第16話 白旗
そうだった。
俺達は四人、超古代魔法兵器都市の聖心体になるために召喚された。
どうしてバラバラになったのかはわからんが、残るは妹の朱華音とあと一人。
となると、あと二つ、アースガルズやニダヴェリールみたいな都市があるわけだ。
それらも|《蟻の母》に繋げたとしたら……。
いわば半分の|《威力》で、この砲台は破壊力と射程が“ほぼ無限”なのだ。
ガチでヤバい。
核弾頭なんて次元ではない。
「しかし、『射程は自由』なら今、魔王城に向けて撃っちまえばいいじゃんか?」
「あっ」
俺が口にすると、ルルウはギョギョギョと、魚のかぶりものをしたタレントのように眼を見開いた。
「|《威力》を魔王やモンスターだけが滅ぶように限定させることができれば、人的被害も出ないだろうし」
「ゆーくんのいう通りだよ。さっさと撃って帰りましょう」
タマキンも銃殺好きの婦警的なノリで応じる。
「ええええ……だッ、ダメですよぅ、そんな、将棋の一手目から王手をかけるみたいな!」
「お前はアホか? 戦う前から戦争は始まってるって、孫子もいってるだろ?」
「ゆーくんのいう通り! 一手目から王手だよー」
清楚な笑みで、タマキンも同意をしてくれる。
「異世界転生のぬるい常識は捨てて、騙し討ちとか爆撃とか枯葉剤とか、戦争は定石通りに進めないとー」
「ダメですよぅ、そんな卑怯なまねをしたら。正々堂々と侵略してくる魔王軍のみなさんに申し訳ないですよぅ!」
「なんで魔王になんか、遠慮してるんだよ?」
「そうよー。敵なんだから、ギッタンギッタンにしないとー」
「とりあえず、魔王城から消しちまおうぜ。ルルウ、操作を教えろよ?」
「や、やめっ! やめてくださ――――い!」
ルルウの制止はガン無視し、俺とタマキンは|《蟻の母》へ向かって飛び始めた。
「「……ん?」」
またもや、俺とタマキンの声がそろう。
聖心体だからわかるのだろう。
アースガルズとニダヴェリールのレーダーが大量の飛行物体をとらえた。
「ど、どうしたです?」
「シッ! 敵影らしきものがレーダーに引っかかったんだよー」
「えっ!?」
意識がダイブしている俺にかわり、タマキンがルルウの問いに答えた。
敵影とタマキンは即座に判断したが、確かにその可能性は高そうだ。
飛行物体の数はおよそ三十あまり。
それ程、強くない魔力の反応だが、中心部に一つだけ台風のような渦がある。
俺は視界をアースガルズのカメラと連結し、|《鳥瞰》モードにした。
「み、見えますか? ゆーやさま!?」
「むぅ……」
「魔王さんの軍ですか!? もう、きちゃったですか? ちょっと予定より早いんじゃないですか? せめておひるを食べてから……」
「あ~~~もう、ルルウ、うるさい」
集中する俺にルルウが顔とオッパイをグイグイと、押しつけてくる。
駄犬相手だとはいえ、美女にやわらかなおっぱいを押しつけられるのは大歓迎だ。
だが、いくらドスケベの俺でも、この危機的状況では下半身がピクリともしない。
いや、半勃ちはしてるけど……とにかく、魚群レーダーのように魔力を感知したのは、無数の翼竜、黒ワイバーンの群れだった。
その上に金属の鎧と剣や盾で武装した緑の巨体、オークやゴブリン、白骨のスケルトンとか、いわゆる魔物達が乗っている。
おー、こいつらが魔王軍か?
……。
あれ? なんだか随分、ボロボロじゃないか?
首を傾げる。
そもそも、魔王軍だとしたら、三十体という数はあまりに寂し過ぎる。
中心にいるのは黒いドラゴン。
かなり大きく、体長十五メートルぐらい。
お台場のガ○ダムより、身長は小さいが、それでも十分に大きい。
んで、この竜も角が折れてたり、片目が潰れてたり、羽根に穴が空いたりしていて、かなりズタボロだ。
竜の頭上には、黒ずくめのマントと甲冑の人物が立っていた。
角付きのフルフェイスの鉄兜をかぶっているから、顔まではわからない。
二メートル近くはある長身、巨大な魔力の発生源がドラゴンではなく、こちらだということを鑑みるに、こいつが魔王軍の大幹部か何かか?
しかし、こいつの鎧もまた、ひび割れ、立っているのがやっとのご様子。
「……なんだこれ?」
ルルウがまたしても横から口を挟んでくる。
「はたじるしを! はたじるしをみてください!」
「は? 旗印?」
「骨々しい人が持っている旗のことかしら?」
タマキンにいわれ、眼を凝らす。
骨々しいというのは、おそらくスケルトンのことだろう。
半分に折れ、引き裂かれた、かろうじて旗状のものを手にしていた。
「魔王さんの軍だったら、はたじるしで所属がわかるですよ?」
「え~~と、コウモリみたいな翼に盾、斧とレイピアがバッテンしている図だなぁ」
「……ま、魔王直属親衛騎団ッ……ですッ!!」
途端にルルウが、あたふたしだした。
「魔王直属親衛騎団? あのボロボロの連中が?」
「じゃ、あの真ん中の、黒ずくめの人が魔王なのねー」
「あれが魔王?」
俺は眉根を寄せる。
確かに、真ん中に居る奴は魔力をたれ流し状態なので、魔力感知なんかしたことがなかった俺にもありありと感じられる巨大な魔力だ。
魔王というのは納得だけど……なんかズタボロじゃね?
「どうしましょう?」
「どうしましょうって……いってもだな?」
「とてもじゃないけど、たたかいの準備なんて、できていませんよぉ」
「でも、向こうから来てくれるなんて好都合だよねー。さっさと倒せば、お夕飯までには、日本に帰れるんじゃない? ゆーくん」
わたわたするルルウとは対照的に、強者のオーラを醸すタマキン。
なんか、アグレッシブな定時退社派みたいなことをいってないか?
そこに無数のワイバーンに乗って、アースガルズから駆けつけて来る、別の影――。
「ゆーやさま! あの軍勢は!?」
軍勢が肉眼で確認できるようになった途端、ブルーハワイら、ワルキューレ達が剣や弓を手にキャピキャピとワイバーンから降りて来た。
「お、魔王と親衛隊みたいだぞ?」
「まっ!? 魔王と親衛隊……!!」
「ま……まお……ひっ!」
ワルキューレ達は驚きと恐怖のあまり、固まってしまった。
空の端から黒々の魔物の軍団が近づいて来るにつれ、彼女達は普段の元気を何処へやら、剣や弓を構えたまま、どいつもこいつもブルブル小刻みに震えている。
……おいおい。
完全にガクブルじゃないか?
「そんなんで大丈夫なのかよ? ワルキューレ?」
「しかたないですよ。ワルキューレは弱小モンスターぐらいとしか戦ったことがありませんから」
「え、そうなの?」
完全にビビッてるワルキューレ達の横で、ルルウが注釈を加える。
連携がとれた戦闘をしていたから、それなりに実戦経験を積んでいるのかと思った。
「唯一、百年前の邪坤蔟との戦闘を経験されているエインさんは、乳首を開発されて寝てますし」
「う……」
「ゆーくん? 乳首開発って、なんのこと?」
「う、あ、にゃんでもない、にゃんでもにゃい。にゃんにゃん!」
とりあえず、タマキンは笑顔が怖いから、にゃんにゃんいって誤魔化しておく。
タマキンは「もうー、ゆーくんってば」とニッコリ微笑み、「で、乳首開発ってなに?」と笑ってない眼で聞いてくる。
「でも、ガチな話、これは参ったな」
とりあえず、強制スルースキルを発動させ、ルルウの背に逃げる俺。
「なんでか知らんがズタボロとはいえ、魔王といえば強敵だ」
「そうなんです。|《蟻の母》がいくらチート兵器だとはいえ、急に発射はできないんです」
ルルウも頭を抱える。
超古代魔法兵器都市の基本兵装すら知らされていない俺とタマキン。
こんな状態では彼女の念動力があっても、魔王に勝てるかは未知数だろう。
他の連中は論外。
自分にも、味方にも、まるで期待が持てんぞ?
「ゆーやさま! あれをみてください!」
「ん?」
ルルウにいわれ、俺は空を見た。
黒い紋章旗を掲げていたスケルトンが旗を下ろし、するすると別の旗に付け替えた。
「「「「「あっ!」」」」
そのとき、全員の声が一斉に揃った。
スケルトンが掲げたのは、白旗だった。




