第5話 初デート(誤)
『ぜひ、行きたいです。
あんなことがあったのに、晴人くんから誘ってくれるなんて。嬉しいです♪』
えっ……晴人くん?
奏ちゃんは僕のこと土井先輩って呼ぶん出たはず……
「あっ!?」
宛先を見て思わず声が漏れる。
やらかしてしまった。
人生二度目の大やらかしだ。
デートのお誘い……明里ちゃんに送ってしまっていた。
こうなったら仕方ない。
こんなに喜んでいるんだ。
いくら苦手な相手だからって、今更誤送信なんて言えない……言えないよ……
❇
デート当日、いつものショッピングモールで彼女を待つ。
集合時間30分前だというのに、
今日は明里ちゃんはショッピングモールの中庭で先に待っていた。
フェミニンっていうのかな、黒いTシャツに白のフレアスカートが初夏の風に揺れていた。
暑いから中で待っててって言ったのに……
そんな明里ちゃんが健気に見えてくる。
いや、これはまやかしだ。
電子タバコに腹黒い……それが、本来の彼女だ。
僕は、素の彼女を見ようと物陰から眺めていた。
なんか、これじゃあまるでストーカーみたいだ。
彼女は日差しに耐えながらも、ハンカチで汗をぬぐっていた。
しばらく待っていたが特に何も起こらず……
「ごめん、お待たせ……」
「あ、晴人くん。私も今来たとこだよ」
彼女の赤く火照った頬が、長時間外にいたことを示していた。
「大丈夫?
なにか、飲み物飲もうか」
「えっ、いいの?」
「ああ、倒れられても困るし」
「晴人くん……優しくしてくれてありがとう」
彼女はまた、泣きそうな顔で笑う。
やめてくれ……その顔には弱いんだ。
こんなんだから、明里ちゃんの本心も分からないんだろうな。
彼女はまだ望みがあると思っているのだろうか。
二人でショッピングモール内の小洒落たカフェに入る。
目の前の彼女は美味しそうにメロンクリームソーダをストローで飲んでいた。
「あんまり見ないで……恥ずかしいから」
「ごめん」
やっぱり、会話が弾まない。
明里ちゃん……罪悪感を抱えているのだろうか。
「それじゃあ、行こっか」
僕には奏ちゃんがいる。
さっさと映画を観て帰ろう。
「え、うん」
僕が財布を出そうとすると、明里ちゃんが手で制す。
「私が払います」
「いや、これぐらいいいよ」
「駄目です。私に払わせてください」
罪滅ぼしかなにかは分からないが、
逆にこっちが気を遣ってしまうからやめてほしい。
そんな僕の気など露知らず、
彼女は強引に会計を済ませた。
✾
ショッピングモール5階にある映画館……
好きでも仲良くもない相手と何故かラブロマンスを観ているなんて。
正直、映画の内容なんて頭に入ってこなかった。
エンドロールを終え、照明に照らされた彼女は泣いていた。
僕はさり気なくハンカチを差し出す。
「ありがと……本当は互いに好きなのに……最後は結ばれないなんて……」
切ない展開を僕らの関係と結びつけているのだろうか?
「そうだね……それじゃあ帰ろうか」
もう、僕には関係ない。奏ちゃんっていう、心に決めた人がいるから。
僕は適当に相槌を打って足早に映画館を出た。
「晴人くん……待って、待ってよ……」
はぁ……また泣き出してしまった。
僕には何もできない。
さすがに置いて帰るわけにもいかず、彼女をベンチに座らせて、僕も隣に座った。
「前園先輩……と、えっ、土井先輩……?」
聞き覚えのある声に背筋が凍る。
「か、奏ちゃん……こ、これには訳が……」
別にやましいことなんてないのに、ついつい挙動不審になる。
「えっ、なんで二人が……前園先輩……泣いている」
次の瞬間、頬に熱が走る。
奏ちゃんにビンタされたんだと、
少しして気づいた。
「思い出した!
この前、大学で前園先輩を泣かせていたの、土井先輩だったんだ!
それに、また泣かせて……私、許さないから!」
奏ちゃんは言いたいだけ言って、明里ちゃんの手を引っ張って連れて行ってしまった。
なんだよこれ……なんなんだ……僕が悪いのか?
奏ちゃんの瞳に浮かんだ失望だけが、何度も脳裏に焼き付いて離れなかった。
こんなことなら、始めっから誤送信だと伝えればよかったのか?
映画と同じように、僕と奏ちゃんも呆気なくバッドエンドを迎えてしまった。




