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洋行記編12 日本現地時間8月10日木曜日AM08:30

 様々な人々が行きかうラウンジを通り過ぎてお目当てのフードコーナーに辿り着く。

 フードコーナーの所には大きなテーブルが設置してあり、向かって右側の方にまあまあな大きさのディスプレイが縦に設置してあって、そこでメニューを決める事が出来る様だ。

 決めたメニューはショッピングモールにあるフードコートの様に呼び鈴で教えてくれて、鳴ったらテーブルの所まで取りに行き、そこで係員から受け取る、て追う流れになっている。


 さあ先ずは落ち着け俺。

 ここで頼むべきは先陣となるアンティパスト。

 これは酒の肴の一番槍となる重要なポジションだ。

 朝起きてから今に至るまで先ず第一献は泡もの、それもスパークリングワイン系と決めていたから酒に関しては迷うものが無かったのだが、それに合わせる肴に関しては行き当たりばったりで決めようとしていたから、ここにきて顎をさすりながらしばし楽しい悩みの時間を堪能する事になる。

 こういう時間も好きなんだよなぁ。

 まるで野球やサッカーの監督、或いは昔の戦国武将にでもなって陣立てを考えるかのようだ。

 うむ、ここはやはり初手として万能選手「アメリカンブレックファースト」で行こうじゃないか。

 肉類と芋類、卵もあるし、ディスプレイに映る写真ではコジャレたサラダもチロッと付いて来る。

 私にとってはどれこれも酒の肴に出来る一皿だ。


 まあ実際のアメリカのダイナーとかで供される「アメリカンブレックファースト」だと、皿自体がこれの数割マシマシな大きさな上に、当然ボリュームもマシマシなのは当たり前で、更にはパンケーキだとかフレンチトーストとかがオプションで付いて来て、下手すりゃ『オメェ朝からソーセージだベーコンだけじゃ全く足らんだろうっ!漢だったなら肉類はステーキが基本だろドーンッ!』とかが加わるんだがまあ日本人の胃袋事情を考えればこれ位のボリュームで十分なのだろう。

 無論私はアメリカンなサイズとボリュームの方が断然好みなんだが、そう言うのは取り敢えず現地でアホ程堪能すれば良いのだから、この場ではこれを2枚、3枚と番町皿屋敷の様に頼む事はしないつもりだ。

 どうせ機内食の分もあるのだから、胃袋ポケットを朝一でパンパンに膨らませる事もなかろう。


 ではプリモピアットは?

 これはオーソドックスに「ナポリタン」になるだろう。

 これに関しては一瞬「ベジタブルペンネ」も惹かれたのだが、何となく今の気分的にショートパスタよかロングパスタの方が食べたかったのと、ナポリタンのトマトケチャップ味を身体が欲していたから是非も無し。


 私が千手観音の様に全身から手がニョキニョキ生えているのならば問題は無いのだが、御多分に漏れず手は2本しかないから一旦この2皿だけオーダーを掛ける。

 呼び鈴を受け取った後、今度は席に戻る前にパン類だけ確保しておこう。

 取り敢えず皿にクロワッサンとバゲット、バターをそれぞれ2個ずつ取り、先に席に戻り置く。


 「飲み物はどうした?」

 「ああ、泡もん飲むから色々肴並べてから最後に酒んとこに行く段取り」

 

 父は苦笑しながら


 「御子息さん、君のお父さんは色々と取って来てここで宴会を開始する様ですぞ」


 と言い息子の頭をイイ子イイ子と言わんばかりに撫で繰り回す。

 愛情表現がとことん昭和なんだよなぁ、この親父殿。

 ただ本人は髪型がボサボサになるから嫌がっている様にも見えるのだけど、専らゲームに夢中になっているからガン無視を決め込んでいる。


 パン皿を机に置いてから、再びオーダービュッフェのテーブルに向かい、今度はセコンドピアットとコントルノを頼む番だ。

 セコンドピアットはJALのラウンジに来たら外す事の出来ない「JAL特製オリジナルビーフカレー」一択。

 外れの無いスタンダードなビーフカレーで牛肉も結構な大きさのがゴロゴロとおごっていて、野菜等が多数入っているであろうルーは奥深い味わいでスパイスが効いているのだが、決して辛すぎる訳でもないから老若男女に愛される味わいになっている。

 あまりに人気で通販で販売されこれまた大人気、というJALのラウンジ利用者が機内食を制限してでもオーダーするって逸話が出てくるのも不思議では無い逸品。

 仮にこれがオーダービュッフェで無かったら、確実にご飯もカレーも大盛り、山盛り、昔話盛りオンパレード確定なヤツで実は私の好物の一皿でもあった。『おかわりもいいぞ!』って奴だ。

 つか下手すりゃご飯だけで一皿、カレールーは別のボウルかなんかで入れてる、まで可能性がある程好きなヤツなんだよね。

 更に言っちゃえば、最初の一杯目はルーだけ取って来て、それを酒の肴にして、〆でカレーライスにするってオプションもあったりする。

 中国出張時にラウンジで食事する際は必ず食べていたメニューだったりするのだ。

 うん、やっぱりカレーは私にとって魂のメニューなんだよ。

 ・・・とは言いつつラーメンも、うどんもそばもかつ丼も、果ては寿司や天ぷら、生姜焼きその他諸々に至るまで皆等しく私にとって魂のメニューなんで、実は私は食に関してはある意味博愛主義者なのだと強弁出来ると思っているぞ。


 でもってコントルノは「チョップドサラダ」

 レタスやニンジン、雑穀等色どりも食感も多種多様が味わえるサラダで、ドルチェ前の〆として楽しみたい。

 つか、順番クソ喰らえでカレーやナポリタンの前に食べちゃうかも知れん。

 歯応えも良いし、泡モンにあってる肴だったりするのだ。

 食べたい時食べたい物を食べたい順番で食べる事が出来る、これ即ち幸いかな。


 ビュッフェテーブルに赴きオーダーしている間にタイミング良く呼び出しのベルが鳴り、先ずは『先遣隊』の2皿を受け取る。

 皿は30cm位の黒平皿。

 艶消しの黒に細かい網目が入っている平皿は料理の引き立て役として重要な黒子のポジションである。

 「アメリカンブレックファースト」を彩るスクランブルエッグの黄色やサラダの緑、ポテトやソーセージの茶色、そして「ナポリタン」の赤・・・

 それぞれの料理が皿の黒色によって浮き出る様に色鮮やかに目に映り、更に食欲がマシマシ状態になる。


 その2皿を本拠地に戻り置こうとしたら、クロワッサンが2つ共無くなっていた事に気が付く。

 で、御二方見てみると親父殿は気にもせず外を見ているし、息子殿はニヤニヤしながらこっち見てくるじゃないですか。


 「・・・食った?」

 「ああ、結構美味しかったなぁ。でももうお代わりとか要らんぞ」


 オイ親父殿、オメェすっとぼけた顔して何やってんだよ。


 「美味しかったぜ~、食べたきゃまた持ってくんだなぁ~」


 うんそこで、やってやったぜとドヤ顔してるクソガキさんよぉ、テメェ後で覚えてろよ。

 つか2人して何共謀して仲良く下らんイタズラしてんだよ。

 年の差幾つな凸凹コンビだよ。

 まあ仲が良い事は悪い話じゃないんだけどさ。


 「で、大丈夫なのか?普通に機内食もあるんだぞ?」

 「ああ全く問題無い。取り敢えず4皿とパンを酒の肴にするつもりだけど、別に何回もお替わりに行く訳でも無いし機内食の分も胃袋は取っといてあるから。正に『計画通り』」


 とニヤリと笑う。多分我ながらスッゲェ悪い笑みなんだろうな。


 「・・・そうか、まあ良いけどな」


 と親父殿が苦笑する。


 我が家の家系的に食事のモットーは

 『美味しいものを腹いっぱい』

 って基準で過ごして来たもんだから、家族でレストランに訪れた日にゃアラカルトとかでああアレも美味しそう、コレも美味しそう、で毎回まあまあな分量頼んで皆で腹いっぱいにする事が御馳走だ、って価値観だったりする。


 そんな食生活な上、運動?ゲームは指先の運動だぜって生活なんだから当然の如く私はメタボエリートまっしぐらな訳で、逆に親父殿は『自分に厳しく、自分に打ち勝て』な筋金入った体育系なもんだから頻繁にゴルフを中心に運動しているのだが、どうしても糖尿の系が拭えなかったりするのも、これはこれで仕方が無かったりする。

 一方妻は私の食事量の大体7~8割位で同年代女性の平均値と比較すれば確実にまあまあ食べる方なんだが、体重の方は同年代女性の平均値体重と比較して明らかに軽い傾向にある上、日常的に大して運動なんかもしている訳ではないにも拘らずその体型を維持しているもんだから、純粋に彼女の場合は基礎代謝のバケモンだ、って判断にならざるを得なかったりする。

 私からすれば『チート持ち』『ダイスブレイカー』だったりするんだが、これも彼女の個性なんだからしゃーない。

 逆に言えば鯨飲馬食とは縁遠い人生を着々と歩んでいる息子が我が家の家系ではイレギュラーなのかも知れない。

 子供の頃から私と違いそこまで食が太い訳では無く、どちらかと言えば体系的にも痩せ気味だったりするから、身長がほぼ同じなのに各サイズが全然違う訳で一緒に並んだらそれこそ『エルフとオーク』って何その異世界ファンタジー、て凸凹コンビになる寸法だ。


 そうこうしている内に『第二陣』のお出ましを知らせるベルが鳴った。

 早速、ビュッフェテーブルに向かい両手でカレーとサラダを持ち、一旦パンコーナーの所でお盆を置きあの凸凹コンビに喰われたクロワッサンを補充する。

 まあ流石に2度目のイタズラで「バゲットも喰われてた」ってオチは無かろう。


 テーブルに戻りさらにお盆2つを並べるとまあまあテーブルの面積を占拠していて『4人の勇者による豪華絢爛な陣立て』ってのが完成と相成った。

 うん、いいぞいいぞ。

 これで後は酒だけ準備すれば目の前の駐機場に佇む航空機を眺めながらの宴席、って中々普段経験する事が出来ない非日常イベントを挙行出来るって寸法だ。


 ビュッフェテーブルの奥の方にも飲料&酒のコーナーがあるし、そちらの方が中々内装が洒落ている感じなのだが、距離的に近いので通って来たルートを戻り近しい方のドリンクコーナーの方に向かう。


 ドリンクコーナーは豪華なラインナップでエスプレッソ等も楽しめるコーヒーマシーンに、各種紅茶&ハーブティーのティーバッグ、食べ放題レストランの必須アイテムドリンクディスペンサーがあり、コーラやウーロン茶何かはそこで用意する形になる。

 それ以外にもお家なあったら嬉しいな、って思えるガラス張りの大型業務用冷蔵庫には大量の炭酸水やトニックウォーター、各種缶ビールやトマトジュースやカラフェに入ったクランベリージュースなんかも『キンキンに冷えてやがるっ』て感じで待ち構えている。


 勿論水もガラスのカラフェに並々と湛えられていて、その横にはアイスペールとトングが2セットも用意してあった。

 昔私が子供の頃、食堂で飯を食った時に従業員だったか店主だったかが「お冷、お替り汲んどきますね」って言ってくれて半分以上飲んだ厚手のガラスで出来た業務用のコップにステンレスのジャグで氷入りの冷たいお水を汲んでくれた事が突然フラッシュバックの様に思いだされた。

 あの時が夏だったのか冬だったのかは今となっては思い出せない。

 ただ、飲料水を『お冷』と言ってくれて、『お替り』を『汲んでくれた』その言の葉の表現ひとつひとつと飾り気の無いサービスがあの時の私にとってとても嬉しくって、最後まで飲み干した氷入りの水がまるで甘露の様に感じられた事は忘れてはいなかった。


 その事を思い出したら急に喉の渇きを感じ、ああ、そう言えば朝起きてっから麦茶を1杯飲んで以降、ロクに水分も取って無かったっけ、そら喉も乾くわなぁと自分自身の行為に少し呆れ返った。


 生ビールのマシーンは2種類のビールが準備されていてビール専用のグラスは冷蔵庫の中に多数仕舞われていてこれまたキンキンに冷やされていた。

 素晴らしいじゃないか。最高だ。

 大きさ的にビアレストランとかで使っているパイントグラスをチョイと小ぶりにしたサイズ感。

 これならチョイ飲みにも適しているだろうが、私の様に「ジョッキは?大ジョッキは無いんすか?」的な乗客にとっては最初から数杯分準備して置くか、その都度注ぎに行く事になるのではなかろうか?


 で、アイランドテーブルの上には世界中の美酒集めました状態になっていて、思わず顔が綻ぶ。

 ジン、ウォッカ、コニャックにベルモットやカンパリ、ベイリーズ、クレームドカシスもあるじゃないか。

 ウイスキーもスコッチが複数種類あるし、テネシーウイスキーもある。

 梅酒や焼酎まで選択肢に入っていた。

 赤ワインも2本


 そして、昔歴史の教科書で『正倉院の白瑠璃椀』で習った様なデザインのカットグラスの椀を大型にしたものが2つ鎮座している。

 その中には細かく砕いた氷が敷き詰められ、白ワインや日本酒、そしてスパークリングワインが何本も並べられていた。

 無論手前には水滴を拭く為の真っ白なタオルも準備万端。


 夏の暑い日に大量の氷をおごったガラス椀の中にある冷酒の数々・・・


 意識せずとも勝手に喉が「ゴクリ」と鳴った。


>鳴ったらテーブルの所まで取りに行き、そこで係員から受け取る


 現在のラウンジでは大半のメニューはビュッフェ形式になっている様ですが、2023年の夏当時ではまだ完全オーダービュッフェ形式になっていてメニュー数も限定されていたので、乗客が好き勝手に好きな分だけ取り皿に盛る形態ではなかったんですね。

 パン類やドリンク類は例外でしたが、メインの食事やサラダ類は完全にオーダー方式でしたね。


>おかわりもいいぞ!


 元ネタは昭和平成のオタクたち皆トラウマになった徳弘正也氏の『狂四郎2030』ですね。人間の持つ業と言うか救い難い負の側面を容赦無く抉り出す骨太なシリアスストーリーが骨子となっている一方、どんな場面であってもギャグを挟むのを忘れない(しかも大半が下ネタw)徳弘正也氏のスタイルは確実に実写化、アニメ化には向いてねぇだろうなぁって思う一方、個人的にはおススメしたい作者の一人だったりします。


>計画通り


 ハイ、『DEATH NOTE』の主人公である夜神月ですね。

 いやぁ、スゲェ作品でした。原作連載終了後も様々なジャンルでメディアミックスが行われた傑作でしたね。でも思えば今作も連載終了後(2006年)からもう20年なんだよねぇ(白目)・・・


>キンキンに冷えてやがるっ


 はい超有名な地下強制労働施設を舞台としたエンターテイメントコミックの主人公が発した魂の叫びですね。

 一説にはこの漫画の実写版映画で主人公を演じた役者さんがリアリティを増させる為に1か月も禁酒した、ってエピソードがあるそうで、いやぁ、ワイには絶対真似出来ないなぁ、役者さんすげぇなぁって感心した次第。

 

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