↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10億当選したらモテ期到来!……かと思われたが、美少女たちがなぜか曇りだした  作者: 那須 儒一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/19

第15話 薄氷を踏む

酒の匂いと煙草の匂いが薄暗い部屋に溶けていた。


微睡む視界の中、軽く部屋を見渡した。


姉ちゃんはベッドの上でいびきをかき、

佐々木《ささき》さんはカーペットの上でお腹を掻きながら眠っている。


「晴人くん……起きてる?」


「……寝てる」


「もう……起きてるじゃん」


隣で寝ていた明里《あかり》ちゃんがうっすらと目を開ける。


「なんか、二ヶ月前の私なら、晴人くんとこうして隣同士で寝ているなんて想像できなかったよ」


すぐに返答はできなかった。

乾いた唇を舌でなぞり、軽く潤す。


「僕もだよ……」


明里ちゃんを完全に許したといえば嘘になる。


どれだけ彼女と笑い合っても、

このわだかまりを解くには時間がかかりそうだ。


一方で明里ちゃんのことを忘れられない自分もいた。


奏ちゃんともしっかりと向き合えていないし、

……一番の悪は僕なのかもしれない。


僕さえいなければ……彼女たちが悲しむこともなかった。


この先も僕らは互いに交わらない。


それでも手を伸ばせば彼女に触れられる距離に彼女がいることが何だか不思議だった。


投げ出されていた明里ちゃんの手の上に自分の手を重ねる。


「晴人くん……ダメだよ……」


「ダメって?」


「これ以上は、自分を抑えられなくなるから……」

明里ちゃんの手はひんやりと冷たかった。


冷房のせいだと分かっていても、冷たくなっていた彼女の手をすぐには離せなかった。


「ごめん……」


僕はそっと手を引っ込めた。


「晴人くん……なんで、奏《かなで》ちゃんのこと、振ったの?」


なんだ、もうその話が回っているのか。


「振ってなんかいないよ……ただ、奏ちゃんも宝くじのこと知っているかもと思うと……」


「私、話してないよっ!」


食い気味に明里ちゃんは声を上げる。


「ちょ、みんな起きちゃうから……」


「ごめん……でも……そうだよね。

今さら私の言葉なんて信用できないよね」


「それは……」


「それなら、紗奈《さな》とはお似合いじゃん……紗奈も満更でもなさそうだし、紗奈は10億のことを知っても変わらなかったよ」


「明里ちゃん……」


「それに、奏《かなで》ちゃんはそんな人じゃないし……」


「明里ちゃん」


「なら、お姉さんでも……」


「明里ちゃんっ!」


僕の声に彼女はビクッと身体を震わせる。


「どうして、そんなに誰かとくっつけたがるの?」


「う……ううっ……ごめんなさい……」


明里ちゃんはまた泣き出した。


彼女の頬を伝う涙をそっと指で拭う。


「大丈夫。

怒ってないから、理由を教えてよ」


「晴人くんに彼女ができれば……諦めがつくと思って……」


「なんだ……それで……」


だからって姉ちゃんはないだろ。

笑いたくなる気持ちをぐっと堪えた。


「私ってやっぱり自分勝手だよね」


「……」


「……否定してくれないんだね」


「明里ちゃんを甘やかさないって決めたから」


「厳しいね……」


自分でもどうしてこんなことをしたのか分からなかった。


気づけば彼女に唇を重ねていた。

明里ちゃんの唇もかすかに動き、互いの温度を確かめ合った。


僕は悪い男だ。

この優柔不断さがみんなを曇らせている。


それが分かっていても、目の前で泣いている彼女を放ってはおけなかった。


彼女との初めてのキスは少し塩っぱかった。


✾


「ふぁー!」


佐々木さんの大きな欠伸で目が覚めた。


うっ……


目の前に明里ちゃんの寝顔があった。

彼女の息が顔にかかる。


僕はバレないようにこっそり距離を置いた。


「んんー、よく寝たぜ」


姉ちゃんも続けて背伸びをする。


「てか、晴人のお姉さんのイビキのせいで全然眠れなかったんだけど……」


「はっ、この立てば芍薬、座れば牡丹の私がイビキなんてかくわけないじゃない!」


「いや、うるさかったよな?」


佐々木さんがこっちに水を向ける。


「え……あ、うん」


「なんだよ。歯切れが悪いな。

姉だからって、ひいきするのか?」


僕の頭は明里ちゃんとのキスでいっぱいだった。


「ん……晴人くん……そんなに激しくしちゃ……ダメだよ……」


素敵な夢を見てそうな明里ちゃんの口元から涎が垂れていた。


普段の清楚はどこへいったのやら。


一瞬、佐々木さんと姉ちゃんの視線が交わった。


「「せいっ!」」


二人は容赦なく、明里ちゃんの顔にチョップを振り下ろす。


「ふぎゃっ!」


猫みたいな奇声を上げて明里ちゃんが飛び起きた。


「ちょっと、な、何するのよ……」


「なんか、ムカついた」


佐々木さんの言葉に姉はオーバーに首を縦に振る。


「なんでよ。寝てただけじゃない」


一瞬、明里ちゃんと目が合った。


つい、彼女の艶やかな唇に目がいく。


僕らは互いに顔を伏せた。


やばい、火が出そうなくらい、頬が熱い。


たぶん、明里ちゃんも同じ気持ちなんだろう。


「紗奈ちゃん」


「お姉さん」


姉ちゃんの呼びかけに佐々木さんが呼応する。


「きゃ、ちょっと、やめてください……」


二人は突然、明里ちゃんに飛び掛かった。


「や、やめ……あはははは……くすぐったい……たしゅけて……」


二人にくすぐられながら、明里ちゃんが悶絶する。


「ふっ……」


彼女の伸ばした手を見て、僕は何故か笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。