第14話 料理対決
ひとまずは落ち着き四人で丸テーブルを囲んだ。
なぜか、女性陣は互いに牽制し合うかのように睨みを利かせていた。
「《《これ》》は、僕の姉の理沙です」
「ちょっと、晴くん! 物扱いは酷くない?」
「姉ちゃん、二人とも僕の大切な友達なんだ。
失礼を働いたら絶交だからね」
「そ、そんなぁ……わかったわよ。
さっきは初対面で絡んですみませんでした」
姉ちゃんはようやく頭を下げた。
「私の方こそ、土井って二人とも土井さんか。その……晴人のお姉さんに失礼なことをしてごめん」
「私もごめんなさい」
明里ちゃんも佐々木さんとともに頭を下げた。
「それで、姉ちゃんは何の用なの?」
「何の用って……用がないと来ちゃダメなのか?」
「ダメじゃないけど……」
「晴くん……大学に通いだして、ほとんど実家に帰って来ないし、連絡も返さないし」
この姉は、いつまで弟離れできないんだよ。
「晴人くん。お姉さんは大切にしてあげなきゃだめだよ」
なぜか明里ちゃんに怒られてしまった。
「二人は血が繋がってないってのは、
義理の姉弟なの?」
佐々木さんは踏み込んだ質問をする。
「僕は元々、里子だったんだ。
それで、姉ちゃんの家に引き取られたから」
「そう、だから結婚できるの!」
「姉ちゃんは黙っててくれ。話がややこしくなるから」
「確かに、お二人は全然似てないですもんね」
明里ちゃんがふっと笑みをこぼす。
「性格も真反対というか……他に類を見ないお姉さんというか」
佐々木さん、それ普通にディスってないか?
「違うからこそ、私たちは互いに惹かれ合うの!」
姉ちゃんが仰々しく手を広げる。
「片想いの一方通行だけどな」
「もう、晴くんってばいけずなんだから」
「とりあえず姉ちゃんはいいや。
二人は今日は遊びに来たってこと?」
「うん。私、紗奈がどうしてもって……」
「明里ちゃんは、嫌々だったの?」
「そんなことない!」
突然、明里ちゃんが声を張る。
「ごめん。今のは僕が意地悪だった」
「ま、まあまあ、せっかくだから晴人に手料理を振る舞おうって私から押したんだよ」
佐々木さんが慌てて間に入る。
確かに、玄関に食材が入った袋が置かれていた。
「それなら、誰が晴くんの胃袋を掴むか料理対決ね!」
姉ちゃんが拳を掲げ立ち上がる。
「へぇ、面白そうじゃん!」
なぜか佐々木さんも乗り気だ。
「わ、私だって負けないから!」
明里ちゃんまで……
佐々木さんと明里ちゃんは持参したエプロンを着け始めた。
姉ちゃんもなぜか鞄からエプロンを取り出す。
「なんで、姉ちゃんも持ってんだよ」
「ふふふ、この時を待っていたわ」
姉ちゃんがなぜか黒いカーディガンを脱ぎ始めた。
「ちょ、姉ちゃんなんで脱ごうとしてんだよ」
「だって、春くん裸エプロン好きなんでしょ?」
「いつ、誰がそんなこと言ったんだよ」
「だって、実家にいた時、春くんのベッドの下の本に――もがっ!?」
「わー! それ以上は言うな!」
慌て姉の口を塞ぐ。
「晴人くんがそういうのが好きなら……」
明里ちゃんがワンピを脱ごうと空色のスカートに手をかける。
「こら、明里! やめなさいっての!」
慌てて佐々木さんが明里ちゃんを羽交い締めにする。
「離して、紗奈! 私にはこれしかないの……」
「早まるな、明里!」
なんなんだよ、この茶番は。
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何だかんだ、三人はエプロンを通常通り着けて、料理を始めた。
姉ちゃんは食材を買うとかで一度外に出ていったけど。
「晴人の姉ちゃん……強烈だな」
佐々木さんが包丁で食材を切りながら、こちらに話しかけてくる。
「返す言葉もないよ」
「でも、確かに晴人くんって、弟感が強いもんね。なんか、納得いっちゃった」
明里ちゃんの言う通りかもしれない。
僕はいつも姉ちゃんや、その親友の高宮さんに囲まれて育ってきた。
実の両親の顔は知らない。
僕の家族は里親の二人と姉ちゃんだ。
里親は大学にまで行かせる義務はない。
それでも、僕の父さんと母さんは快く大学の費用まで出してくれた。
10億が手に入った時、二人にお金を返そうとしたが、突き返されてしまった。
大学は実家からも近いんだけど、僕が一人暮らしをしているのには姉ちゃんが原因だ。
両親は姉ちゃんを弟離れさせるべく、僕に一人暮らしをして欲しかったらしい。
まったく、困った姉だよ。
佐々木さんと明里ちゃんが料理を作り終える頃、
姉ちゃんが慌てて帰ってきて、台所に立った。
「それじゃあ私から出すね!」
明里ちゃんはお皿を机の上に置く。
「これ……カレイの煮付け?」
「うん、そうだよ」
「すごい……料亭レベルなんだけど……」
甘い香りに包まれた湯気に、黄金に輝くカレイ。
飾り包丁の入った生姜。
食べなくてもわかる。これは絶対に美味いやつだ。
「晴人くん、私が食べさせてあげる」
明里ちゃんが箸で器用に身を裂き、僕の口に運ぶ。
「はい、あーん!」
「あーん!」
僕も思わず乗せられて、口先に運ばれたカレイの身を食べる。
「ん! 美味い!」
ほくほくの身に、いい塩梅の甘さ。
本当に10億円のことがなければ明里ちゃんは完璧な女性だ。
「ふっ」
明里ちゃんは勝ち誇ったように二人を一瞥する。
「くっ……次は私の番だ!」
佐々木さんが、僕の目の前に大皿がドンと置かれた。
見たらわかる……焼きそばだ。
やたらと大きいキャベツと人参がゴロゴロ入っている。
なんというか、男飯みたいだな。
「……どうした、食べないのか?」
佐々木さんが不安そうに僕を見ている。
「佐々木さんが食べさせてくれないの?」
「な、なんで私がそんなこと……」
「そこも料理対決の評価に関わるけどいいの?」
「ああもう、わかったわよ! ほら!」
佐々木さんは雑に箸で焼きそばを掴むと、照れくさそうに僕の口に運んだ。
……うん。硬い。
口に入れた瞬間、火の通りきっていない人参の洗礼を受ける。
キャベツもほぼ生だ……食べられなくはないが、美味しいかと言われると微妙だ。
「晴人……どうだ?」
「……うん、食べれなくはないかな」
「なんだと」
佐々木さんは拳を握りしめていた。
これは、対決なんだ。
佐々木さんには悪いがシビアにいかないと。
「さあ、残すは大トリね!」
「それ、自分で言うのか……」
「「えっ!」」
姉が置いた皿を見て、全員が声を上げる。
なんというか、一目瞭然だ。
輝くネタに白く光る銀のシャリ。
寿司桶がドンと置かれた。
「これ……なに?」
「何って、晴くんが好きな“菅田鮨”のお寿司だよ!」
「ちょっと、それは反則です!」
明里ちゃんが真っ先に声を上げる。
「何よ、手抜き料理だっていいたいの?
美味けりゃなんでもいいのよ!」
「手抜きもなにも姉ちゃんは作ってないじゃん!」
「晴人のお姉さん……無茶苦茶だな」
あの佐々木さんでさえ引いている。
結局、料理対決はうやむやになり、全員で食卓を囲む。
「私は焼きそば食べるから……」
佐々木さんは俯き、大皿に手を掛ける。
僕はその手を払い除けた。
「何言ってんだよ。せっかく僕のために作ってくれたんだ。僕が食べる」
「晴人……無理しなくていいって……」
お皿を掴む佐々木さんの手が震えていた。
「佐々木さん、それなら食べさせてよ。
佐々木さんが食べさせてくれたら何倍も美味しいから」
「晴人……お前、よくもまあそんな……」
佐々木さんは目尻を擦りながら、焼きそばを食べさせてくれた。
「うん。やっぱり微妙だ」
「うっせぇ……」
僕の横腹を佐々木さんが軽く小突く。
うっ……
明里ちゃんと姉ちゃんが、ものすごい冷たい視線で睨んでいる。
佐々木さんは気づいてないみたいだけど……
僕は二人とは目を合わせないようにして、焼きそばだけに集中した。




