第5話 セクハラ反対デモ
……俺が浮遊要塞都市アースガルズの《心》、聖心体に就任し、わずか半日。
早くも抗議デモが起こっていた。
「セクハラ浮遊要塞! 絶対反対!」
「「「「「「セクハラ絶対反対!!(コール)」」」」」」
「今のアースガルズは痴漢そのもの! 空飛ぶ痴漢要塞よ!」
「「「「「「今のアースガルズは痴漢そのもの!!!!(コール)」」」」」」
「男根主義者の支配を許すな! 空飛ぶふしだらを許すな! 腹ボテになんぞ!」
「「「「「「ふしだらを許すな!! 腹ボテになんぞ!!!!(コール)」」」」」」
旗竿や横断幕を掲げた女エルフのお姉さん達が城門に殺到して声をあげていた。
この都市では、ケモ耳のエルフはどうやら皇女のルルウだけで、他の住人はたいてい、金髪で手足の長い、可憐なエルフ美女達だった。
その美女達が弓矢や剣や槍、火炎瓶などを手にして大声をあげている。
まだ初日だし、どうせ集まっても十人ぐらいだろ? と思って、窓から覗いたら一万人ぐらいいた。
ちょっとしたコミケの朝みたいな賑わいだ。
◇ ◇ ◇
あの後、ルルウから教わり、再びアースガルズと融合して確認してみた。
アースガルズの全高は3キロ前後、全長は5.1キロ。
「ちょうど、さいたま県わらび市とおなじぐらいの広さです!」
と、ドヤるケモ耳エルフ。
なんで、ピンポイントで蕨市?
まぁ……面倒臭いからつっこまなかったけど。
「人口は五万人。これは、超時空要塞アニメの初代艦とおなじぐらいです!」
と、またしてもエルフらしくないことを、鼻息荒くいう。
天空フェンリルエルフの皇女には一時的に現世に渡るゲートを作る能力があり、ルルウはそのおかげで、サブカルクソ女になってしまったのだという。
しかし、こいつが無駄にサブカルに詳しいおかげで色々と、わかり易かった。
埼玉県蕨市は全国的に見てもかなり狭い市で、人口は七万五千人ぐらいだ。
なんで俺まで埼玉県蕨市に詳しいのかはさておき、それに対して、五万人が乗っている某超時空要塞の初代艦の大きさは1,2キロメートルぐらいと記憶している。
これはかの国民的アニメの天空の城よりは、一回りか二回りぐらい大きいサイズらしい。
つまり、アースガルズの面積は日本の市町村と比較しても広い方ではないのに、人口密度で考えたら、スカスカなのだ。
宮殿や市街、巨大な塔もあるが、郊外には森や草原も多い。
超古代魔法兵器都市とか浮遊要塞都市とか呼ばれる割には、牧歌的な風景が広がっている。
これは駄犬のような天空フェンリルエルフ皇女以外の一般エルフ達が自然を愛し、人工物を嫌っているせいもあるだろうが、それ以前に人口が少ない。
そして……その全人口のおよそ五分の一が、今、宮殿をとり囲む形で集結していた。
「みみみみみみ、みなさん、おちついて! おちついてください……!」
よせばいいのに、ルルウがガクブルでデモ隊を説得しに行った。
一応、第四皇女という立場というか、責任ぐらいはわきまえているらしい。
まぁ、最初から期待してなかったけど、ここからがひどかった。
「姫様が来たわよ!」
「今頃、ぬけぬけと駄犬王族が何をいうかッ!」
「きっと、あの男に肉棒でたらしこまれたんだわ! 淫売即イキ皇女!」
「オスのペニ棒でアヘ狂うなんて、同じ女として最低よ! ドスケベメス犬姫!」
「これだから王政ってクソよね! あのズベ公を射殺しちまいなッ!」
「サブカルクソ女を剥いて、簀巻きにしてSNSにあげましょう!」
「ええええ!? ちょっ、まって! まってくださああい!」
ルルウの悲鳴が、城門前広場に木霊した。
エルフ達はルルウの首根っこを捕まえると、鎧とマントをはぎ取り、城門を打ち破る丸太の上にまんぐり返しの格好で縛り付けた。
とりあえず、この皇女の臣下からの尊敬や信頼度はゼロかマイナスだということだけは、よくわかった。
「ふえええええええ~~~~~ん! ゆーやさま! た、たすけてくださぁ~~い!」
現世でルルウが箱買いしたと思われるカップ麺「ごっつええ盛り」を啜りながら、宮殿のバルコニーから顔を出すと、ケモ耳エルフ姫が丸太にくくりつけられ、まんぐり返しの体勢で引きずられてきたので、ぶっ! とカップ麺を噴きそうになった。
「あんまりこっちをみないでくださぁい~~~~」
「うわぁ……」
ドン引きだった。
丸太に括り付けられたルルウは一応、縄で肝心なところがふんどしのように隠れていたものの、剥かれた白い肢体にはあちこちに、「わたしはペニ棒欲しさに国を売ったドスケベ獣女です」とか「←正正正正正」とか、いかがわしげなボディペイントが施されていた。
「うわぁ……」
「二度いうぐらいドン引きしないでください! あと、ガン見もしないでください!」
女子のいじめってホントにドン引きするよな。
ルルウの裸体を間近で見学しようと、「ごっつええ盛り」を啜りながらバルコニーから飛んで行くと、長身の甲冑美女エルフが俺の行く手を遮った。
「貴殿が噂のエロ聖心体! 斉藤友也なのだなッ!」
無骨な突撃用ランスを構え、赤毛の短髪が宝塚女優のように凛々しい。
「我が名はエイン・ヘリャルッ! 天空フェンリルエルフ帝国ワルキューレ騎団騎士長なのだよッ!」
「同じく、副長メロンホイップ!」
「同じく、グリーンティー!」
「同じく、ピンクレモネード!」
「同じく、カシスオレンジ!」
「アーチャー隊、ウォーターメロン!」
「アーチャー隊、マキシマムピーチ!」
「魔銃隊 ブルーハワイ!」
「魔法隊 トッピングミルク!」
「魔法隊 ホットジャスミン!」etc。
騎士長以外、美味しそうな名前がズラリと並んだ。
グリーンやピンク、赤や青や白など色鮮やかな髪の美女達である。
皆、白銀の鎧を纏い、完全武装で俺を取り囲んだ。
ある者は長剣、ある者は長槍、弓、長銃(後に魔法を帯びた弾丸を撃ち出す魔銃だと、ルルウが教えてくれた)、魔法杖等をそれぞれ、構えている。
「覚悟するのだよ!」
「お、おぅ……あのだな……?」
俺は完全降伏とばかりに両腕を上げた。
「言い訳は聞かんのだよ! 死ぬのだよ!」
エインさんとやらはかなり激昂しているらしく、語彙力が完全に小二レベルになっていた。
「俺……何か、やらかしましたっけ?」
「男根崇拝主義者は滅ぶのだよッ!」
「男根崇拝主義者って……その男根すらないんですけどね、今」
反論はしてみたものの、俺を取り囲むルルウ以外のエルフ達は顔が真っ赤で、交渉など無理ゲーっぽかった。
「自分が何をしでかしたのか、あの世でキッチリ反省するのだよッ!」
「え、え~~と……」
草食系ラノベ主人公ぶっている間にもお構いなしにエインさんはランスを正面に突き出し、突貫してくる。
騎士長だけあって、《突き》は瞬間移動かと思う程の鋭さだった。
俺はうんざりしつつ、今日の昼、ギンティアさんがいなくなってからのことを思い出していた。




