第3話 初デート(偽)
「晴人くん、お待たせ!」
集合時間5分前、薄水色のツーピース姿の彼女が小走りで手を振っている。
可愛さと猜疑心がせめぎ合い、
心が持ちそうにない。
「僕も、今来たとこだから……」
明里ちゃんに心を許すまいと、人混みの中へ足を向けた。
あの日、彼女の本音を目撃しなかったら、
僕は幸せなままだったのだろうか。
可愛く、健気な彼女として、
僕は生涯を捧げていたに違いない。
たらればの話をしても仕方ないか。
「晴人くん、待ってよ」
明里ちゃんが背後から僕の腕を組む。
僕はそっけなく手を振り払った。
「あんまり馴れ馴れしくしないでよ」
「うん……ごめん……」
目を伏せる彼女は、今にも泣き出しそうだった。
今さらながら明里ちゃんを誘ったことを後悔した。
誘いに乗る彼女も彼女だ。目的はなんなんだ?
まだ、僕を騙せると思っているのか?
ショッピングモールの中を無言のまま歩き続けた。
「あの……晴人くん。服を選んでほしいんだよね。
せっかくだからカットもしてもらわない?」
「カット?」
「うん、この先に私の行きつけの美容院があるんだよね。予約が空いてたら切ってもらおうよ!」
「いいけど……」
僕とは対照的に明里ちゃんはなぜかはしゃいでいた。
明里ちゃんはスマホを手際よく操作して、
何やら確認を取る。
「うーん。1時間後に予約できたから、それまで服を選ぼうよ!」
明里ちゃんに手を引かれ、されるがままだった。
「オールブラックでまとめれば、
晴人くんの雰囲気にも似合うと思います」
彼女はそう言って、
次々に服を手に取り僕に合わせる。
彼女というよりは母親みたいだな。
「ふっ……」
「晴人くん、ようやく笑ってくれた」
いつの間にか笑みがこぼれていたみたいだ。
「いや、これは……」
彼女の頬を大粒の涙が伝う。
「私が悪いのはわかっている……でも……それでも晴人くんと一緒に居たいから」
「ちょっと、泣かないでよ」
僕は彼女にハンカチを差し出した。
「うん、ごめんね。本当にごめん」
どれだけ謝られても、彼女の涙を信じることはできなかった。
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モノトーンでまとめた装い、
正直、今までの僕とは別人だった。
「きゃー! めちゃくちゃ似合ってるよ!
晴人くん細身で身長も高いから、モデルさんみたい!」
「本当?」
「本当だって、
もう、晴人くんの前で嘘をついたりしないから」
お世辞でも彼女の言葉が嬉しかった。
そのまま、手を引かれ美容院に連れて行かれた。
「オーナーさん、こんにちは!」
明里ちゃんが明るく挨拶をする。
「あら、明里ちゃん……もしかして、彼氏さん?」
「えっ、そう見えます?」
彼女は本当に嬉しそうだった。
気さくで誰にでも分け隔てなく接している。
例え演技だとしても、どこか明里ちゃんに惹かれてしまう自分がいる。
オーナーと呼ばれた女性が手際よく僕の髪をカットしていく。
「お兄さん。
髪を整えたらめっちゃかっこよくなると思うよ!」
「えっ、本当ですか?」
かっこいいなんて単語、生まれて初めて言われた。
「明里ちゃんはキミの輝きに気づいていたのかもね」
「そんなことありませんよ……そんなこと……」
僕らの会話は、明里ちゃんまでは聞こえない。
鏡に映る彼女は待機スペースで雑誌を読んでいた。
「オーナーさん……」
「ん、どうしたの?」
「恋愛ってお金が大事だと思います?」
「どうしたの、突然?」
「いえ……」
初対面の人にするような質問じゃなかったよな。
「うーん。若者が気にするようなことでもない気がするけど。ま、お金も大事だよね」
「そうですよね……」
「でも、一番は、愛もお金もバランスが大事だよ。
恋愛って多面的なものだから、何か一つの要素で決まることはないじゃないかな」
「総合力ってことですね」
「うんうん。
ちなみに、明里ちゃんのこと?」
「いえ、そういうわけではないんですけど」
なんとか濁したけど、オーナーさんは詳しく話を聞きたいのか、うずうずしていた。
オーナーさんの言う通りかもしれない。
お金以外の魅力を磨かないと、
僕は永遠に不安に苛まれるのかも。
「はい、できたよ!」
黒のマッシュヘアーをワックスで整えられていた。
すごい……まるで、自分じゃないみたいだ。
イケメンってほどではないが、見れなくはない見た目だな。
「うん、決まったね!
ほら、明里ちゃんにも見てもらいな」
僕は、少し気恥ずかしくなりながらも、彼女の前に立った。
「わー! 晴人くん!
めちゃくちゃかっこいい!」
「いや、そうかな?」
悪い気はしなかった。
彼女は僕の代わりにお会計まで支払ってくれた。
二人で店を出てとぼとぼ歩く。
「明里ちゃん、ありがとう」
「ううん。私が言い出したことだし。
でも、今日は誘ってくれてありがとう。
服をコーディネートしてほしいって、もしかして……私に謝る機会をくれたの?」
「いや……今度、合コン行くからさ」
僕の言葉に彼女の白い肌が一層、青白くなる。
「えっ……合コン?」
「うん。初めてだからさ、服選びとか分かんなくて」
「そうなんだ……いや、そうだよね……
期待した私がバカだった」
明里ちゃんの目がまた潤んできた。
「じゃあね。楽しかった……ばいばい」
僕の返事を待たずして彼女はそのまま、小走りに去っていった。




