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物語、まだ死ねない  作者: 手毬花
大海を知らずに進みますか?
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まだ名前のない

三十三話

頭上には鉄塔。

地図上の赤い点を追いかけてビルの上を蹴って走る。 

強化魔法をかけた身体は加速に耐えられるだろう。

吹き付ける風が顔を叩く――痛いけど我慢、……あっ!

防衛魔法をかけると痛みはなくなった。天才の気づき。


「――止まって」


先頭の笹谷さんが手で俺たちを制する。

数メートル先の地上には正体不明の影……足のない、ライオンみたいな。

少し離れた位置から様子を伺う。足のないライオンはグラグラと揺れ、中に浮かんだ身体を振って進み始めた。


「うーん、不気味!」

「……きもっ」


ビルの屋上から姿を捉えた俺たちは二手に分かれて挟み撃ちすることにした。

地上に俺とマリリン。屋上からは笹谷さんと佐善くん。

まず屋上から攻撃を仕掛けて地上部隊の俺たちに向かわせる。そして俺たちが追撃、これで仕留められたら御の字だけど……うまくいかないことも考えておこう。


(よし……!)

建物の角から顔を出して合図を送る。


木星の因果(さいせいのいんが)

落ちる火の中の雨(炎はあめのように)


二人の攻撃が足のないライオンの頭上から降り注ぐ。


「ャヒ……!ガヒ!」

それに気づいたライオンは両手を使ってビルの配管を掴んで次々に飛び移る。

――ライオンなのに猿みたいな移動……!


「刀真くん!来ます!」

「う、うん!」

その移動方法に思わず驚いているといつの間にか視界に入る位置にライオンは来ていた。

笹谷さんたちがうまく誘導してくれたらしい。

狙い通り……!後は俺たちの攻撃が当たるかどうか……!


力を込めて刀を握る。

切っ先に相手の首を映し出して、踏み出す。


「刺刺突咢――!」


ライオンの首を狙って刃を上にして突き刺す。


「……!」

上空からの攻撃に気を取られていたライオンがようやく俺の存在に気づいた。やつは止まろうとするが、スピードに乗りすぎていて止まれない。


――よし、これなら――!

後少しで突き刺さる、その瞬間。

ライオンは両手で俺の刀をパシッと掴んだ。


「し、真剣白刃取り……!?」


そんな芸当できるなんてサーカス団の猿かよ!!と突っ込んでいる間もなく、恐ろしい腕力で勢いそのまま背後に吹き飛ばされた。


「ッたぁ……!?」


ビルの壁に激突し、パイプの配管が俺の骨にめりめりと音を立てる。

おえ、吐きそう……!何本か骨逝ってるだろ、これ……!

吐き気を堪えるためにうつぶせの身体をなんとか起こして手を口に持っていく。


「ぐぇ゙「――ケケ!」


胃の内容物が出ないように上げた顔、その先に。

両手を握って振り上げ、俺の顔にたたきつけようとしているライオンの化咼物――


「させません!!|幸運を見よ、四葉はここに!《フォーチュンクローバー》」


マリリンが魔法を唱える声がする。

眼前に迫った化咼物が振りかざした両手と俺の間に巨大な四葉のクローバーが現れ、攻撃を防いだ。


「…………!」


見た目と違いかなり頑丈な四葉のクローバーらしく、化咼物は弾かれるように後方に吹き飛ぶ。


「ケ!……ケ!」


その間に俺はなんとか立ち上がって魔道具の刀を手繰り寄せる。た、助かった……!マリリンありがとう!持つべきものは仲間!仲間最高!

――と、それよりも。

位置的には化咼物をマリリンと俺で挟む形になった。

これはけっこうチャンスかも


「マリリン!タイミング合わせて!」


勢いをつけて地面を蹴る。駆け出したのは上空。

化咼物めがけて俺は上から、地上のマリリンと攻撃を叩き込む――


「断空切!」「折れ、緑鈴!(エメロクロスベル)


マリリンの大きく薙ぎ払われた大剣の斬撃と俺のコンパクトな振りの叩きつけるような斬り。

逃げ場はない。

これで致命傷を与えられる――と思ったが、


「キヒヒ――!」


化咼物はおもむろに壁を掴む。いや、壁じゃない。


アレは――――


配管……!


掴んだ配管で俺たちの攻撃を化咼物は完璧に防御する。

くそ……!意外と知能が高い!やっかいだなぁ……!


「阿賀くん!漓瑠さん!」

「……合流し、よう!」


呼ばれた方を見ると屋上にいた二人が降りてきていた。

地の利を捨ててもここは一度引いたほうがいい、という判断らしい。

その判断に悔しい気持ちだけど、同意を伝えてマリリンとともに下がる。


遠ざかる破壊されたビル。

化咼物は追ってこない。

急いで離れつつも、

痛みの中の歯痒さに一度だけ振り向く――


ヤツはビルの影の中でケタケタと笑っていた。

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