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第6話:おばあちゃん、禁断のダンジョンを「物置の整理」感覚で掃除する

1.埃っぽい「地下室」

 

王都から戻った私たちは、リタさんの提案で少し離れた「古の遺跡」へとやってきていました。

 

リタさんとしては、私が王都で注目されすぎたため、少し静かな場所でレベル上げ(のフリ)をして、騒ぎが収まるのを待とうという魂胆だったようです。

 

「……ねぇキヨ。ここ、『奈落の墓所』って呼ばれてる最古のダンジョンなんだけど、本当に大丈夫?」

 

リタさんは、入り口の禍々しい石造りの門を見上げて、剣の柄を握り直しました。

 

そこからは、ひんやりとした死の臭いと、千年以上放置されたであろう湿った空気が漏れ出しています。

 

「あらあら、まあ。……リタさん、ここはだいぶ手入れが行き届いていませんね。空気が淀んでいますよ」

 

私は、鼻を小さく鳴らして首を振りました。 

 

私の目には、そこは「恐ろしい迷宮」ではなく、何代も放置されて埃が積もった「近所の古い蔵」のように映っていました。

 

「こんなに埃っぽくちゃ、喉を痛めてしまいます。リタさん、ポチ、クロ。今日はお掃除の日ですよ!」

 

「えっ、掃除!? ちょ、キヨ、ここにはアンデッドとか、呪いの魔像とか――」

 

「はい、これを使ってくださいね」

 

私は割烹着のポケットから、リタさんに一枚の「布」を渡しました。

 

それは、初期装備の『布の服』を裂いて、ポチの換毛期に抜けた黄金の毛を編み込んだ、自作の『多目的雑巾(アーティファクト級)』でした。

 

「これを口に巻けば、埃も吸いません。さあ、行きましょう」

 

私は愛用の竹箒たけほうきを手に、ずいずいと暗い階段を降りていきました。

 

2.「ハタキ」一振りで消える呪い

 

地下に降りると、そこには無数のガイコツ剣士スケルトンが、カタカタと骨を鳴らして待ち構えていました。

 

本来なら、聖職者の高位魔法でなければ倒せない不死の軍勢です。

 

「おや、あんなところに置きっぱなしにして……。片付けができない子はダメですよ」

 

私は、手に持っていたハタキ(のように見えるが、実は聖なる属性を極限まで付与した自作の掃除道具)を、パシッ、パシッ、と空中に振るいました。

 

【スキル:おばあちゃんの知恵袋(換気)が発動】

【浄化の風がダンジョン内を駆け抜けます】

 

「ギャアアアッ!?」

 

「浄化……される……っ!」

 

ガイコツたちは、私のハタキが起こした微風に触れた瞬間、真っ白な光となって昇天していきました。


それは「攻撃」ではなく、汚れを落とすような「清掃」の結果でした。

 

「リタさん、そこの壁の蜘蛛の巣も取ってくださいな。あら、そこの銅像……動いちゃダメですよ。埃が舞うでしょう?」

 

「……ギギッ!? 我は……古の守護像……ゴレ、ム……」

 

巨大な石像ガーディアンが拳を振り上げましたが、私はその足元を箒でサッサと掃きました。

 

「ほら、足の裏に泥がついていますよ。玄関に入る時は足を拭くのが常識です。……はい、綺麗になりました」

 

【スキル:おばあちゃんの知恵袋(拭き掃除)】

【対象の『物理防御』を無視して『長年の汚れ(呪い)』を完全に除去しました】

 

「……心が……軽い。我、もう戦うの疲れた……。これからは、ただの石像として、ここで皆を……見守る……」

 

最強の守護像が、ただの「感じの良いオブジェ」へと無力化されました。

 

リタさんは、渡された雑巾で壁を拭きながら、もはやツッコミを入れる気力も失っていました。


なぜなら、自分が雑巾で壁を拭くたびに、壁に刻まれた古代の呪文が「ピカピカの黄金」に変わり、ダンジョン全体の攻略度が凄まじい勢いで上昇していたからです。

 

3.最深部のお宝整理

 

ダンジョンの最深部には、千年の眠りから覚めた『冥王ハデス』が、漆黒の玉座に座っていました。

 

彼は、自分の領域に近づく生きた気配を感じ、死の鎌を手に立ち上がりました。

 

「我が眠りを妨げる愚かな人間よ……。死の洗礼を受けるがよ――」

 

「あら、ようやく一番奥ね。……まあ、ここは特に散らかっていますねぇ」

 

私は冥王の言葉を完全に無視して、彼の周りに散乱している金銀財宝や、転がっている髑髏どくろをテキパキと仕分け始めました。

 

「ちょっと! お前、何をしている!? 我の威圧が効かぬのか!? こら、そこにある『魂を吸う杯』を勝手にゴミ箱に入れるな!」

 

「こんな物騒なものは危ないですよ。……ポチ、クロ、重たいものは端っこに寄せてちょうだい」

 

「ハフッ!」

 

「ニャー」

 

黄金の犬と黒猫(龍)が、冥王の宝物を次々と壁際に整列させていきます。

 

冥王は、自分の最強の眷属たちが、少女に顎で使われている光景を見て、呆然と鎌を落としました。

 

「あ……あの……我の、立場は……」

 

「王様(冥王)も、こんなに暗いところで座りっぱなしじゃ体に毒ですよ。ほら、窓を開けて……あ、地下だから窓がないわね。リタさん、少し壁を壊して風を通しましょうか?」

 

「キヨ! さすがにそれは物理的にマズイわよ!」

 

結局、冥王はキヨさんに「お掃除のお手伝い」をさせられた挙げ句、手作りの「おはぎ」を振る舞われ、最後には「今度は遊びに来なさいね」と優しく諭されて、すっかり「気のいい近所のおじいさん」のような性格に矯正されてしまいました。

 

4.掲示板の伝説:お掃除編

 

【エタファン攻略スレ 005】

 

880:名無しのアタッカー

緊急速報。最難関ダンジョン『奈落の墓所』の攻略完了アナウンス。

ただし、内容がおかしい。

 

881:名無しの大魔道士

何がおかしいんだよ。

 

882:名無しのアタッカー

攻略報酬の欄に「ダンジョンの美化に貢献したため、特別清掃員に任命されました」って出てる。

あと、今あそこに行くと、アンデッドじゃなくて「花」と「いい匂いのするお香」で溢れてるらしい。

 

883:名無しの聖職者

目撃した奴がいる。

銀髪のロリが、冥王の頭をパシパシ叩きながら「片付けなさい!」って叱ってたって。

 

884:名無しの大魔道士

冥王(叱られ役)

 

885:名無しの商人

キヨちゃんがダンジョンから持ち出してきた「ゴミ」の中に、失われた古代魔法の原典が混ざってたぞ。

彼女、「古新聞かと思った」って言って、ギルドの焚き火にくべようとしてた……。

 

「ふぅ、すっきりしましたねぇ。やっぱりお掃除はいいものです」

 

私は、ピカピカになったダンジョンの入り口で、満足そうに腰に手を当てました。

 

リタさんは、なぜか手に入れた『伝説の聖剣(お掃除のご褒美)』を杖代わりに、フラフラになりながら呟きました。

 

「……もう、どこへ行っても、あんたがいればそこが『平和な茶の間』になっちゃうのね……」

 

「あら、世界中が茶の間になれば、戦争なんて起きなくていいでしょう?」

 

銀髪の少女(100歳)は、今日も世界を優しく、そして徹底的に「お洗濯」していくのでした。

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