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第15話 蟻の母

「う、うぉ……」


 俺は絶句していた。


 しかし、ルルウが半裸に卑猥な落書きをされたときのような、しょーもない絶句ではない。


 驚嘆と歓喜の絶句だ。


「こ、これは素直に驚きだよね……?」


 隣りで”それ”を見上げ、タマキンも感嘆の声を洩らしていた。


 この世界にやって来て、唯一といって良い程の、いい意味でのサプライズだった。


「えへへへ、どうです? これが超古代魔法兵器都市の真の姿なのですっ!」


 尻尾をぱたぱた振りながら、じゃーーん、と両腕を広げるルルウ。


 そこにあったのは、巨大な砲身。


 巨大といってもちょっとやそっとではない。


 アースガルズの底部……円型のすり鉢状の部分が二つに割れ、折り畳まれて収納されていた何百メートル……下手したらキロ単位になりそうな、真っ黒な大砲がせり上がっていた。


 デザイン自体は砲身も丸っこくて、大昔の漫画やゲームに出てくるようなレトロな形の大砲だ。


 おそらく、砲丸みたいなタイプの弾頭が飛び出してくるような。


 ある意味では、このおマヌケな世界観にぴったりなデフォルメ感といってもいい。


 だが、砲口にアースガルズ最大の建築物、オリンポス塔すらすっぽり入ってしまうサイズが、デザインのクソダサさを吹っ飛ばす大迫力だった。


「じぶんらが魔王さんをたおすことができる唯一無二の兵器が、この|《蟻の母(アンフィスバエナ)》っす」


「ほぅー」


「ほぅー」


 俺もタマキンも眼がテンになってしまった。


 ルルウは「日本語だとこう書きます」といって地面に『蟻の母』と漢字で書く。


 異国の読み書き楽々とマスターしているあたり、ルルウの無駄なまでの部分的ハイスペックをよくあらわしている。


「大きなアリさんのモンスターをイメージしそうですが、|《蟻の母(アンフィスバエナ)》とは、双頭で、大きなくちからアリさんをたべるヘビさんのことです。この兵器はアースガルズと地龍山脈村ニダヴェリールを魔導ケーブルでつなぐことによって、起動させることができるです」


「ほぅー」


「ほぅー」


「……ちょ、ちゃんと聞いてください! おふたりとも!」


 ずっと同じリアクションだったので、さすがにルルウも怒った。


 ここはアースガルズから場所を移し、タマキンが聖心体をしている地龍山脈村ニダヴェリールだ。


 と、いっても、現在、アースガルズはニダヴェリールに激突されたままである。


 ゆらゆらと手近な浅瀬に、巨大な岩山にも似た地龍山脈村のてっぺんに乗っかった状態で着水している。


 ニダヴェリールはアースガルズの倍の大きさなので、下層なら|《蟻の母》を展開させた状態のアースガルズをかろうじて見上げることができた。


 地龍山脈村ニダヴェリールは巨大な炭坑街という印象だった。


 そこでは地龍人と呼ばれる赤黒い蜥蜴人(リザードマン)が炭鉱夫として働いている。


 すでに顔なじみになっていたタマキンとルルウが交渉すると、皆、作業をやめて、アースガルズから引っ張って来た魔導ケーブルの接続に協力してくれた。


「いやいや、凄いよ、ルルウ。これはマジで凄い」


 俺は我に返ると、正直にルルウを褒めた。


 この巨大さはドヤ顔になるのもわかる。


「えへへへ。もっとほめていいですよ、ゆーやさま」


 ぴょこぴょこ耳を立てて、膨らんだ胸をはる。


 頭をわしゃわしゃしてやると、犬科とあってか、ルルウも尻尾をぱたぱた振った。


「でも、こんな大きな砲台……ちゃんと砲弾が飛ぶのかしら?」


 腕組みして、もっともな疑問を口にするタマキン。


 ……た、確かに。


 科学的にいったら、これだけ大きな大砲がマトモに稼働するとは思えない。


 いくら剣と魔法の異世界といっても、多少の常識というか、物理法則ってものがあるだろう。


「飛ぶのは弾丸じゃないですよ? 極限までぞーふくさせた魔法です」


「魔法? 火炎や雷撃をぶつけるのか?」


「なんとせつめーすればいいんでしょうね? そこは自由ですー」


「「自由!?」」


 俺とタマキンが同時に眉根を寄せる。


「なんだ、自由って?」


「大砲が自由って、まるで意味がわからないんだけど……」


 混乱する俺達。


 だが、ルルウの説明は、我らの想像を遙かに上回っていた。


「威力も効果も……聖心体がご自由に選べるんです」


 なんのこっちゃ?


 俺もタマキンも理解が追いつかず、そして、追いつけないまま思考を放棄した。


 ただ、ルルウを可哀想な子でも見るように見つめた。


「なんなんですか!? その眼は!?」


「可哀想な子扱いだ」


「しょせんは虚言癖の犬頭だったのね……」


「ひどいです! じぶんは本当のことをいったまでです!」


 ぱたぱた、涙目で地団駄を踏むルルウ。


 キレ方も犬だな。


「わかったから、もう喋るな」


「犬は吠えると寿命が減るのよ……」


「犬じゃないです!」


 がるるる~~と前傾姿勢で唸るルルウ。


 犬じゃんか?


 どうどう、と俺達が鎮めると、駄犬はやっと落ち着きを取り戻した。


「コホン。いいですか? 百年ぐらい前、聖心体だったギンティアさんが一度だけ、この大砲をつかったことがあるですよ」


 ホワンホワンホワン……と回想を始めルルウ。


 (およそ百年前)


 ……といっても、エルフは長寿なので人間の時間感覚からいうと十五、六年前らしい。


 その頃、邪坤蔟(じゃしんぞく)という魔族とも違う、謎の第三勢力がこの地を荒そうとしていた。


 その時、ギンティアさんが彼らを掃討するために、二つの超古代魔法兵器都市を繋ぎ、|《蟻の母(アンフィスバエナ)》を邪坤蔟の軍勢に向けて放ったらしい。


 ドカーーーーーーーーーーーン!


 (回想終わり)


「それでどうなったんだ?」


「消えました。国ごと」


 あっけらかんと、答えるルルウ。


「消えた……?」


「国が……?」


 マジか……。


 ルルウの話によると、軍勢が消滅したのはもちろん、邪坤蔟の住む国が国土ごと、一握の砂も残さず消滅したらしい。


 とどのつまり、すり鉢状のクレーターになった。


 とはいえ、大砲のサイズを考えれば、核弾頭級の破壊力を持っていたとしても驚くに値しない。


 だが、この砲台の驚くべき点はここからだった。


「もともと、邪坤蔟は魔族以下の国民総クズ国家として有名でした」


 しめやかに、ルルウは語り始めた。


「殺人、強盗、誘拐拉致監禁。ほかにも、海の家を襲撃しては、やきそばを食べ、出前のやきそばを襲っては食べ、夜店で売れのこったやきそばを勝手に食べ、それはもう、ひどい連中でした。やきそばを勝手に食べるし」


「やたら焼きそばが好きな連中だなぁ」


 盗み食いしかしないなら、まだ許容範囲だが、ドン引くレベルの凶悪犯罪をはたらいた末に、焼きそばを盗み食いをするとなると、むしろそれは猟奇的ですらある。


 タマキンが「焼きそばはこの際、関係ないよね?」と睨んできたので、「ゲフンゲフン! それでですね」とルルウが言葉を接ぐ。


「この大砲の最大の特徴は、威力も射程も効果も頭で考えた通りになることなんですよ」


「だから、なんだよ? その『俺の考えた最強ロボ』みたいな設定……」


「そうそう。ちゃんと説明してくれないかしら?」


「えっと……そうですね。百年前に発射したとき、ギンティアさんが設定した|《威力》は、|《邪坤蔟をこの地上から消すこと》でした」


 ごくり、と俺もタマキンも生唾を飲む。


 ここは異世界なのだから、何でも願いが叶うマジックアイテムがあってもおかしくはないだろう。


 でも、そいつが兵器として、自分達が実際に使えるとしたら……これはルルウが思っている以上に、厄介な代物なのではないだろうか?


「もちろん、起動させるのに、ふたつの都市の魔力エネルギーを大幅に消費するなど、燃費効率は非常にわるいそうです」


「ま、そりゃ、確かにそうだろうな。国を吹っ飛ばすぐらいの威力があるんだし」


「いえ、それがですね。ギンティアさんの話ですと、かなり力をセーブして、その|《威力》だったとか」


「お、おぅ……マジか」


「全世界のいきものを消滅させることも、石化させることも、どろどろに溶かしてしまうこともできるそうです。さすがに宇宙まではとどかないそうですけど」


「そりゃそうよ。SFじゃないんだから」


 惑星や銀河系まで破壊できたら、インフレバトルここに極まれりだ。


 流石にそこまでの威力はないと聞いて、俺はちょっとほっとした。


「でも、超古代魔法兵器都市は、ぜんぶで四つありますから……」


「「ッ!?」」


 俺とタマキンが同時に絶句する。

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