第4話 前任者、退職す
「(コーラス)フッフッーー♪ チュートリアル終わりーー♪(棒)」
ルルウの隣りでギンティアさんがコーラスを終えると、いそいそとスタンドマイクを仕舞い始めた。
……なにこの茶番。
俺は腕組みしながら、溜め息をつく。
「乳首と股間をビクンビクンされながら、魔王軍と戦えと……?」
「そんなこといってないです! ……あ、いや、結果的に、ちくびとこかんは開発されますが……」
「開発されるんかい!」
「お、自分、関西弁のツッコミもいけるやんけ?(棒)」
メイドにツッコミを褒められつつ、俺は冷静に考えを纏めることにした。
異世界転生ものといったら、主に『美女達によるキャッキャウフフのハーレムパーティで打倒魔王』か『チートになり過ぎたんで田舎に引っ込んでスローライフ』かの二択である。
こいつらの口車に乗るのは面白くないが、魔王といっても、たぶん人間サイズ。
アースガルズは超古代魔法兵器都市というだけあって、軽く全長数キロからの大きさがある。
サイズから見て、おそらく「人がゴミのようだァーーーー!」となるような威力を持つ古代兵器だって積んでいることだろう。
なにこれ、楽勝くさくね?
魔王なんて、ちょっと股間を動かすだけで、プチッと潰せるに違いない。
「つかぬことをうかがうが、その魔王って、この浮遊要塞でプチッって潰れる?」
「え?」
真顔でルルウにうかがう俺。
彼女は眼をパチクリさせていたが、しばらく思案し、渋い顔になった。
「それはやったことありませんが……たぶん無理でしょう?」
「無理?」
さすがに、そこまで簡単ではなかったか?
「この世界には魔法障壁というものがありますです。そこそこの魔法使いや魔物ならバリアをはって、剣や弓矢などの物理攻撃を防げるのです。もちろん、力わざでぶち破れますが……」
「あ……急にファンタジーな設定が来たなぁ」
高位のモンスターには物理攻撃が効かないとかで、高位魔法や魔剣や聖剣で魔法障壁を突き破らないと攻撃が届かないのだろう。
やはり戦隊ヒーローが開始一秒で巨大ロボットに乗り込んで、怪人に正拳突きを食らわせるような戦法は禁じ手といったところか?
すると、横からギンティアさんが、
「アースガルズには、先々代のエルフさんらがこさえた超古代魔法兵器もたんと装備されてるんや。せやから、そない心配せんでもええで?(棒)」
と、フォローを入れてきた。
よく見たら、彼女はいつ背負ったのか、パンパンに荷物が入った風呂敷に海外旅行用のようなスーツケースをごろごろ引きずっている。
……?
どっか行くの?
「姫様、わたし、そろそろ……(棒)」
「ああ、ギンティアさん! 地元にかえってもおたっしゃで!」
ガシッ! とハグし合う二人。
「……え?」
状況がわからない俺は、ただポケーーッと熱い抱擁を見守るしかなかった。
「姫様、わたし、徹夜でテーブルトークRPGしたの忘れられへんわ。姫様のGM回、ほんま、クソだったでェ(棒)」
「じぶんはワルキューレ修練場の呪いの柿の木に、名前を彫られたことを忘れられません! なんで、木こりさんを変死させるような木に、人の名前なんて彫っちゃうかな!」
「つい(笑)」
「つい(笑)じゃないです! なんでそんなとこだけ『かっこわら』なんですか! うあああああん、でもさびしいです! ギンティアさんと片時もはなれたくないですぅ!」
「……くっ(泣)」
「……くっ!」
……。
……なんだこれ? 女子大の卒業式か?
俺は抱き合って、えんえん泣いているケモ耳エルフ皇女閣下と銀髪爆乳メイドの模様を冷ややかに眺めていた。
すると、ギンさん(略)がステテテテテと風呂敷抱えたままやって来て、俺の手を両手でギュッと握った。
「ほな、退職するんで、後任は頼んだで、ゆーやさま(棒)」
「は…………?」
後任?
え? は? なに?
「いうてなかったかいな? うちが前任の聖心体でアースガルズを動かしてたんやで(棒)」
「き、聞いてないっすよ」
流石に、俺もびっくりした。
確かに「君が今日から浮遊要塞都市だ!」っていわれても、それ以前からアースガルズが存在していたのなら、誰が動かしてたの? って疑問は残る。
しかし、まさかこの巨乳メイドのねーちゃんの後釜だったとは、予想の斜め上を行き過ぎている。
涙を裾で拭いながら、ルルウが説明を付け足す。
「ギンティアさんがいっしんじょうの理由で聖心体をやめて地元にかえることになったんです。それで、ゆーやさまたちが召喚されたんですよ。ぐすっ」
「え? そんな理由で呼ばれたの? 俺達?」
「そう。んじゃ、姫様のお世話はあんたに丸投げするでー。パンツまで洗うんやでー(棒)」
そういうと、海外旅行に行くみたくスーツケースをずるずる引きずって、ギンティアさんは宮殿を出て行ってしまった。
「……」
「……」
そして、だいぶ打ち解けてきたとはいえ、ほぼ初対面の俺とケモ耳エルフだけが、宮殿の大広間に気まずさたっぷりに残された。
「あっ……。あぁ……」
「……」
「……とととと、とりあえず、うっすいカルピスでもいれてきましょうか?」
「なんでだよ!?」
ホント、エルフ感のない女である。
「それを、あまざけとカニ玉の素でわりまして……」
「いらん一手間を加えようとするな」
俺は乳酸菌飲料を注いだグラスに酒粕と永●園のカニ玉の素を入れようとしているルルウの額にチョップを食らわした。
……さてさて。
カルピスをストローでチューチューやったり、氷をルルウに「ブッ!!」と吹っ掛けたりしながら(ルルウは「ひゃああッ!?」といいリアクション)先々のことを考えた。
まず、あのメイドさんが、いい感じに巨乳というか爆乳だったことだ。
かなり話せる感じの人だったから、いきなりの退場は至極、残念である。
巨乳というか爆乳だったし。
マシュマロというか、CGみたいな胸だったし。
ボヨヨン♪ ボヨヨン♪
「あのあの」
「は? なんだよ? 今、オッパイのことで忙しいんだよ?」
「ギンティアさんの乳揺れをGIFアニメみたいに繰り返し脳内再生するのはやめて欲しいですが」
「よくわかったな? お前」
「はぁぁ~~」
ルルウが「頭痛が痛い」って感じで眉間を押さえながら天を仰いだ。
「ゆーやさまもなんだかんだで、大物さんですねー?」
「は?」
薄いカルピスをチューチューしながら、俺は首を傾げる。
「だって、毒殺されて都市と合体して、魔王さんと戦えなんていわれたら、ふつーだったら、びっくらぎょうてんですよー」
……。
そこで口を噤む。
……俺、実はさ、ルルウ。
見かけじゃわからないから、黙ってたんだけど。
異世界転生するのって、これで四度目なんだよね。
転生先で勇者になって、魔王みたいな超越者と戦わされるのなんて、わりと日常茶飯事だったのだが。
話すなら今かな? とも思ったのだが、俺達が裏山に登った「とある理由」も含め、何をどこからどう説明していいのかわからなかった。
……なので、とりあえず、黙っておくことにした。
そんなこんなで、浮遊要塞都市アースガルズでの一日目が過ぎてゆく。




