始まりの咼
三十二話
「はい!皆さんこんにちは!今日は天気もよく!絶好の訓練日和!ということで――――化咼物退治といきましょう」
手をパチリと合わせてハイテンションに八爪先生(八爪冬岸)は笑いながら俺たちに話し始めた!と思った次の瞬間、真面目な顔をする。
八爪先生らしくない表情に俺が驚いていると、周りのみんなが背筋を伸ばして真っすぐに前を向く。魔法に詳しくない俺はまったくついていけてないけど――どうやら真剣に聞いたほうがよさそうだ。
てか、バケモノってなに……?初めて聞いた単語なのでどんな字かもわからない。名前そのまま恐ろしい見た目の魔物とかだろうか……?俺が頭をひねっていると八爪先生が説明してくれた。
「ご説明いたします!化咼物は魔法によって災いをもたらすもの、その総称です……悪、霊、魔、などのこれらを含む器が現世に現れた際、討伐を十命機関に所属する者は任されます」
「この学園の卒業生は進路に十命機関を据える者が多いのでね!それに、魔力を持つ者はいきなり化咼物に襲われることもありますから、対策を学んでおいて損はないかと」
この間の部活見学でも話題に出た十命機関――彼らは、どうやらバケモノ?と戦う役目もあるらしい。……って魔力を持つ者はいきなり襲われる……!?怖すぎる!!今までよく遭遇してこなかったな、俺!?
初めて気づいた恐怖に震えていると八爪先生は続けてこうも言った。
「近代日本では五式家が式神を使い、全国各地を監視下においているため出現すればすぐに県の十命機関の討伐部隊が倒すのであまり大きな被害は出ません……と言いたいところですが」
八爪先生が言葉を区切り渋い顔をする。周囲を見るとクラスのみんなも同じ顔をしていた。
「魔法は一般的な魔力を持たない人たちには直接的な効力がありません。これが魔法が表舞台に出ない理由でもあります。しかし魔法で起こせる事象や事柄はその限りではないため、例えば魔法で壊れた壁が一般人に当たる、火を用いて山を燃やす、等のことを化咼物が起こすこともあり……」
八爪先生が視線伏せる。その言葉からは悔しさがにじみ出ていた。苦さを飲み込むその表情は普段の先生らしさを霞ませる……確かにそうだ。俺たちは魔力を使って奇跡を起こせる。たとえば化咼物が使う魔法が直接効かなくても間接的には攻撃することができるのなら……
「一般の魔力を持たない方々に説明することは難しいため、これらの事象は天災、不幸な事故と片付けられます……十命機関はその化咼物にまつわる全てを対応する責務があります。それが仕事であり――」
「十命機関が果たさなければならない命約です」
∆∆∆
「私たちの討伐目標は……ここから南、ですね」
先生から与えられた地図を広げて目標の化咼物の位置を確かめる。地図を持つのは同じクラスの片浜李漓さん(俺はマリリンと呼んでいる)だ。
今回は訓練室に架空の大きな街がレイヤーとして重ねられている。一組と二組、それぞれをチーム分けしてあるが今回は対抗ではない。そもそも街が広くて会う確率も低いだろう。俺たちは比較的都会のほうのビル群にいるが、見渡した光景には山も見えるし。
「化咼物の方も動いてるみたいね、点が移動してる」
笹谷さんが地図上の赤い点を指さす。示された位置は遠くはないが相手も動いているので追いつくには時間がかかるかもしれない。
「あんまりバラバラに離れないほうがいい、かも?他チームの標的も動いてるならばったり遭遇したとき困る、ね」
そう提案した本見佐善くんはくるりと回って方角を指す。
「こちらから行くのが吉……」
「真っすぐ行かなくていいのか?」
佐善くんは東側から行こうと提案してきた。真っすぐ行ったほうが早く着きそうだけど……。
「この地点で戦うのはキツイと思う……僕たちはまだ戦い慣れてない、から」
早く着くルートだと複雑な地形でチームの連携が取れない。それよりも拓けた場所で連携して倒すのが安全、という判断らしい。
「なるほどね!オッケ!2人もそれでいい?」
話をみんなで共有する。マリリンと笹谷さんも同意してくれたのでルートは決定だ。
「よーし!隊列、乱すなよ!」
「先頭、私ね」
「じゃあ私は……2番目で」
「僕が殿、だね」
昼間の暖かな日差しが照らす。ビル風は少し冷たくて緊張した俺たちの体温をほんのりと下げて。
影はまだ伸びていない。




