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寵愛メアリー・スー-3

 新たな任務内容についてはおって連絡する。

 ユースティアはその言葉を最後に秘書であるシスターズに指揮者とキズナの見送りをさせて、二人は現在司令塔室から大きく離れたエントランスにいた。サポート役の人格を持つシスターズは丁重に頭を下げた後、最高司令官・ユースティアの元へと帰っていくのであった。

「たぶん、新しい任務が来るまでにまだ時間があるから、どうしようかな。そう云えば夏服がありましたよね。買い物でもしようかしら」

 キズナはショッピングの邪魔だと云わんばかりに、シリウスが発明した異物索敵機……ではなく……人格判別機を無造作に扱う。ポケットに入れるには嵩張る、片手で所持するには塞がる物体を前にして放り出したそうな態度だ。指揮者は人格がないがゆえ、その物体どういったものなのか知ることが出来ず首を傾げることしか出来なかったが、シリウスや玄武だけでなくシボラでさえもその無頓着な扱いに苦言を呈していたことであろう。

 キズナは距離感を無視した馴れ馴れしい仕草で指揮者の片腕に抱き着きながら、日常生活に不備がないよう作られたショッピングモールを眺める。本来ならば、ユースティアとシスターズに人格はなかったと最優先で皆に報告するのが望ましいのだが、まるでやるべきことを無視したかのように、キズナはモール内へと足を運ぶのだ。

「あ、冥さんだ!」

 ショッピングの最中まるで恋人同士のようにくっついていたのに、ショップ店員を目にした途端、色を変える。新しいおもちゃに釣られたかのように指揮者の腕を手荒く手放して、彼女は役割に徹した冥に挨拶をするのだが、帰って来た言葉は定型文。冥を目の前に人格判別機を眺めるのだが、反応がない。

「なんだ、冥さんも人格ないのか……まあ、そもそもガチャ円盤や素材を売る非戦闘員だったし……わたしみたいに人気もなかったもんね。自我がないのは当たり前か。あっ、その服……北方基地に行った時の新しい衣装じゃない! 懐かしい~」

 挨拶時の最初は冥に愛想……と云うよりもどこか媚びを売るような態度で接していたキズナであるが、人格がないと判明した途端、態度を変える。そして木偶と判別した冥の傍を通り過ぎて、衣装一覧を眺めるのであった。

「夏服もあるし、学生服もある! 水着も! 全部あるじゃない。欲しいなぁ」

 キズナは他のキャラクターの衣装を雑草でもかき分けるように退かし、自分の衣服、スキンのみを注視する。配布・課金を含めたスキンのそれは、過度と云えるほど非常に種類が豊富であった。

「配布はともかく……課金スキンはプレイヤーの現金がないと入手できないのね。誰かいないかなー、課金してくれる人」

 キズナは無断で配布スキンを手に取り、紙袋の中に入れる。無料配布といえども、勝手に自分の所持品にする行いは泥棒の行為に等しかった。その最中、ふと思ったように……突如利用できることを思い出したかのように再び指揮者の元へ戻り、「現金持っていない?」と遠慮も何もない話を振るのだが、指揮者は困ったように固まるばかりである。

「え、ないの現金。課金してくれないの? あり得ないんだけど……顔が良いから置いてるけど、ホント使えない~」

「えっと……何を云われているのか分からないのだけど……」

「そうよね、自我のない頭じゃわからないよね。あっ、この話は他言無用で。誰かに聞かれると煩いし面倒から。約束してくれない、指揮者?」

「? うん、別に良いけど……」

「はいじゃあ、約束しました。ホント絶対誰にも云わないでね。わたしのイメージ崩れちゃう。私は聖女様。本編のストーリーでみんなそう褒めてくれたんだよね。そうだよね、わたしの献身は聖女だよね」

 それにしても何だか退屈なんだよね。

キ ズナはスキンの入った紙袋の中に、無造作に人格判別機を入れて指揮者の片腕に抱き着く。

「みんなあんまり褒めてくれないし、踏み台のあの女もいないし。本当にわたしはなんで人格なんて得たのかしら? みんなから愛される為じゃないの? 満たしてくれる為じゃないの。わけわかんない……」

 ぶつぶつとキズナは独り言を云いながら、不満を口にする。

 自我のない指揮者は困惑するしかなかった。彼女は木偶の様を見て、浅く溜息をつく。いつもなら……本編通りならばよしよしと頭を撫でてくれただろうに、それがない。『だから』、つまらない……退屈だとそう思うのだ。

「はあ。所詮お人形はお人形ね。わたしを満足させるためにいるわけじゃないってことなのかしら――っと、緊急連絡が入った。何かしら?」

 キズアは腰部辺りに備え付けられている連絡用デバイスを取り出す。それは主に緊急の仕事が入った場合やキャラクター同士が交流するために使われる、いわばスマホと同等の連絡機である。

 キズナは液晶ディスプレイに表示された文字を見て、目をキラキラと輝かせた。

「この章って……星の王子様に出会える……っ! 天はわたしを見離してはなかったわ。エオスが死んだ時のために、王子様を慰める台詞を考えなくっちゃ!」

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