれほど重たい縛りプレイが好きなプレイヤーでも存在しなかったよ」

 信じられないことだが……世の中には、通常のプレイとは異なった遊び方をする人間と云うものが存在する。

 それはRTA……最速クリアだったり、低レアリティのキャラクターで高難易度クエストのクリア、HP1の状態を保ったままノーダメージクリア、属性・モチーフ統一など様々な遊び方が為されていたように思う。

 その中でも事実上玄武は奥義を有しない、星4キャラでありながらどのキャラよりも劣っている作中屈指の不遇キャラと認識されている為か、縛りプレイを楽しんでいる人間がスーパープレイをするために、単独でボスエネミー撃破など映える遊び方をされていた。

 もはや変態プレイヤーか極端な愛情を向けられ、通常戦闘の編成に組み込まれないのが日常的扱いであったのだが、人間はどうしてそこまでマイナーキャラに対して熱い熱量を抱いてられたのが、玄武自身からすれば自我を得てもなお不思議でならない。

 縛り好きなプレイヤーは自己の賞賛の為だと思えば何となく理解できないこともなくはないが、ネタ抜きにして玄武に強烈な愛情をサービス終了まで向け続けた物好きは、心底理解できない人間のように思えた。度し難いとまではいかないが、他に魅力的なキャラクターがいるのになぜだろうと思う。不思議である。

 そもそも玄武の能力は初期に実装されたプレイアブルキャラであるが為に、氷属性の基本性能しか有していない。その上、奥義も強化も無に等しい状態なので、例え人権キャラではなくても同じ属性のキャラ追加実装イコール、全てが自分の上位互換といっても大袈裟や過言ではなかった。

 玄武は斯様な……非常に悲しい現実的な思考を持ちながら、戦力増加のために……たとえ覇権キャラじゃなくてもいい……主人公をエネミーから身を守る強力で有能な装備品のひとつさえガチャから出てくれれば良いと思っていたのである。確か十連ガチャにはキャラ装備を闇鍋にした星4が一枚だけ絶対保障されており、ピックアップではない恒常ガチャとは云えども引くのはどこか義務のように思えた。

「そもそも指揮者……君は初回の無料ガチャを引いたのかね?」

「ガチャと云うのは何のことなのか分かりませんが、意識の中にでもとでも云うべきでしょうか……脳裏にボタンを押すといった場面が浮かび上がって、押したような記憶があります。確か医務室から出て、あなたと話してそれから後のことでしょうか」

 なるほど……ガチャシステムはそのように搭載されているのかと頷く玄武に対して、指揮者は「詳しいんですか?」と質問をする。玄武な素直に首を横に振った。

「それほど詳しいものではない。必要最低限の知識ぐらいしかないのさ。ただ円盤を集めてガチャを引けば、強力な戦力を得る可能性がある、とね……」

 本来なら恒常ではなく、ピックアップガチャを引きたいところではあった。何せ限定ガチャは恒常には決してラインアップされない、珍しく強力なキャラクターに装備品が揃っているからである。

「ともかく十連分ガチャはたまっているんだ。円盤十枚をガチャに投資してくれ」

「青龍さんが出るといいですね」

「それは……」言葉に詰まった。「どうかな。レア度云々関係なく、来てくれるかどうか分からないんだよ」

「とても強いとお聞きしていますよ、玄武さん」

 果たして指揮者は誰からその話を聞いたのか分からないが、玄武の相棒である青龍の強さは本当に話半分に訊くべきだと思った。いや、もっと云うなら半分より以下の最小限。何せ実装されていないキャラだ。リアルであるプレイヤーたちの中ではイベントや本編が更新される度に集団幻覚のような様子を見せ、悲嘆とネタの入り混じった活躍(妄想)ばかりが掲示板等で盛んに行われるのが行事だった。

最後まで実装することのなかった、相棒か……。

 その架空の強さ議論は集団幻覚のプレイヤーたちの中では「スーパーハイパーウルトラアルティメット極悪最強国土無双東方無敗常勝キング」といった頭の悪そうな(実際悪い。小学生じゃないんだぞ)長ったらしいあだ名までつけられている始末であった。集団幻覚者以外の人たちにも、スーパーハイパーウルトラアルティメット極悪最強国土無双東方無敗常勝キングだから実装されていないが口癖となっており、最早ミームじみた共通認識となっていたように思う。そこの部分は玄武でも少し笑える要素だったが、渇いた笑いのような半笑いが実情である。

 ネタにされているだけマシだったのか果たして分からないが、玄武は現実世界での扱われようから意識を離して、指揮者を見る。ガチャを引けと玄武の言葉を受け取った素直なその人は、難しそうな顔をして目を閉じていた。初回無料のガチャを引いたと述べていた時、脳裏にボタンらしきものを押したと述べていたのだが、その場面に移行するために脳内でイメージを膨らませているらしかった。

「あ……円盤が吸い込まれるように次々に投げ込まれ、なんでしょう……倉庫らしき建物の扉が光っています!」

 ガチャ演出だ。

 玄武は腕組をしながらそう思っていると、「指揮者は虹色に光った!」と述べた。十連ガチャには最低保証の星4が絶対に約束されていると述べていたが、その虹色の演出は特別なものでもあり、特殊なものでもあり、そして何より極上のものであった。

「SSR、星5ガチャ演出か――!」

 なんて幸先の良い――指揮者は幸運だと思った矢先に、自動のスライド式ドアが開いて足を踏み入れる者がいる。

 玄武は十連ガチャで排出されたキャラだと思いながら、その方向に視線を向けるとそこにいたのは、恒常星5キャラの……。

『こんにちは、指揮者。俺はシボラ・カカオ。ところで、チョコレートって美味しいよねえ』

 恒常星5キャラ、シボラ・カカオ。

 玄武はその存在を認めた瞬間、指揮者の身を守るように前に出たのは云うまでもない。

 自然と身体が動いたのだ。


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