第11話 空飛ぶ女子大生
「な、なんだ!?」
「きゃっ、山が! 山があんな近くに!」
ワルキューレのみなさんが口々に悲鳴をあげながら空を指さしています。
じぶんらが街コンをしていたのは、オリンポス塔のすぐ近く。
オリンポス塔はけっこう、高くて、さいたま県の建物でいうなら、蕨市で一、二をあらそう高層建築「シティータワー蕨」と同じ、99.98メートルです。
アースガルズではこれ以上の高層建築はありません。
ですが、前方には、それよりはるかに巨大な岩山がそびえたっていました。
いえ、あれは、そびえたっているのではありません。
浮遊しているのです。
「あ、あれは地龍山脈村ニダヴェリール!!」
「……な、なんだ、そりゃ?」
ゆーやさまがびっくりして、こちらをふりむきました。
「アースガルズとおなじく聖心体を宿す、超古代魔法兵器都市です」
「聖心体!? じゃあ、あの山には……」
「ええ、ゆーやさまのお仲間のどなたかが……?」
じぶんがいいおわらないうちに、ゆーやさまは両手で股間をおさえながら「ムキーーーーーッ!!」と飛びだしてゆきました。
「行くぞ! お前らッ! これは宣戦布告だ! あのクソ山の聖心体を引きずり出して、股間がもげる痛みを味わわせてやる!」
「ちょ!? ゆーやさま!?」
たぶんお仲間ですよ? 操縦してるの。
そんなじぶんの理屈は彼らには通用しそうもありませんでした。
ゆーやさまが先陣をきると憩いの場である「天竜アンニュイ亭」を壊された怒りからワルキューレ達も魔法のほうきや空中浮遊の呪文で、いっせいに追いかけてゆきました。
じぶんもぺたぺた、徒歩で追いました。
空中浮遊の魔法も使えますが、戦うのがだるいので、遅れて行こうと思いました。
「メロンホイップ、グリーンティー、ピンクレモネード、カシスオレンジは俺に続け!」
「了解でーーすっ! ゆーやさま!」
「了解」
「了解だよん!」
「了解だぜ!」
「トッピングミルク、ホットジャスミンは空中右翼左翼から魔法攻撃! ウォーターメロン、マキシマムピーチは後方より支援攻撃! ブルーハワイは同じく後方より狙撃! ルルっぺはとにかく攻撃魔法をぶっ放せ!」
「うふふ。はーい」「了解アルネ!」「りょ」「おーーっ!」「アイアイサーーッ!」
「皆の衆! 岩石野郎共に眼にもの見せたれッ!!」
「「「「「「「「「「おーーーーーーーーッ!!!!」」」」」」」」
ゆーやさまを先頭にへんなテンションでワルキューレ達が突貫してゆきました。
昨日の敵は今日の友でしょうか? じぶんは卑猥なことをいっぱいされたので、一晩では水に流せません。
一日で忘れるとか、どんな脳筋ですか?
「うおりゃあああああああ! キンタマもいだれやああああああ!」
蛮族のような雄叫びをあげ、ゆーやさまが飛んでゆきました。
そのせつな――。
ずどん。
衝撃が走りました。
ゆーやさまとワルキューレたちが一瞬で地面にたたきつけられます。
わずかに土砂がはねあがりました。
「な、なんだぁ!?」
ゆーやさまが地面につっぷしたまま、さけびました。
「ゆーやさま! 動けませぇ~~~~ん!!」
「これは重力魔法!? し、しかしこんな強力なものは聞いたことが!?」
ワルキューレの人達も地面にぐいぐい押しつけられたまま、足をバタバタ。
その横にテテテテテと、じぶんがやって参りました。
「ルルっぺ! なに一人だけ、遅れて来てるんだよ!?」
「……ルルっぺ?」
「ちょ!? おい! なにするんだ!?」
そこらへんにおちてた棒で、ゆーやさまのお尻をなぶりたおしました。
聖心体のからだはスライムのようにぷにぷにです。
棒でぐりぐりなのです。
「ら、らめぇ! おケツが二つに割れちゃうぅぅぅ~~ん!」
「……リア充パリピは爆散してください」
ゆーやさんと(で)たのしんでいますと、どこぞの方角から聞き慣れない声がしました。
「一日、会わないと思ったら、ゆーくん、もうケモ耳エルフに開発されちゃったの?」
ふと顔をあげますと、若い女のひとが空中浮遊していました。
女子大生です。
青いテーラードジャケットを着て、セミロングの黒髪に紺碧の宝玉がついた金の髪どめをしていました。
清楚ですが活発そうでもあり、いわゆる優等生タイプの美人です。
しかし、浮いています。
めっさ、空中に浮いています。
魔力を感じないので、魔法とも違うようです。
「え、誰ですか……?」
「おお、タマキンかぁ。ふごっ!?」
戸惑うじぶんをよそに、ゆーやさまがカラッとした笑顔で声をかけました。
が、見えない力で五十メートルぐらいぶっ飛びます。
「ぼ、暴力ヒロイン反対!」
「暴力ヒロインじゃないよー。手も足も使ってないんだからー」
五十メートルもふっ飛んだから、死んだかと思いました。
しかし、ゆーやさまはゴキブリ並みにピンピンしています。
どうやらこれが、日常的なスキンシップのようでした。
そうこうしているうちに、ワルキューレ達がよろよろと起きあがってきました。
どうやら、重力魔法のような彼女の不思議な力が解けた模様です。
ワルキューレ達は初対面でしたが、じぶんは彼女と少しだけ面識がありました。
毒キノコを渡したときです。
ここは、ゆーやさまにご紹介いただくしかありません。
「あの、ゆーやさま? このひとをみなさんにご紹介した方がいいんじゃ……」
「あ、あなた! 毒キノコのっ!」
「ひっ!?」
優等生美人の矛先が突然、じぶんにむかってきました。
「口からキラキラしたのが出ちゃったじゃない!」
おそらく、ゲロを吐かせて、毒殺したのを根にもっているのでしょう。
清楚さとはうらはらに、人間が小さいようです。
じぶんは掌に全魔力を集中させますと、|《異空間扉》の魔法を使って、空中に生まれた切れ間に飛びこみました。
「あ、逃げた! 待ちなさーーーーいっ! キラキラしたものの恨み!」
「ひゃっ!? 追ってきましたです!?」
異世界に行くことすらできる呪文なので、無詠唱でも四百メートルぐらいは逃げられます。
というか、無詠唱だとショボくなりすぎるかわりに、ほとんど瞬間移動なのです。
ところが、猛スピードで空を飛びながら、女子大生が追ってきます。
「なんですか!? この人!? パンツまるみえですよ!?」
「短パンぐらいはいてるんだからーッ!」
さいわい、あの重力魔法のような力には射程範囲があるようです。
攻撃は届かないものの、いくら空間転移で離れても、女子大生はじぶんらの浮遊魔法では考えられないレベルの速度で空を飛んで来るのです。
「あなたもキラキラしたものを出しなさーーーーい!」
「はわわわわわわ!? この人! ガチでこわい! ガチでこわいです! ここは異世界ですよ!? なんで女子大生が飛べるんですか!?」
◇ ◇ ◇
「ゆーやさまぁ、あの方は誰ですか?」
「ああ、仲間だ」
結局、じぶんとゆーやさまは、優等生美人さんの前で小一時間、正座で説教をさせられました。
ワルキューレたちが恐る恐る見守るなか、「天竜アンニュイ亭」のガレキが脛の下に当たって、超痛かったです。
「ゆーやさまのお仲間ということは……あのひとも聖心体ですよね?」
「そうゆうことになるな」
ゆーやさまは女子大生を見あげ、暗澹たる面持ちでつぶやきました。
「あいつの名はタマキン。見ての通り、超能力女子だ」




