第2話 世界設定の歌
「――女子大プールの消毒槽がすきなひと! じ、じぶんは天空フェンリルエルフ帝国第四皇女、ルルウ・ストレジア・フェンリルですっ!」
白マントがたなびく。
白銀の鎧におさまった程良い乳をガクブルさせながら、ケモ耳エルフがのたまった。
あとで聞いたところによると、これでも百六十歳。エルフの時間感覚を人間に直せば二十四、五歳にあたる、れっきとした大人の女なのだそうだ。
場所は石積みの宮殿のような場所だった。
玉座があり、床には金の刺繍が入った絨毯が一直線に敷いてある。
玉座の背後には見たことがない樹の根のような植物が壁一面を覆っており、その中央でルビーのような緋色の宝石が輝いていた。
この宝石がまたデカい。
戦艦や宇宙戦艦の動力炉といったらわかり易いか? アニメや漫画でしか見たことないが、とにかく神々しくルビーもどきの宝石は煌いている。
「ふ、おどろいて声もでないようですね……?」
「……」
「無理もありません。とつぜん、こうきなる天空フェンリルエルフに声をかけられたのですから。だけど、あんしんしてください。女子大の消毒槽がすきなひと!」
「ふん!」
「ぐえぇっ!?」
とりあえず、マントを引っ張って、床の上に転がす。
エルフはとても美女とは思えない、バクチク入りのカエルが爆死したような声を出した。
「ふえええええ!? なにしてくれてるんですか!? 女子大の消毒槽がすきなひと!」
「なにしてるかじゃねえよ!」
大きくもなければ小さくもなく程良い大きさの乳の上に尻を乗せ、マウントをとった。
「ひゃっ! やめてください。女子大プールの消毒槽がすきなひと!」
こいつ……女子大の消毒槽の話でどんだけ引っ張る気だ?
それはともかく、俺は自分が今いる状況を落ち着いて考えようとしたが、落ち着けば落ち着くだけ、ムカムカと腹が立ってくる。
「お前ッ! 自分が何をしてくれたかわかってんのか!?」
「ひぃ! さわらないでください! 腹ボテになりますッ!」
倒れながらも、パーフェクトディフェンダーこと肉のカーテンのポーズでガードするケモ耳エルフ。
俺はiQレスラーの体勢で攻めあぐねながらも、寝技へと持ち込もうとする。
「お前のキノコ、食ったら死んだじゃねーかッ!」
「そりゃ、しぬですよぉ……毒きのこなんですから……ぐえええええええ。げほげほっ! ま、まって! まってください! からだとボディはやめて!」
ケモ耳エルフが激しくせき込み、弁明してくる。
「あの毒きのこは皆さんをこの世界に転生召喚するための、マジマジマッシュルームという名のマジックアイテムです! 転生地はてきとうにバラけましたが、全員、ちゃんと生きかえれますから!」
なるほど。
とりあえず、復活はできるらしい。
しかし、俺は斯様な詭弁の通じる程、生やさしい男ではない。
ケモ耳エルフを熟視する。
尖り耳の上で金色のケモ耳がビクッビクッと怯えたように動いていた。
細身で、腕など小枝のようだったが、彫りの深い異国情緒漂う顔立ちで、黙っていれば清楚さすら兼ね備える。
「よしわかった……」
「へ? なにがわか……わぎゃぁ~~~~~!?」
俺はエルフの手足をガッチリホールドし、つむじのあたりに鼻を近づけ、ハグハグクンクンした。
「ひええええ!? なに!? なにが起きてるんです!?」
「クンクン……この芳醇かつフルーティーな香りは、南仏プロヴァンスのカヴェルネ・ソーヴィニヨン……」
「ふひゃっ!? じ、じぶん、いま、初対面の人につむじクンクンされて、テイスティングされてます!?」
ジタバタするエルフのつむじに鼻と口をあて、大きく深呼吸。
そうこうしているうちに、奇妙なことに気がついた。
ぷかぷか。
「ん? なんか俺、浮いてね?」
自分の身体が妙に小さく、地上五十センチぐらいのところに浮いていた。
「ひえぇぇ! ギンティアさん!」
俺が戸惑っている隙に、ケモ耳エルフことルルウはバサバサバサッと、ゴキブリみたいに壁際に控える銀髪の巨乳メイドの元へと逃げ去った。
「やっぱり、現世人は性欲の権化……って、あいたぁっ!?」
メイドの方は冷静に、エルフの頸動脈にトマホークチョップを食らわせた。
「……毒殺したんやから、そら、あちらさんは激おこプンプン丸やろ?(棒)」
「あたたた……た、たしかにそうですけどぉー」
「つむじの匂いを嗅ぐだけで済ましとくとか、むしろ聖人の所業やで?(棒)」
「でもでもっ! あの身のこなしはどう見ても、プロのへんたいさんですよッ!」
俺を指さし、巨乳メイドの背に隠れる駄目っ娘エルフ。
変態にプロも素人もねえ、あるのは爛れた性欲のみだ、などと思いつつ、メイドの方を観察してみる。
関西弁のメイドはジト眼で、エルフ耳ではなく普通の耳が付いている。
かわりに悪魔のような山羊角がヘッドドレスの上から伸びていた。
ボヨヨン♪ ボヨヨン♪
立っているだけで胸揺れがCGみたいに凄い。
巨乳ってよりも、大玉スイカやメロン大のたわわに実ったこのサイズは爆乳といってもいいかも……?
それはともかく、俺は怒りを込めて、ルルウという名のケモ耳エルフに尋ねた。
「おい?」
「ひゃっ!? なななな、なんでせう……!」
「なんで俺の身体が、三頭身のマスコットキャラみたくなってるんだよ?」




