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100万DL記念-4

 イベントの冒頭ムービー、予定調和が終了した直後、傀儡と化した玄武にようやく自由が許された。

 麒麟銭五枚と……タイガーの手によって渡された麒麟児の豪華な衣装を複雑な顔で眺めながら、強く握る。正直なところ今すぐにでも燃やしたい心境であるが、どうせシナリオの強制力が働き無意味な結果に終わる。そんな腹いせのような行動より重要視されたのが、指揮者への勧誘の言葉だった。

 四方祭の目玉……最悪と化した演舞を見るぐらいなら今からでも心変わりしないか……麒麟児の衣装をきてくれと、頼み込むのである。傀儡から解放された玄武はすぐさま行動を起こし、指揮者に話しかけた。

「なあ、指揮者……やっぱり麒麟銭を探す参加側じゃなくて主演側に回ってみないか? 私はそっちの方が良いと思う」

 口に出せた、言葉にできた。

 脚本の強制力が働くことはなかった。

 玄武はその事実に半ば驚きながらも、勧誘の言葉を受けて若干戸惑い気味の指揮者を見る。この言動も八つ当たりに近い腹いせ……どうにでもなれといったヤケクソが働いていたのだが、意外にも融通が利くものだと思った。

 もしや……エオスが死亡した時、ティトノスが闇落ちした禍々しい姿を見せていたのと同様、四方祭の開始当初のプラットとしては指揮者が麒麟児に加わる想定でもあったのだろうかと思いながら、玄武は半ば希望を見出したのであった。

 これまで物語の根幹……たとえば記憶喪失になった指揮者に正体を明かすネタバレ……など、根底を覆す行動でなければ自由が許されていた。なぜ皆が主人公の正体を知っているのかだが、それは一度、物語のエンドを迎えた自我を持つキャラクターである他にない。この世界で目覚める前、情報室で全章やイベント内容を網羅していたがゆえに承知していたのであった。

 なお、自我を持つ他のキャラクターは玄武同様、情報室で同じ行動を起こしたがゆえか、指揮者の正体を知っている。一度シリウスが試しとして正体を知らせようとした時があったのだが、どうしても口を開き言葉に出来ないと教えられていた。

 その理由は、指揮者が自分の正体を知らせればいくら強固なシナリオの強制力とは云えども軌道修正を図ることが不可能であるがゆえの抑止だと推測されている。素性を知っているのにだんまりな状態は、指揮者に対してどこか不誠実で心苦しいものであるが、こればっかりは仕方のないことであったのだ。

「えっと……主催側になれってことは、麒麟銭を隠して舞に参加しろってことですよね……素人には荷が重いと云うか……」

 出来れば断りたいとどこか苦笑を浮かべながら、やんわり勧誘を回避しようとしている指揮者に玄武は云った。

「色んなことを経験した方が、記憶が戻るのではないか?」

その言葉は、あまりにも卑怯だ。

 玄武は己の卑屈さに吐き気を覚えながらも、最悪の事態を二度見たくないが為に必死に言葉を、云い訳を捻り出す。その様は醜いものだと思いながらも、言葉は止まらなかった。

「ほら……記憶喪失は何がキッカケで戻るものか分かったものではない。いろんな刺激を受ければ、経験を積んでおいた方が得なのではないかなと思って」

「玄武さん……自分のことが分からない状態で云うのもなんですが……四方祭の主演側に回ったとしてもあまり関係ないような気がします」

「私はそうは思わないかな」

「……何の根拠があって……?」

「確かに根拠はない。だが……それとも指揮者はアレかな。私たちの故郷の祭を敬遠しているのか?」

「そんなことありません! あるはずがありません‼」

 卑劣さが加速していく。

 玄武は指揮者が慌てた様子で首を振り否定する様子を見ながら、己の愚かさを痛感するのである。表面上は穏やかな雰囲気を取り繕っているが、その内面は青龍に関するものだったと想定されるDL記念イベントであるがゆえに、ドロドロと内面は渦巻ながらとけていた。そのヘドロは決して他者には見せられない、妄執で出来ている。

「麒麟銭を隠すことも、麒麟児の豪華な衣装を着ることも構わないのですが、演舞、ですよね。練習さえしていないのに、自分に踊れるかどうか。それに今回の四方祭はいつもの祭と意味が違うんじゃないですかね。これまで参加していない自分が云えた義理ではありませんが、都市復刻の意味合いも兼ねている。次元の獣に荒らされた災害を乗り越えた意味合いもあるんだと思うんです」

「災害は季節風の台風みたいなものだ。気にしなくていい」

「でも……」

「頼むから」

 玄武は丁重に頭を下げた。

 ただの好意で祭の主演側に回るのではない……どこか異様な雰囲気に指揮者の表情が固まる。

「何度も述べるが、この都市は大小異なれど次元の獣の災害が何度も起きている。その理由は、優秀なものを吸収する異物側の特性が働いているのだろうな。この都市は世界有数の麒麟石が取れる土地だ。その豊潤な地を狙って襲われるのは、慣れっこなんだよ」

「玄武さん……」

「だから、復興後の祭だとか気にしなくていい。気負わずとも良い。それに……指揮者が麒麟児の一名に加わる脚本の改善に成功したら、こころのどこかで青龍に出会えるんじゃないかって希望が……脚本の改変は実現可能だと云う希望が持てるんだ」

 もしかしたら、青龍に出会える……かもしれない。

 シナリオに改変を加えチャンスが生じるなら、青龍の実装が高まったこの場面しかないと玄武は考えていたのであった。

 指揮者に何かをさせることで、邂逅を手繰り寄せている……。

「自分は正直、玄武さんが何かに対して焦っているのは分かります。そして何かに希望を見出していることも」

「なら――」

「でも……どうしてでしょうね。自分はその役目に応じる気にはなれないのです。気分的な問題ではありません。まるで……何と云うか、おかしな話ですが……資格がないと云うより、まるで自分には『その選択肢』がないような……」

「…………」

 統合性をとろうとするシナリオの強制力。

 そういった言葉が玄武の脳裏を掠めた。

 玄武は「そうか」とどこか泣きそうな笑い顔を出しながら、これ以上アレと同様に醜くなりたくないと思いながら、引き下がる。タイガーから手渡された麒麟銭を強く握りしめながら、指揮者の傍を離れるのであった。


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