第2話 一時間で直したら、千五百円貰えた
店先で段ボール箱を片付けていた店主が、慎吾の声に顔を上げる。店内に客の姿はなく、作業を切り上げると、そのまま奥へ戻ってきた。
「もうできたのかい?」
「はい。ちょっと見ていただけますか?」
慎吾は椅子を少し横へずらし、モニターがよく見えるように場所を空ける。
店主は完成したページを見ると、目を丸くしてモニターに顔を近づけた。
「……これ、本当にうちのホームページかい?」
以前のものとはあまりにも印象が違うためか、画面の上から下まで何度も視線を動かし、驚いた様子で慎吾の顔を見ている。
「はい。この一覧から、気になるパソコンの写真をクリックしてみてください」
慎吾に促され、店主はおずおずとマウスを握って、ノートパソコンの写真をクリックした。
画面が切り替わると、見やすい写真の横に価格が大きく表示され、その下には性能や付属品の有無、注文用のメールアドレスと電話番号が、枠線できれいに整理されて並んでいる。
「なるほど、こんな風に詳しく見られるわけか……」
「はい。今できているのはこれだけですけども、この形で良ければ今後はもっと簡単に増やしていくこともできます」
店主は感心した様子で他のページも次々にクリックしていく。
写真も商品も変わらない。なのに、まるで自分の店のホームページが、大手のパソコンショップに生まれ変わったかのようだった。
「これを一時間でやってくれたのか……」
店主はしばらく画面に見入っていたが、やがて思い出したように顔を上げると、店の奥にあるレジへと向かった。
戻ってきた店主の手には、この時代の千円札が一枚と、五百円玉が一枚握られている。
「兄ちゃん、報酬なんだけどさ。とりあえず、千五百円にさせてもらってもいいかい?」
慎吾は差し出されたお金と、店主の顔を交互に見た。
最初にお願いしたのは、出来栄えが気に入らなければ無料、使えそうなら最低五百円からでも、という話だった。それなのに、約束した最低額の三倍も出してくれるという。
「この出来に対しては少なくて申し訳ないんだけどさ。今、うちは本当に現金に余裕がなくてね……」
「いえ、そんな!最初にお願いしていた額の三倍もいただけるなんて……ありがとうございます!」
慌てて両手を差し出すと、千円札と五百円玉が手のひらに載せられた。
千五百円。さっきまでの手持ちの百八十六円と合わせれば、千六百八十六円になる。
これで何とか食べるものが買える。財布に入っている未来の一万円札とは違い、この時代で使える問題のないお金だ。慎吾はお札を大事に扱いながら、財布の中へしまい込んだ。
「しかし兄ちゃん、あんた、こういうパソコン系の仕事が得意なのかい?」
「……まぁ、そんな感じです。時間さえあれば、結構なんでもできるつもりではあるんですけど、今は事情があって手持ちもなく、頼れる人が誰もいなくなってしまいまして……」
できるだけ落ち着いて答えたつもりだったが、スマートグラスの端では、アイちゃんがこちらを睨んでいる。
実は、店主からこういう仕事が得意なのかと聞かれた途端、怒った顔のアイちゃんと一緒に、こんな文章が表示されていたのだ。
『アンタ!馬鹿正直に「普段は倉庫で商品の写真を撮ったり、ゲームの感想を書いてお小遣いを稼いでます」とか言うんじゃないわよ!』
思わず口を閉じると、アイちゃんは眉を吊り上げたまま、さらに文章を表示させる。
『なんか絶対そういうことを言いそうだったから、先に言っとくけど!そんなのをそのまま口にしたら、この店主さんが今勝手に想像してくれてるアンタへの評価が下がっちゃって、もしかするとまた振ってもらえるかもしれない仕事が頼まれなくなっちゃうでしょうが!』
こちらへ指を突きつけるアイちゃんの隣に、今度は慎吾が答えるための文章が浮かび上がった。
『だから口に出すならこれを言っておきなさい!「時間さえあれば、結構なんでもできるつもり。今は事情があって、手持ちも頼れる人もいない」って』
言いたかったことを見透かされた慎吾が黙って読んでいると、最後にもう一つ、念を押すような言葉が加わる。
『私はアンタのそういうところは嫌いじゃないけど、状況を考えなさいよね。なんでも正直に話せばいいってもんじゃないんだから!』
……危なかった。
何も言われなければ、「倉庫のアルバイトで商品の写真を撮っています」とか、「ゲームの感想を書いて普段は月に二〜三千円、たまに一万円くらい稼げることもあります」なんてことを、そのまま話していたかもしれない。
ひとまず指示どおりに答えた慎吾を見て、画面の中の彼女は満足そうに頷いている。
「なるほどねぇ……。朝、ゴミ捨て場で寝てた時は本当に驚いたもんだが、どうやら何か事情があったんだな」
店主はそれ以上、詳しい事情を聞こうとはしなかった。再びモニターへ視線を戻し、感心した様子で何度か頷いている。
「しかし、これだけのことができるとはね。いや、大したもんだ」
そう言われると、今度は少し後ろめたい気持ちになってくる。
実際にやったことといえば、アイちゃんが表示する文字を必死に打ち込んでいただけなのだ。もっとも、ここでそれを正直に話してしまえば、また彼女に怒られてしまうだろう。
慎吾が曖昧に笑っていると、店主が思いついたように顔を上げた。
「……なぁ兄ちゃん。もし明日でも良かったら、またうちに来てもらえないか?」
財布を鞄へしまいかけていた慎吾は、思わず手を止める。もうこれで終わりだと思っていたので、思いがけない誘いに少し驚いてしまった。
「え……明日もですか?」
「あぁ。実際、これだけのことをしてもらえるんだったら、他にもやってもらいたいことがあると思うんだ。どういったものがあるかは、まだこっちも整理できていないんだけどもさ」
店主は店の奥に積まれた商品の箱へ目をやりながら続ける。
「まだホームページに載せられてない商品もあるしね。そういったやつを載せてもらうだけでも頼める仕事はあると思うから、来てもらえるんだったら、明日までにちょっと考えておくよ。もし全く頼むことがなくても、来てもらった分の手間賃くらいは出すからさ」
なんと、明日も自分に任せてもらえる仕事があるかもしれない。
千五百円稼げたのは嬉しいが、それでこのまま暮らしていけるわけではない。頼れる知り合いもいないこの時代で、また仕事の相談をしてもらえるという話は、慎吾にとって何よりもありがたかった。
「はい!明日も必ず来ます。ありがとうございます!」
慎吾が勢いよく頭を下げると、店主も嬉しそうに表情を緩める。明日も来るという返事を聞いて、安心した様子だった。
「じゃあ、名前を聞いとこうかな」
慎吾はすぐに顔を上げ、弾んだ声で答えた。
「相沢です。相沢慎吾といいます」
「相沢君ね。私は藤田。フジタ電機の藤田だよ。じゃあ、また明日頼むよ」
「はい。よろしくお願いします!」
明日の約束もできたところで、慎吾はもう一度モニターへ目を向ける。
「あっ、そうだ。藤田さん、最後に一つだけ確認させてください」
「ん?どうしたんだい?」
「今見ていただいたホームページは、まだこのパソコンの中にあるだけなんです。インターネットで他の人からも見られるように、公開されている古いページと入れ替えてもいいですか?」
店主はモニターを見直し、少し考えてから頷いた。
「ああ、そういうことか。もちろん、これに替えてくれて構わないよ」
「ありがとうございます。元のページも、何かあったら戻せるように残してありますので」
了承を得た慎吾は、再びパソコンの前に座った。
店のパソコンには、以前、甥っ子さんがホームページを更新するのに使っていたソフトが残っている。アイちゃんの指示に従ってそれを開き、現在公開されているフジタ電機のホームページを、今作った新しいページに差し替える。
これで、インターネットから見に来た人にも、新しいページが表示されるようになった。
「これで大丈夫です。ちょっと確認してみましょう」
慎吾はブラウザに店のホームページのアドレスを入力し、ページを開く。表示されたのは、先ほど作ったばかりの新しい画面だ。
「おお、これでお客さんにも見てもらえるんだね」
「はい。今までどおりのアドレスで見てもらえますよ」
藤田は納得したように頷くと、満足そうに眺めた。
一通りの作業が片付いたところで、慎吾は思い切って切り出してみた。
「あの、藤田さん。厚かましいお願いで申し訳ないんですが……少しの間だけ、作業台のコンセントをお借りできないでしょうか。実は、携帯の充電が切れそうでして……」
「ん? ああ、そんなのいくらでも使いなよ。ちょうどこれから奥の荷物を片付けなきゃいけないからさ。そこの丸椅子に座って、少し休んでいくといい」
藤田さんは嫌な顔ひとつせず、快く作業台の隅を空けてくれた。
「ありがとうございます、助かります!」
慎吾は深く頭を下げ、藤田さんが店の奥へ入っていくのを見届けてから、スマホとスマートグラスの充電器をコンセントに繋いだ。ついでに、鞄の中にしまってあったノートPCも、人目につかない足元でコードを伸ばして繋いでおく。
壁の古い掛け時計の針が、ゆっくりと三十分ほど進むのを待つ。
電池のパーセンテージが半分近くまで回復したのを確認し、慎吾は手早くコードを抜いて鞄にしまい、スマートグラスを掛け直した。
奥の作業場へ声をかけると、藤田さんが手を止めて顔を出してくれた。
「充電、大丈夫だったかい?」
「はい、しっかり溜まりました。場所まで使わせていただいて、本当にありがとうございました」
「いやいや、こちらこそ助かったよ。また明日、よろしく頼むね」
慎吾はもう一度深々と頭を下げてから、店を出た。
*
お昼が近づいて、日本橋の通りには少しずつ人が増え始めていた。慎吾は歩道の端へ寄ると、財布を開いて、今受け取ったばかりの千円札をもう一度確かめる。
「やったじゃない!とりあえず、これで何とか今日は生き延びられそうね」
「うん。もう本当にダメかと思ったけど、ギリギリで助かったよ」
朝、ゴミ捨て場で寝ていた見ず知らずの自分に仕事を任せてくれたうえに、明日も来てほしいと言ってくれた。藤田さんには本当に、感謝してもしきれない。
スマートグラスの端には、こちらの様子を見ながらニヤニヤしているアイちゃんの姿が浮かんでいる。
「昨日は二千五百六十円で、あんなにため息ついてたのにねぇ」
「……あの時と今じゃ、全然違うよ。これでようやくご飯が食べられるんだから」
アイちゃんは腕を組み、ウンウンと頷いている。慎吾の返事を聞いて満足したのか、少し得意げな顔で口を開いた。
「まぁ、コードを書いたのは私だけど、あのお店に声をかけたのはアンタだからね。よく頑張ったんじゃない?」
「アイちゃんがいなかったら、あんなページは絶対に作れなかったよ。ありがとう」
ところが、アイちゃんは少し考えるように視線を外すと、先ほどまでとは違う口調で話を続ける。
「お礼はいいわよ。それより、明日のことを考えなきゃね。ぶっちゃけ、ホームページが綺麗になっただけじゃ、そう簡単にお店の売上には繋がらないし」
「えっ?そうなの?」
スマートグラスに浮かんでいたアイちゃんの笑みが消えた。呆れたような顔で、こちらをじっと見つめている。
「はぁ〜。あそこのお店のホームページが良くなったのはいいことよ。でも、いったいぜんたい誰が見に来るの?」
「誰って……パソコンを買いたい人、とか?」
当然のことを答えたつもりだったが、アイちゃんの呆れた顔は変わらない。慎吾が続きを待っていると、彼女は軽く肩をすくめた。
「その人たちが、どうやってあのお店のホームページを見つけるのよ。というか、藤田さん、アクセス解析とか知ってるのかしら?」
「アクセス解析……?」
「ほら、最初にアクセスカウンターがあったでしょ。邪魔だから取っ払っちゃったけど、ああいうのは、自分の閲覧を除外する設定をしてなかったり、そもそもそういう機能がなかったりすると、自分が見た分までカウントされちゃうのよ。藤田さんが見た回数と、甥っ子さんが確認した回数。それでほとんど全部だったら……どうする?」
スマートグラスの中で、アイちゃんが意味ありげに口の端を上げる。慎吾は、最初に見せてもらった青いホームページを思い返した。
確かにアクセスカウンターは置かれていたが、その数字を誰が増やしているのかまでは考えもしなかった。
「つまり、お客さんにはほとんど見てもらえてなかったかもしれない……ってこと?」
「そう。そもそも誰も見に来てないんだったら、どれだけ綺麗なホームページに作り直したところで、注文なんて入るわけないでしょ」
藤田さんは、一か月待っても注文が来ないと話していた。商品の見せ方が原因だと思っていたが、そもそも商品を見る人がいなかった可能性もあるという。
「こっ、怖いこと言わないでよ。いや、大丈夫なんじゃないの?ホームページを作って更新してたら、勝手に検索エンジンが見に来てくれるだろうし……」
「甘い!アンタ、二〇二八年の感覚で考えてるでしょ。ここは二〇〇〇年よ。この時代の検索エンジンは、まだまだ完成度も高くないし、アンタの知ってるものと比べたら、ぶっちゃけヘボなのよ!」
「……え?」
スマートグラスの端に、小さな黒板が現れた。
その隣に立っているアイちゃんは、いつの間にか眼鏡をかけ、手には細長い指示棒を持っている。どうやら、これから授業が始まるらしい。
立ったまま聞くには長くなりそうだったので、慎吾は近くのパン屋で百二十円の惣菜パンを二つ買い、先ほどの公園へ向かった。自分のお金でちゃんと食べ物が買えたことにホッとしつつ、ベンチに腰を下ろしてパンをかじると、アイちゃんが黒板を指し示す。
「まず、サイトを自動で探してくれる検索エンジンは、この時代にもあるわ。だから、登録を申し込まなければ絶対に見つからない、というわけじゃないの」
黒板には、いくつかの四角と、それを結ぶ矢印が描かれている。その中で『フジタ電機』と書かれた四角だけが、少し離れたところに置かれていた。
「でも、どこからもリンクされていないページを作って、そこで更新を続けていたって、すぐに見つけてもらえるとは限らない。見つかったとしても検索結果のずっと後ろだったら、パソコンを買いたい人でも、まず見に来ないでしょ」
それは慎吾にも理解できる。欲しい情報が最初の方にあれば、そのページを開いてしまうし、わざわざ何十ページも先まで探そうとは思わない。
「……まぁ、そうだね。僕も、そんな後ろのページまでは見ないなぁ」
「それに今の日本では、ヤッホーみたいに、担当者がサイトを見て選んで載せる検索サービスが中心なのよ。そっちは、こちらから登録をお願いするのが基本。ホームページを公開しただけで、そういう場所にも勝手に載ると思ってたら駄目なの」
慎吾が頷くと、アイちゃんは指示棒を下ろし、こちらへ顔を向ける。
「あと、検索の仕組みの穴を突いて、無理やり上に出そうとするやり方もあるわ。この時代は、そういうインチキが通ってしまうところも結構あるの」
「そんな方法があるんだ……」
慎吾は思わず目を丸くした。そんな方法で検索順位を上げられるなら、藤田さんのお店にも使えるんじゃないだろうか。
「でも、あのお店には勧めない方がいいわよ。目先の順位が上がっても、後から対策されて検索に出なくなったりしたら困るでしょ。短期間で結果が出るって聞いたら、乗り気になっちゃうかもしれないけど、続けて商売するお店に背負わせるリスクじゃないわ」
現金に余裕がないと言いながら、千五百円を用意してくれた藤田さんの顔が浮かぶ。せっかく信用してもらえたのだから、後から藤田さんが困るようなことはしたくない。
「じゃ、じゃあ、どうすればいいの?」
「まずは、ちゃんとしたSEOね。検索する人に見つけてもらいやすいように、ページの内容や作りを整えるの」
黒板の上に『中古パソコン』『大阪・日本橋』『通販』と、三つの言葉が並ぶ。
「例えば、ページの題名が『ようこそ!』だけじゃ、何を売ってるお店か分からないでしょ。中古パソコンを売っていること、どこにある店なのか。そういう情報を、題名や説明に分かりやすく入れる。商品ごとの型番や値段も、画像だけにせず文字で読めるようにするのよ」
「……今日作ったページは?」
「土台にはなるわ。商品ごとにページを分けたから、それぞれの内容も伝えやすくなったし。あとは、パソコン関係のリンク集や、日本橋のお店を紹介しているサイトに、あのお店も載せてもらう方法があるわね」
黒板の中で、離れた場所にあったフジタ電機へ、別の四角から矢印が伸びた。
「そこからお客さんが来てくれるだけじゃなくて、検索エンジンもリンクをたどって見つけられるようになるの。手っ取り早く人を呼びたいなら、お金を払って検索結果の上に広告を出す手もあるけれど……今のあのお店には、ちょっと厳しいでしょ?」
「うん、現金に余裕がないって言ってたばかりだしね。じゃあ、地道に直して待つしかないのかな……」
「そこで、まず一番に狙いたいのがこれよ」
アイちゃんが黒板の文字を消すと、中央に大きく『ヤッホーのカテゴリ』と書き直した。
「カテゴリ?」
「さっき話した、担当者がサイトを見て、選んで載せる方よ。パソコンのお店、旅行の情報、ゲームのページっていうふうに、種類ごとにサイトを並べた案内があるの。そこに、あのお店も載せてもらうのよ」
見本として表示された画面には、いくつもの項目が並んでいる。アイちゃんが指示棒で一つを示すと、その下にもっと細かな項目が現れ、さらに進んだ先には店の名前と説明がずらりと並ぶ。
「この時代には、こういう案内をたどって、欲しいサイトを探す人も多いの。パソコンを扱う店のところに載れば、まさにそういう店を探してる人に見てもらえるし、もう一つ大きな利点があるわ」
アイちゃんが黒板へ書き足した矢印の先に、今度は『ガーグル』の文字が現れる。
「ガーグルみたいに、どんなページからリンクされているかを評価に使う検索エンジンもあるの。ヤッホーのような大きなサイトから紹介してもらえれば、検索での評価にもプラスになることが期待できるわ。つまり、SEO対策としての効果も大きいのよ」
「載せてもらえたら、いいことずくめだね。でも、いくらかかるの?」
「登録を申し込むのは無料でもできるわよ」
「無料でいいんだ!」
ようやく、自分たちでも手を出せそうな話が出てきた。慎吾が顔を上げると、アイちゃんは指を一本立てる。
「ただし、申請したら必ず載るわけじゃないし、審査を待つ時間もあるわ。作ったばかりで中身がほとんどないようなページだと、難しいでしょうね」
「じゃあ、あのお店はどうなの?」
「あのお店なら、十分可能性はあると思うわよ。実際に営業しているパソコンショップだし、ホームページだって見違えるほど良くなったでしょ?あとはお店の住所や連絡先、注文方法なんかもきちんと整えて、審査する人が見ても分かりやすいようにしてから申請すれば、掲載してもらえる可能性は十分あるわ」
無料で申し込めるのなら、藤田さんにも喜んでもらえそうだ。慎吾は黒板に表示された『ヤッホーのカテゴリ』の文字を眺めながら頷いた。
「そっか。それなら、明日さっそく藤田さんに話せるね」
「その前に、甥っ子さんがもう申し込んでないか確認すること。それから、これからどこのページがどれくらい見られたか調べられるように、『アクセス解析』も入れてあげるといいわね。数字が分かれば、次にどうするかも考えやすいでしょ」
慎吾は、藤田さんに言われた言葉を思い返す。ほかにも頼みたいことはあると思うが、まだ整理できていない。そう言って、明日も来るように誘ってくれたのだ。
「明日は、綺麗にしただけじゃお客さんが増えるとは限らないってことも、ちゃんと伝えないとね。それで、お金をかけずに見に来てもらう方法や、アクセス解析のことを提案してみるよ。掲載の申し込みとかも、まとめて任せてもらえるかもしれないし」
慎吾がそう話すと、アイちゃんは賛成するように頷いた。
「ええ。まずは、あのお店に合った方法から進めましょ」
説明を終えると、黒板と指示棒が消え、アイちゃんもいつもの姿に戻った。これで話は終わりかと思ったのだが、彼女は先ほどよりも真剣な表情で、慎吾へ向き直る。
「……で、藤田さんの話は一旦ここまでにして、次はもっと重要な話をしましょ」
「もっと重要な話?」
パンの袋を丸めて立ち上がりかけていた慎吾は、何のことか分からず手を止めた。明日の仕事の話より重要と言われても、すぐには思い当たらない。
返事に困っていると、アイちゃんは小さく息を吐いた。
「アンタ、これからどうするつもりなのよ……」




