表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/68

洋行記編11 日本現地時間8月10日木曜日AM07:50

 出国審査を出て左手に曲がり真っ直ぐ進むこと数分、何店か同居しているフードコートの方から香しい食欲倍増バフな匂いが鼻をくすぐりオヂサン俄然やる気が出ちゃったぞ状態になる頃、左手側にラウンジフロアに移動する入り口が見えて来た。


 自動ドアを潜り右手側にあるエスカレーターの手前には掲示板があり『4F Sakura Lounge』『5F Sakura Lounge SKY VIEW』『5F DELTA SKY CLUB』『6F CATHAY PACIFIC LOUNGE』と書かれていて4階が入り口である事が解る。

 入口の自動ドアをくぐった3階フロアは全体的に光量を少し落とし気味にしてあり、エスカレーターの手すり部分にある明かりが白壁にぼんやりと反射させる事で間接照明の役割も果たしていた。

 エスカレーターを昇り切ると目の前には4Fラウンジの文字が日本語の他に英語と中国語とハングルで書かれている。

 4階フロアは天井からのスポットライトでオニキスの様な色合いをした床を照らしていて、ラウンジの入り口正面に見て左手側にはデッカイ鶴丸が鎮座していて来客をお出迎えしてくれていた。

 ラウンジの入り口の自動ドアは全面ガラスで中からは入口フロアとはガラリと違う暖色系の明かりが此方の方を照らしている。

 その光景を見ながら何と無く、東北のとある寒村で雪降る夜にトボトボと独り歩いているとポツンと明かりが灯る絶対に美味しい上にボリュームも満点な個人経営の食堂を発見した、みたいな想像をした。


 自動ドアの手前左手にはJALが所属している『ONE WORLD』グループのマークがあり、ここが同グループ所属の航空会社共通のラウンジである事を表記していた。

 『AIRFRANCE』『CHINA AIRLINES』『American Airlines』『BRITISH AIRWAYS』『Emirates』等様々な航空会社のロゴが記載されていて、グループ規模の大きさが伺える。


 自動ドアの手前で父に電話を入れ迎えに来てくれるのを待つ事数分、受付カウンターの方にひょっこりと姿が見えたのを確認し自動ドアの中に入った。


 「随分と遅いじゃないか」

 「仕方ねぇだろ、機材受け取りで1時間後からセキュリティーチェック開始なんだから」


 と言いながら受付カウンターに向かう。


 受付カウンターには4人のスタッフがいたが、入場する人も多い為手早くスムーズにさばく必要があり、どのスタッフもテキパキと動いていてその良い仕事っぷりは見ていても気持ちが良いものだった。

 父が入場手続きを進めている間に左手に飾られていた絵画を見る。

 それは金箔に桜が描かれた大判の絵画だった。

 金箔のくすみ淀んだ金色を背景に、藤煤竹色だったり黒鳶色した幹と枝が、そして狂い咲き、散華している白色や薄桜色、灰桜色した桜の花が全面に描かれていた。

 豪勢な、絢爛な、それでいて静謐で幾許かの哀れと狂気を孕んだこの絵画は訪れる人々に「これが日本です。私達日本人です」と言葉無くとも伝わる力強さを感じさせる。

 諸々の手続きを終え2人して息子殿が待っている、と言うか多分好き勝手やってる場所に向かい移動を開始。


 「で、何処に座ったんだい?」

 「ああ、飛行機が見える所が良いってアイツが言ってたから、窓際んとこにしたぞ」

 「へぇ、そうなんだ。座る場所によって座席の形状も違うから、もし座り疲れててケツが痛えぇ様だったら他のエリアに移動しても良いよ」

 「大丈夫だ問題無い」


 そうなのだ、ここサクララウンジはエリア毎にイスやテーブルの形状が違っていて、それぞれニーズに合った座り心地の椅子のエリアを選ぶ事が出来る。


 そんな話をながらレセプションを右手に進み、トンネルでは無く廊下を抜け左手に視線を移すと、そこは雪国なんかでは無く、明るい光が御簾の様に上から下げられたサンシェードによって上部分から柔らかく差し込む駐機場が一望できる大パノラマの窓ガラスに包まれた広い空間だった。


 明るいブナ色した壁は幾つもの間接照明で柔らかく照らされていて、手前の方には1列横長の座り心地の良さそうなソファーテーブルと1列フラットの長机が2台設置してあり、白い長机には互いに向き合う形で座るからパーテーション代わりの黒傘の不透明で恐らく下の方に光が集中する造りになっているシェードのランプが対になる2人分の席毎に1台の割合で設置されていて土台部分には充電ポイントが用意してあった。

 そして右手側の壁は意図的に色調であったり木目が違う木をコラージュする事によって、単純に一面同じ壁紙による壁面と比べ圧迫感が軽減され奥行きを感じさせる造詣になっていて、とても面白い造りに思えた。

 

 そのまま真っ直ぐ進むと左手側には飲み物やパンなどの設置台があり、また私にとっての『命の水』達が鎮座するテーブルも確認出来た。

 おお、心の友達よ待ってておくれよ、今すぐ行くからな。


 やがて到着した私達が陣取っている航空機をゆったりと観ることが出来る窓際の席は、全面フルフラットの長い白机に4つ足の肘掛けが付いた背もたれの高さが背中の半分位の革張り白椅子、と言う組み合わせだった。

 各椅子の目の前には充電ポイントがあり、そこでパソコンだったり携帯の充電が行える。

 ただ、全席窓に向いている為に当たり前だが4人以上の団体でゆったりと談笑するような造りになっていない。

 逆にその背中側には4人席のテーブルがあり、そこの机の高さは窓際のそれと比べより濃い木目色で4脚の椅子もよりシンプルで傾斜ももう少し垂直に近い作りになっている。

 家族で食卓を囲む様な形で談笑したい場合は、こっちの方が良い選択肢なのかも知れない。


 「しっかし、この時間でも結構混んでるんだな」


 肩からカバンを外しながら驚きを口にする。

 やぁだってまだ午前8時前だろ。

 それにしては全体的にあちこちのエリアの席がそれぞれで満遍なく埋まっていて、無論全く持って座れませんって事は無いのだが、ファーストクラスラウンジの様な、ファーストクラス乗客数に対し圧倒的に広い専有空間そのものが利用者に対し、全てから開放される様な感覚と広いパーソナルエリアを付与する事による特別感を醸成させる造りとは確かにコンセプトが異なっている。

 ただそれは優劣や良し悪しの問題では無い。

 あくまでもニーズに対してのフィロソフィの違いなのだ。


 「この時間帯で出発する便が沢山あるからだろ?それに他の航空会社のラウンジチケットを持っている乗客も使えるから、それもより一層混雑する原因になっているだろうな」

 「なるほどねぇ、そう言う事か。まあこっちは腹も減ってるし喉も乾いているから、だだっ広い空間が必要な訳じゃ無いし何も問題は無いんだがな」

 「まあいいから、さっさと行って来いよ」

 「ああ、そのつもりだ・・・で可愛い貴方のお孫さんは今どーしてるんだ?」


 と眼下に座っている息子殿に視線を移すと、そこにはジイジ相手にたっぷりとコミュニケーションを取って爺孝行イベント(初日ラウンジイベント、デイリーミッション)をクリアした結果、完全に愛想ゲージポイントを使い果たし食事も終わり普通に我関せずでソシャゲでサッカーチームの監督をやっている様だ。

 机の上にはトニックウォーターの空きビンが2本転がっていた。


 「おお、もうメシ喰い終わったのか?」

 「ああ・・・」

 「父さんこれからだから、まあ大人しく待ってろや」

 「ああ・・・」

 「・・・オメェお父さんの事大好きで大好きで仕方がねぇだろ」

 「ああ・・・って、はぁっ?!何トチ狂って・・・ってああクソッミスった!チクショーッ!」


 ちょうどやってるゲームが良いとこだったらしい。

 ハハハ、ザマァ。


 「とりあえずオメェンとこの隣にカバンとか置いとくから見てろよな」

 「・・・ああ」


 明らかにゲームの邪魔をされ不機嫌プラスやる気ゲージゼロから来る1オクターブ低い声の返答を貰い、早速荷物をボカッと置いてグルっと一周回りながら色々と確認してメニューと言う名の『陣立て』を考えるとしようじゃないか。

 この瞬間も誠に楽しいもんなのだ。


 先程移動途中に確認したのがドリンクコーナーでコーヒーや紅茶、ソフトドリンクの他に生ビール等のサーバーやハードリカーの存在は確認出来た。

 ただ、陣立ての先駆けとなるべきアンティパストやプリモピアットの存在が確認出来ない。

 大きく左回りでエリアを半周する。

 移動途中窓際の机が1枚板からウォールナットの様な濃茶色した丸机と肘掛けの位置が少し高めのやはりブラウン色した椅子に代わり、このエリアから照明が天井からのスポットライトから、天井からぶら下げた直方体のランタンの様な照明に代わる。

 なるほど夜はこんなテーブル&チェアでのんびり駐機場に佇む機体を肴にヴィンテージモルトをロックで飲るのも良いもんじゃないか。

 次に来る機会が何時になるのか知らんけど。

 左手沿いに壁伝いで歩いていると、先程よりも大きな規模のダイニングが眼前に確認出来た。


 本当だったらそこにも席を設置しておけば良いのに、ダイニングの一角部分には意図的に何点かのオブジェがテーブルに並べられ飾られていた。

 石?ガラス?不可思議な異質同士の組み合わせで作られたオブジェは天井からの明かりに照らされ、まるでアメジストドームの様に最初からこれが正解だと言わんばかりの一体感を出していて、採石所から拾ってそのまんま磨き上げただけです、と言った錯覚を我々に抱かせる程の出来栄えだった。


 オブジェを前に見て左手側にフードコーナーとその奥に景色が違うドリンクコーナーを確認する事が出来た。

 おお、ここか。

 さて、どんな順立てで頼むとするかな、と考えながら歩を運ぼうとしたら前の方から揃いのジャケットを着た若い男女の姿が確認出来た。


 学校の制服?とも一瞬思ったのだが、中学生、高校生にしては少し大人びている様な印象だったし、改めて見渡してみると、修学旅行や研修旅行にしてはそこまで人数がいる様に思えない。

 そして何人か引率者なのか役員なのか同じ様なジャケットパンツの年長者もいた。

 何より特徴的だったのは、エンブレムの所に日章旗のワッペンが確認出来たから、そこから推察するに恐らく何かしらの競技の人達でこれから海外遠征であったり試合に向かう所だったのだろう。

 何の競技かは判らない。

 ただ少なくとも両名共耳が普通だったから、競技の種類が柔道等では無さそうだな、とてきとーに想像した。

 まあ少なくとも何の競技の方なのかも知らないし、そもそもアラフィフのジジイがいきなり『握手して下さい』とか『サイン下さい』とか『一緒に写真撮って下さい』とか言って近づいたらアカンだろう。


 だから、心の中で

 『何の競技か知らんけど我が祖国の代表である貴方達の活躍と無事を祈念します。代表ガンバレ、代表ガンバレ、ガンバレ、ガンバレ』

 と祈念だけして置いた。


>デッカイ鶴丸が鎮座

>金箔に桜が描かれた大判の絵画

>何点かのオブジェがテーブルに並べられ飾られていた。


 羽田空港第3ターミナル国際線サクララウンジは「2023年3月にリニューアル」したそうで、私達が利用した2023年8月の時にはまだ出来立てホヤホヤの時期でした。

 非常に面白い空間造形が為されていて、作り手側のこだわりが細部にまで行き届いていてまた機会があれば是非訪れたいと思えるラウンジでしたね。

 ちなみにこの桜のアートは画家のはやしまりこ氏によるものです。 2003年にパリのサロン・ドートンヌに入選された方で、彼女の作品はコンラッドホテル東京やシェラトンホテル広島、グランドニッコー東京台場等にも作品が飾られているそうです。


3年越しの新開業。羽田空港第3ターミナルのサクララウンジをご案内します

https://ontrip.jal.co.jp/jalstyle/17635483


>代表ガンバレ、代表ガンバレ、ガンバレ


 元ネタは「前畑ガンバレ」ですね。

 戦前のベルリンオリンピック、女子200m平泳ぎ決勝で前畑秀子選手が金メダルを獲得した試合で、試合当日実況アナウンサーであった河西三省氏が最後の方でひたすら「前畑ガンバレ」を連呼していた逸話です。

 当時も「あれは実況放送では無く応援放送なのでは?」と言う指摘があったのも事実ですが、まあ夏季&冬季オリンピックであったり、ワールドカップであったり、ローカルな所では箱根駅伝や甲子園に至るまで「応援」と言う側面を完全に排除しきれた放送なんてかつてあったのかしら?とも思った次第。

 皆して応援したい対象を日常の色んなしがらみをそん時だけはすっかり忘れて全力で応援すれば良いんですよ、多分。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ