第8話:おばあちゃん、若者の「恋愛相談」を異次元の方向に解決する
1.ため息の止まらない剣士
農園の野菜で街中がお腹いっぱいになった数日後。ギルドの片隅で、一人の若手冒険者がテーブルに突っ伏して、深いため息をついていました。
「はぁ……。僕なんかじゃ、やっぱり無理なのかな……」
「あらあら、まあ。若い人がそんなに暗い顔をして。湿気が溜まってしまいますよ」
私がそっと隣に座ると、彼は顔を上げました。名はカイル。最近リタさんの後輩として入ってきた、真面目だけが取り柄のような駆け出しの剣士です。
「キヨさん……。実は、幼馴染の彼女に告白したいんですけど、勇気が出なくて。彼女、最近すごく強くなっちゃって、僕みたいな平凡な男じゃ釣り合わない気がするんです」
「まあ、素敵な悩みですねぇ。恋愛は心の栄養ですよ。……でもカイルさん、『釣り合い』なんて鍋の蓋を探すようなものです。ぴったり合うものは、自分で叩いて作るものですよ」
「……鍋の蓋?」
カイルがポカンとしている間に、私はリタさんを呼び寄せました。
「リタさん、ちょっとカイルさんの『特訓』に付き合ってあげてくださる?」
「特訓? いいけど、私の特訓は厳しいわよ? ……って、キヨ、その手に持ってる物騒なものは何?」
私がカ割り出したのは、農園で採れた『伝説の極太ゴボウ(硬度:オリハルコン)』でした。
2.「おばあちゃんの知恵袋(縁結び編)」
「カイルさん、いいですか。男の自信は『手料理』と『粘り強さ』から来ます。まずはこのゴボウを、素手でささがきにしましょう」
「は!? ゴボウで特訓!? しかもこれ、鉄より硬いんですけど!」
「何言ってるのよカイル! キヨの言うことは絶対なんだから、やりなさい!」
リタさんに(飴のバフがかかった腕力で)押さえつけられ、カイルは涙目になりながらゴボウのささがきを開始しました。
おばあちゃんの指導は丁寧です。
「腰を入れて、包丁(の代わりの短剣)を寝かせて……。そう、愛を込めて。彼女の笑顔を思い浮かべながら、ひたすら削るのです」
【スキル:おばあちゃんの知恵袋(花嫁修業・男版)が発動】
【カイルの『器用さ』が限界突破しました】
【称号:『ゴボウを極めし者』を獲得】
三時間後。カイルの目の前には、芸術品のような細かさのゴボウの山と、信じられないほど研ぎ澄まされた彼の集中力がありました。
「……なんだか、不思議だ。ゴボウと向き合っていたら、ドラゴンなんてちっぽけな存在に思えてきた。僕なら、何でも斬れる……いや、削れる気がする!」
「その意気ですよ。さあ、次は彼女を誘って『きんぴらゴボウ』を作りましょう」
3.告白の戦場
カイルは、意中の彼女――今や街でも指折りの魔法使いとなったミラを呼び出しました。
場所は、夕焼けの見える私の農園。
「カイル、話って何? ……って、何そのゴボウの山。あと、なんで後ろに銀髪の幼女と黄金の巨犬、それに暗黒龍が控えてるの?」
「ミラ……聞いてくれ。僕は君に相応しい男になりたくて、キヨさんの元で修行したんだ!」
カイルは、おばあちゃんから伝授された「秘伝のタレ」を取り出し、その場で手際よくゴボウを炒め始めました。
香ばしい醤油と砂糖の匂いが、あたり一面に広がります。
「これ……すごく美味しい。カイル、あなたが作ったの?」
「ああ。キヨさんは言ったんだ。釣り合いなんて関係ない、二人で美味しいものを食べれば、それが一番の幸せだって。……ミラ、僕とこれからも一緒に、ご飯を食べてくれないか!」
あまりにも素朴で、けれど力強い告白。
ミラは頬を真っ赤に染め、俯きました。
「……バカね。料理ができなくたって、私はずっと待ってたのに。……でも、このきんぴら、世界で一番おいしいわ」
二人が手を取り合った瞬間、私の後ろでポチが「ワォーン!」と祝福の遠吠えを上げました。クロも機嫌よさそうにゴロゴロと鳴いています。
4.掲示板の伝説:縁結び編
【エタファン攻略スレ 007】
330:名無しのアタッカー
悲報。ギルドの有望株カイルが、ゴボウ一本でSランク冒険者にプロポーズ成功。
331:名無しの大魔道士
ゴボウでプロポーズ? 意味がわからん。
332:名無しの密偵
現場を見てたけど、カイルの剣筋が「ささがき」の動きを取り入れた結果、神速の十連撃になってたぞ。
プロポーズの返事を貰った瞬間、カイルのレベルが30上がった。
333:名無しの聖職者
「おばあちゃんに相談すれば恋が叶う」っていう噂が広まって、今、ギルドの掲示板が恋愛相談で埋め尽くされてる。
334:名無しのアタッカー
ゴボウ(最強の恋の触媒)
335:運営からの緊急通知(公式)
【お知らせ】ゲームバランス維持のため、「おばあちゃんの知恵袋」によるカップル成立時の経験値ボーナスに制限をかけようとしましたが、システムが「お祝い事に水を差すな」と反抗して修正できませんでした。
「ふふ、お若いお二人はいいですねぇ、リタさん」
「……キヨ。あんた、いつかこの世界中の独身者を全員結婚させちゃうんじゃない?」
リタさんは少し羨ましそうにカイルたちを見つめてから、私をジト目で見てきました。
「ところで、私の『釣り合う蓋』はどこにあるのかしらね?」
「あらあら、リタさんはもう、私という鍋の大事な蓋ですよ」
「……っ! もう、あんたはさらっとそういうこと言うんだから!」
顔を赤くしてそっぽを向くリタさんの手を引きながら、私は今日も平和な夕暮れを楽しみました。
銀髪の少女(魂は100歳)の恋愛相談は、今日も世界を少しだけ甘く、そして胃もたれするほど幸せにしていくのでした。




