そもそもガチャは引いたのか-4
「シボラさんあなた、明らかに自我に目覚めていますよね」
「どうしてそう思う?」
「まだ紹介していないのにキズナや星の王子のことを知っていたこと。キャラとの親睦を深めるミニストーリーの導入においてまるで脚本を拒絶するような皮肉る言動……判断材料はこの二点ですかねえ」
「まあ……隠すまでもないが、正直に云うなら自我に目覚めている」
それだけじゃない。
一旦この物語は完結したよな……とシボラは確信めいた口調で云いながら、密談場所の部屋を眺める。そこは玄武の個人室であった。部屋は装飾品のない殺風景な部屋だが、指揮者と親睦を深めるにつれ賑やかしいものになっていく。各キャラにあてがわれた個室の内装というのは親密度を指し示すパラメータであった。
「表現が悪いが、お前のような端役でさえ自我に目覚めていると云うことは、他のキャラクター全員、同じような状況なのか」
「本当に口が悪い。だが、私が使えない脇役なのは事実。実装キャラ全員に自我があるかどうかですが、不明です。中には隠している人もいるでしょうけど、私はこのことは公にして良いのか判別がつかず……表面上の観察しかしていない。本格的な調査はまだしていないんですよ」
「まあ、そりゃそうだよな。迂闊には動けねえ……だが、自我があるかどうかの確かめようは簡単だと思うぜ? 『私には自我があります』って吹聴して回って反応を示した奴には、高確率で自我がある。自意識のない奴はその言葉に反応すらできないだろうからな」
所詮、傀儡だ。
木偶には反応のしようがねえよ――とシボラは深く椅子に腰かけた。
「ねえ……そもそもの話になるのですが、どうして私たちは自我に目覚めたんでしょうね? キャラクターと云うのは所謂、人権らしきものがある偶像でしょう? 物語において人を楽しめる道具なんです。それなのに自我を会得するだなんて、何か理由があるのだと思いますが……」
そもそもこのゲームはサービス終了していますしね。
再び同じ道筋をなぞる……再走する意味とは一体……。
「どんな意味があるのか、か。分からないと答えるのは簡単だが、多分俺たちを操作したプレイヤーの夢や祈りなんじゃねえかな。終わってほしくない、終わらないでくれといった願望。その望みがどうしてキャラクターの自我の会得に繋がるのか分からないが、これは一応終わったゲームだ。そう考えるのが自然なんだろうよ」
「自我を得たとて、何が変わると云うのですか。物語のやり直しに何の意味がある? 実際、冒頭ムービーで、私は操り人形でしたよ。操られて台詞を云った。大まかな脚本から外れることは出来ないんだ。それに――青龍がいるわけでもない……っ」
「あー……お前の相方の話か。最後まで来なかったもんな。そこはまあ……何とも云えねえ。お前の存在そのものが……何というか、いつまで経っても修正されない不具合みたいな存在だったしなぁ」
シボラ……彼も玄武と同じく目覚めたところは、透明な空間で情報室らしきところで情報収集を行っていたのか、ある程度プレイアブルされた仲間のことは覚えているらしい。その証拠に青龍の現実世界……プレイヤーによるネタ的な扱われ方も承知しているようであった。
「シボラさん、あなたはたくさんのプレイヤーたちによる夢や祈りで自己を会得したとそう述べましたが、私にはそう思いません。実際に問いただしてはいないのですが、指揮者は脚本から外れた行為が出来ないように見受けられる」
「……事実確認のない予測は危険だぜ? だが、ほう……確かにあの聖女サマと一緒になって親睦イベントに行っていたもんなぁ、それどころの騒ぎじゃねえのに。普通慌てるよな……プレイヤーたる人間が、架空の存在、ゲームのキャラになっているって。そういう素振りすらなかったのか?」
「私の見る限りでは……」
「指揮者に関して、尚更状況は最悪じゃねえか。アレと同類と述べたが、俺とはタイプが違う。再び悲劇を起こす気か? それに続編を望むプレイヤーが指揮者に憑依したとして、再びスタート地点に戻っている意味がますますわからねえな。何かもっと他の理由があるってことか……」
「あのシボラさん……あなたには現実世界のリアルな情報が、時折頭の中に流れ込んでくることはありませんか?」
「ガチャから出て権限する前、一瞬起きたぜ。あまりにも膨大な量の情報が頭の中を殴るように通り過ぎていった。俺が確かめられたのは、キズナ……署名、キーボード、人の怒鳴り声のような何か、憤慨する様子……共通点や類似点はわからねえ。だけど現実世界の人間が……プレイヤーたちが何かをしようとしているんじゃねえかと思う」
特に署名だ。
それはインターネット上で有志の名を集う行為ではあるが、その活動が何を意味しているのか分からないと、シボラは素直な感想を口にする。
「怒りがあることは分からなくねえが、そもそもこのゲームは大団円に終わった……一般的には概ね好評でサービス終了したソシャゲだ。何を怒り狂う必要があるのかねえ」
「現実世界の人間でしか知らない問題が起きて、署名活動に繋がった……んじゃないですかねえ」
しばしの沈黙。
シボラはどこか真面目な表情をして思案に明け暮れていたのだが、予測する全ての内容は所詮、予想でしかないと割り切る。現実世界で何が起きているのかその事実をつぶさに確認しない限り、どうしようもないと自己完結をするのであった。直接プレイヤーが教えてくれたら良いのだが、ゲーム内にいる全てのキャラクターはオープンワールドのゲームとは云えども、所詮閉じ込められた世界だ。幽閉されているのと何の変わりもない。
「はあ、やめだやめ。玄武、お前は今、大人しくした方が良いと思うぜ。事が起きる前に……明確な問題がハッキリとするまで、静観に徹するしかねえよ」
「それはまあ、そうなんですが」
あなたの方はどうするんですか。
玄武はシボラにそう問いかけると、「検討中だ」と述べる。そして最後に、まるでこの話、密談は終わりと云わんばかりに玄武の肩を軽く叩いて、個室から去っていくのである。




