第7話:おばあちゃん、物価高騰を「家庭菜園」で解決する
1.市場の悲鳴と、高すぎる大根
ダンジョン掃除を終えて街に戻った私たちは、妙に活気のない市場にたどり着きました。
いつもなら威勢のいい声が響く八百屋の店先で、主婦たちが険しい顔をして話し込んでいます。
「ちょっと、リタさん。なんだか皆さん、浮かない顔をしていますねぇ」
「……ああ、最近『食糧危機』のイベントが始まっちゃったのよ。魔物の活性化で街道が封鎖されて、物流が止まってるらしいわ。おかげで野菜の値段が三倍よ」
リタさんが指差した先には、一本の細びた大根。その値札には、驚くような金額が書かれていました。
「まあ! 大根一本で銀貨十枚!? 詐欺ですよ、これは。……こんなことでは、今夜のけんちん汁が作れませんねぇ」
私は割烹着の袖をまくり上げ、キッとした目で街の外を見つめました。
「リタさん、ポチ。……こうなったら、自分たちで作るしかありません」
「えっ、作るって……今から!? 野菜って育つのに数ヶ月はかかるわよ!?」
「いいえ、おばあちゃんの知恵を借りれば、案外なんとかなるものですよ」
2.「おばあちゃんの知恵袋(開墾編)」
私たちは、街のすぐ外にある、岩だらけで誰も使っていない荒れ地へとやってきました。
本来、ここは植物の成長を阻害する『死の魔力』が溜まった不毛の地として知られています。
「さあ、ポチ。出番ですよ。まずは土を柔らかくしましょうね」
「ハフッ!」
黄金の巨犬ポチが、前足で大地をザクザクと掘り返し始めました。ただの穴掘りに見えますが、彼が通った後の土は、黄金の輝きを放つ「究極の腐葉土」へと一瞬で書き換えられていきます。
「次は種まきですねぇ。……リタさん、その辺に落ちている『魔石の破片』を集めてくださる?」
「えっ、魔石? これを種にするの……?」
「いいえ、これは『肥料』です。これをお水に溶かして……『痛いの痛いの、飛んでけ〜』」
私は、道端の石ころ(高純度魔力石)を素手で粉々に砕くと、じょうろの水に混ぜて大地に撒きました。
【ユニークスキル:おばあちゃんの知恵袋(家庭菜園)が発動】
【不毛の地を『神域の農園』に変換しました】
【植物の成長速度を10,000倍に加速します】
「あらあら、芽が出てきましたよ」
私が歌を口ずさみながら地面を撫でると、ポコポコと緑の芽が噴き出し、見る間に太い茎となり、大きな葉を広げました。
そこには、大根、人参、里芋、そしてなぜか食べるとMPが全回復する「伝説のトウモロコシ」が、たわわに実っていました。
3.無料配布と、商魂の敗北
「おーい、皆さん! お野菜が採れましたよ! 好きなだけ持っていってくださいな!」
私が農園の入り口で声をかけると、街の人々が半信半疑で集まってきました。
「な、なんだこの大根……。持っただけで体力が回復していくぞ!?」
「この人参、齧ったら長年の腰痛が治ったんだが……」
「あらあら、それは良かった。リタさん、袋詰めを手伝ってくださいな」
「ちょっと、キヨ! これ、一本で金貨数枚の価値がある『霊薬』級の野菜よ!? それをタダで配るなんて……ああっ、もう、いいわよ! 配ればいいんでしょ配れば!」
リタさんは、もはや自分の常識をゴミ箱に捨て、最強のバフがかかった腕力でテキパキと野菜を配り始めました。
そこへ、物価を吊り上げて私腹を肥やしていた「悪徳商人」たちが、護衛の傭兵を連れて乗り込んできました。
「おい! 勝手な真似をするな! 市場価格を崩す奴は……ひっ!?」
商人が言葉を詰まらせたのは、私の足元で「ニャー」と鳴いているクロ(暗黒龍)と、背後に控えるポチが、そっと彼らを「威圧」したからです。
「あら、商人さん。高血圧な顔をしていますね。このトマトを食べて、少し頭を冷やしなさい」
私は真っ赤に熟した「万能薬トマト」を商人の口に突っ込みました。
トマトを食べた商人は、そのあまりの美味しさと、自分の中の「良心」が強制的に呼び覚まされる感覚に、その場に泣き崩れました。
「……私は、なんて浅ましいことを。明日から、うちの倉庫にある食糧もすべて原価で放出します……っ!」
「ふふ、いい子ですねぇ。分け合えば、お腹も心もいっぱいになりますよ」
4.掲示板の伝説:農園編
【エタファン攻略スレ 006】
102:名無しのアタッカー
速報。食糧危機イベント、強制終了。
103:名無しの大魔道士
は? まだ始まって三日だぞ。
104:名無しのアタッカー
街の外に「伝説の農園」が出現した。
そこで配られてる大根を食べた戦士たちが、全員レベル上限を突破(限界突破)しちまって、街道の魔物を一瞬で駆逐しちゃったんだよ。
105:名無しの商人
ギルドの依頼板から『食糧調達』が全部消えて、代わりに『キヨちゃんの野菜を使ったレシピ募集』が並んでる……。
106:名無しのアタッカー
大根(Lvアップ確定アイテム)
107:名無しの聖職者
しかも、悪徳商人が改心して、今は農園の「草むしり係」を志願してるらしいぞ。
「キヨ様の野菜を育てることこそが私の生き甲斐だ」って……。
夕暮れ時、私たちは収穫したばかりの野菜で、特大の「けんちん汁」を作りました。
リタさんも、ポチも、クロも、そして街の人たちも。みんなで囲む食卓は、どんな豪華な晩餐会よりも温かいものでした。
「リタさん、やっぱり自分たちで作ったものは美味しいですねぇ」
「……そうね。でもキヨ、あんたが育てると『野菜』っていうより『神の恵み』になっちゃうのよ」
リタさんはお代わりを三杯食べながら、幸せそうに笑いました。
銀髪の少女(中身は100歳)の家庭菜園は、今日も世界を平和に、そして満腹にしていくのでした。




