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10億当選したらモテ期到来!……かと思われたが、美少女たちがなぜか曇りだした  作者: 那須 儒一


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第7話 解れ

自分自身どうすればいいのか分からなかった。


酒の勢いで、記憶もないまま佐々木さんに手を出すなんて……こんな僕に恋愛をする資格なんてあるのだろうか。


それでも、男として責任は果たさないと。


キャンパス内でたまたま佐々木さんを見かけた。


自責の念に押しつぶされそうになり、

僕は言葉を抑えることができなかった。


「佐々木さん! 僕と結婚してください!」


人目も憚らず、僕は叫んだ。


「はっ……ちょ、てめぇ、何言い出すんだよ!

頭、湧いてんのか?」


顔を真っ赤にした佐々木さんが、

突然詰め寄り、胸ぐらを掴む。


「だって……僕、佐々木さんに……手を出してしまったから……責任を……」


彼女は少し視線を落とし、何やら考え込んでいる。


ふっと彼女の口角が緩んだ。


「ぷっ……くくく……にゃはははは」


「な、なんで笑うんですか?

僕は真剣なんですよ」


「……ったく、お前は筋金入りのバカだな。

あの日の夜は、なんにもなかったよ……」


「えっ……何もって、何も?」


「ああ、そうだよ」


佐々木さんはお腹を抱えて、笑いを堪えるので必死だ。


その時、ようやく自分がしでかしたことに気づいた。


佐々木さんの少し後ろで、膝から崩れ落ちる明里ちゃん……冷たい目で僕を睨む奏ちゃん。


――やってしまった。


僕は耐えきれなくなり、その場から走り去った。



自宅に帰る気にもならず、

喫茶“モダンタイムス”に足を運んでいた。


店長の高宮たかみやさんが、なにかを話していたが、なにも耳に入ってこなかった。


注文したパンケーキが目の前で次第に萎んでいく。


ブラインド越しに夕陽が差し込む。


カランカラーン。


来客を知らせるベルと共に、小柄な女性が入ってきた。


「奏ちゃん……」


「げっ……」


彼女は目が合うとあからさまに顔をしかめた。


別の席に座ろうとする彼女を高宮さんが引き留めた。


晴人はるとくんなら、あそこにいるわよ」


「えっ……高宮さん……ちょっと……」


高宮さんは嫌がる奏ちゃんを半ば強引に、席へと座らせた。


彼女の背後で、高宮さんがウィンクをしてみせる。


いや、勘違いだから余計な気遣いは止めてくれ。


結局、シックなテーブル越しに奏ちゃんと向かい合う。


彼女はパンケーキだけ頼むと、ブラインド越しに、窓の外を眺めていた。


「奏ちゃん、ここによく来るの?」


「……」

返事は返ってこない。


ううっ……ものすごく気まずい。


「土井先輩……パンケーキ食べないんですか?」


素っ気ない態度に気圧されつつも、僕はパンケーキを頬張る。

正直、味わうどころではなかった。


ジャズの合間にナイフとフォークが擦れる音だけが響いていた。


「土井先輩にお願いがあります」


ようやく目を合わせた彼女の表情は、真剣そのものだった。


「……なにかな?」


「もう、前園先輩と佐々木先輩には関わらないでください」


うっ……そう言われても、多少の誤解はあれど僕から接近したことはほとんどないはず。


「……」


僕の返答を待たずして彼女は続ける。



「前園先輩、ここ最近、泣いてばかりなんです。土井先輩とのことを聞いても、『私が悪いから』の一点張りで……それに、今日も当て付けのように佐々木先輩まで巻き込んで……最低です!」


頭が真っ白になる。


好意を寄せている人にここまで言われるとは……

胸が悲鳴を上げている。


歳下に気圧されている自分が情けない。


本当は誤解だって伝えたい。

でも、奏ちゃんは何を言っても聞き入れてくれないだろうし、何より、彼女の明里ちゃんに対する幻想まで壊したくはなかった。


「わかったよ。二人にはもう近づかない」


僕の一週間にも満たないモテ期はここで終わりを告げた。


大丈夫……これまで通りの日常に戻るだけだ。

今までだって一人だったじゃないか。


大丈夫……大丈夫。


言葉を反芻するが、飲み込めそうにはなかった。


僕は初めてパンケーキを残した。



「ごめんね晴人はるとくん……私、余計なことしたみたい」


高宮さんが申し訳なさそうに手を合わせる。


「いいえ、いいんですよ。遅かれ早かれこうなっていましたから……」


「今日はもう店閉めるからさ。家に来なよ」


「えっ……」


「今日だけは理沙りさの代わりにお姉ちゃんをしてあげるから」


そう言って高宮さんは僕の頭をくしゃくしゃに撫でてくれた。


日は沈み、次第に雨足が強まる。


高宮さんに手を引かれ僕は流されるままに彼女の家に上がり込んでいた。


「散らかってるけど、ごめんね」


「いいえ、こちらこそお気遣いいただきありがとうございます」


「なんでそんなに他人行儀なんだよ。

昔は理沙と一緒によく遊んだろ?」


そう言って、タオルが飛んでくる。


「僕も大人になりましたから」


濡れた体を拭きながら、高宮さんを見る。


「ま、今日ぐらいは私に甘えなさい」


そう言って高宮さんは給湯器を操作して、お風呂の準備を始めた。


「ほら、脱いで脱いで!」

彼女はそう言って僕のシャツをはぐり始めた。


「ちょっ、それくらい自分でできますって」


「中学ぐらいまで一緒にお風呂に入ってたじゃん。今更恥ずかしがるなっての」


高宮さんは僕の上裸を見て……固まった。


「え……高宮さん?」


「ご、ごめんなさい……」

彼女は頬を赤らめなぜか目を背けた。


な、なんだ? この反応?


「どうしたんです?」


「もう! いいから、自分で脱ぎなさい!」


そう言って、彼女はなぜか背を向けた。


まったく、感情の忙しい人だ。


僕は、下半身にタオルだけ巻き、浴室に入った。


なんだ、ここ……シャンプーやら、リンスがいっぱいある。


どれを使えばいいか分からず、適当に体を洗って入浴剤で白く濁った湯船に浸かった。


どうしてこうなった?


好きな人にふられたことも、姉の友人の家でお風呂に入っていることも、理解できなかった。


僕はもう、考えるのをやめた。


「晴人くーん。入るよ?」


そう言って、高宮さんが浴室に入ってきた。


タオルで体を隠していたが、目のやり場に困る。


「なによ、もう少し反応してくれてもいいじゃん」

彼女はなぜか口を尖らせて、頭を洗い始めた。


僕は聞かなかったことにして、目を閉じ、湯船に体を預けた。


湯気に包まれていると、水面が揺れる。


高宮さんの背中が、僕の体に寄りかかる。


湯船の温度か、彼女の体温か分からないが、温かかった。


柑橘系の香りが鼻をかすめる。


「晴人くん……いつの間にか、男になっていたんだね?」


「なんですか、それ……生まれつき男ですよ」


「もう、そういう意味じゃないってば」


「最近、姉ちゃんとは会いました?」


「ううん。理沙ってば忙しいみたい」


「そうなんですね……」


中身のない会話が、今はなんとなく心地良い。


うたた寝をしていると、彼女は湯船から上がり、脱衣所に出た。


なんだか、少しだけ寂しかった。

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