そもそもガチャは引いたのか-3
「これはこれは、お清楚なお嬢様じゃねえか」
意外なことにキズナの登場に逸早く反応したのは、シボラであった。キズナは今しがたガチャから排出された要注意人物に対してどう反応すべきか困惑の表情を浮かべて、「こちらの方は……?」と指揮者に説明を促す。
「シボラ・カカオさんだそうです。新しい仲間です」
「まあ、そうなんですか」
キズナはそう云いながら、本当に自然に……まるでそれが当たり前だと云わんばかりの極々自然な動作で玄武の真横を通り過ぎ、指揮者の腕にしがみつく。まるで恋人同士がやるようなその動きを見た瞬間、シボラは口の中で転がしていた入れたばかりのキャンディを噛み砕く。ガリ……と、出来損ないの硝子が砕けるような音が聞こえた。或いは、悪意のある歯ぎしり……そう表現すべきか。
「シボラ・カカオさんですね。わたしの名前はキズナ。どうぞよろしくお願いします」
「どうも。お嬢様とは同類のにおいがプンプンするぜ」
……うん?
玄武はやや本性を出しつつあるシボラの言動に違和感を覚えた。本編にもなかった脚本から外れた台詞。ヒロイン・キズナに対して悪意ある言葉は皮肉でも一度も発言できなかったのに、それが今、行われている。
まさか……。
「それにしてもここには、星のオウジサマとやらは……あの小僧はいるのかねぇ? 聖女サマとお似合いのオウジサマがいりゃあ多少はマシになるってもんだ」
「聖女だなんてそんな……」
キズナは恥ずかしそうにシボラの口から「聖女」と呼ばれた事実について、頬を染める。事情を詳しく知らない人……傍から見てもそれは皮肉以外の何物でもないのだが、彼女は気が付くことはない。
「星の王子さまがどういった人なのかご存じありませんけど、そういった人は紹介されてないな。名前とか分かります?」
「指揮者は知らないのか。一目見れば分かるような目立つ派手な野郎だが……心当たりがないってことはいねえってことか。なるほどね……」
因みに星の王子様とは、とある人気キャラクターのことを指す。
指揮者がそのキャラクターと本章ではじめて邂逅した時、思わず名付けた綽名であるのだがその名に心当たりがないと云うことは、まだエリシオンに来ていないということになるだろう――と、シボラは悟った。
「それにしても星の王子様ですか。なんだかとても素敵な響き。ぜひ、お会いしたいものですわ」
「ハハッ、あんたとは実にお似合いだったぜ」
皮肉混じりの過去形の言葉。
玄武はシボラの言葉を聞いてとある確信を抱き、胸をドキドキさせた。詳しい話をしたのだが、どこで密談するべきか悩んだところで指揮者は思い出したように、「そういえばどうしてキズナさんはここへ……」とそもそもの疑問を口にする。
「あ、そうでしたわ。シボラさん……エリシオンに新しく入ってこられた方の挨拶で忘れていました。わたし指揮者さんに案内したいところがあるんです」
「そいつはまだここに来て目覚めたばかりだろうが。身体は資本と云ってるのに……もうちょっと落ち着いてからじゃ駄目なのか、聖女サマ。最低でも一月は休んだ方が良さそうだぜ?」
「確かに指揮者さんが来てからまだ四日と経っていませんわ。異物の中からサルページされて間もないです……確かに医務室でメディカルチェックを受けながら安静にすべきでしょうけど、指揮者さんに案内したいところはとても安らぐ場所なんです」
「キズナさん、どんなところなんですか?」
「とっても美味しいお茶と茶菓子のある喫茶店なんです。最近はSNS上でも映えスポットとしても有名で……」
「へえー、いいですね」
「指揮者さん、甘い物はお好きですか?」
「普通、ですかね」
ハッ。
指揮者とキズナのやり取りを鼻で笑う者がいる。それはシボラであった。まるで友人以上恋人未満の俄かに甘いやり取りを間近で見て、やってられないと云わんばかりに鼻で笑ったのだ。
「おい、指揮者……身体は資本だと云っている。自分の替えなんて、ありはしないんだぜ。オリジナリティは大事にしろ。休んだ方がいい」
シボラの真っ当な指摘に……現状病み上がり状態といって相違ない指揮者は悩むような仕草をした。キズナの誘いと、シボラの安静、どちらの言葉に耳を傾けるべきか迷っているのだろう。
対して玄武はキャラクター同士の親睦を深めるミニストーリーの導入でありながら、皮肉る……まるで脚本に反発しているような言動を行うシボラをじっと見るのだが、さすがは様々な人を従えていた章ボス……たったそれだけで、『気付かれた』。感付かれたのではなく、気付かれたことに気付かれた。
「おい、玄武。まさか、おめえも……」
「私からすればあなたも、と云いたいところです」
二人の短い会話の応酬。
真剣な眼差しが交差する中、指揮者は「決めました。自分、キズナさんと一緒に行きます。病室って何か味気なくって」と云う最中、玄武とシボラは密談を行うべく、そそくさとその場から離れていくのである。




