第5話:おばあちゃん、王様からの招待状を「回覧板」だと思い込む
1.豪華すぎる「お知らせ」
暗黒龍(現在は可愛い黒猫・クロ)を連れてギルドに戻ってから数日。
私とリタさんは、街外れの小さな空き家に腰を落ち着けていました。空き家といっても、ポチが庭を整え、私が『おばあちゃんの知恵袋』で磨き上げたおかげで、今や王宮よりも輝く「究極の癒やしスポット」と化しています。
「キヨ! 大変よ、大変なことが起きたわ!」
リタさんが、顔を真っ赤にして飛び込んできました。手には、金糸で縁取られ、仰々しい赤い蝋で封印された、いかにも高そうな革の筒が握られています。
「あらリタさん、おかえりなさい。そんなに急いで、転んだら危ないですよ。……おや、それは何かしら? 回覧板?」
「回覧板じゃないわよ! これ、この国の国王陛下からの『直接招待状』よ! 暗黒龍を退治……じゃない、手懐けたあんたに、直接お礼を言いたいんですって!」
リタさんはガタガタと震えながら、その手紙を広げました。
中には『国の守護者として、王城の晩餐会へ招待する』という、全プレイヤーが喉から手が出るほど欲しがるイベントの発生条件が記されていました。
「ばんさんかい? ……ああ、町内の親睦会のようなものですね。いいですよ、ちょうどお漬物がたくさん浸かったところですし、皆さんに配りに行きましょう」
「親睦会っていう規模じゃないし、お漬物を持っていくのはあんただけよ……」
リタさんは遠い目をしましたが、すでにおばあちゃんの決定には逆らえないことを悟っていました。
2.王城への「ご近所付き合い」
翌日。王都へと続く街道を、世にも奇妙な一行が進んでいました。
黄金の巨犬ポチの背に、割烹着姿の銀髪美少女と、お洒落をして落ち着かない赤髪の剣士。そして、キヨさんの膝の上には、機嫌よさそうに喉を鳴らす黒猫(暗黒龍クロ)。
王都の門に到着すると、そこには数百人の近衛騎士が整列し、仰々しいファンファーレが鳴り響きました。
「「「キヨ聖女様、御入城!!」」」
「あらあら、まあ。皆さんお揃いで、律儀なこと。こんにちは、ご苦労様です」
私はポチの背から降りると、整列している騎士一人一人に「お疲れ様」「風邪を引かないようにね」と声をかけながら、ポケットから飴ちゃん(魔力10倍バフ付き)を配り歩きました。
騎士たちは、幼い少女の放つ圧倒的な慈愛のオーラに当てられ、その場で次々と膝をつき、「おお……女神様……!」と涙を流して祈り始める始末です。
「リタさん、皆さんとても礼儀正しいわねぇ。最近の若い人は感心です」
「……これ、絶対『攻め込んできた』って勘違いされるレベルの制圧戦になってるわよ……」
リタさんは額を押さえながら、キヨさんの後ろをついていくしかありませんでした。
3.玉座の間での「お裾分け」
ついに、黄金に輝く玉座の間。
そこには、威厳に満ちた初老の国王陛下が、緊張した面持ちで座っていました。
「……よくぞ参った、伝説の聖女キヨ殿。そなたが、あの暗黒龍を鎮めたというのは――」
「王様、こんにちは。お招きありがとうございます。これ、つまらないものですが、どうぞ」
国王の言葉を遮り、私はずいずいと玉座まで歩み寄ると、風呂敷に包んでいたタッパーを差し出しました。
「な……っ、陛下に対して不敬だぞ!」
側近の魔術師が叫ぼうとしましたが、国王はそれを手で制しました。彼は、キヨさんの瞳の中に、無限の慈愛と「逆らってはいけない何か」を感じ取ったのです。
「……これは、何かな?」
「昨日、リタさんと一緒に漬けたキュウリの糠漬けです。ポチが耕した畑で採れたんですよ。少し酸っぱいかもしれませんが、体にいいですから」
国王は、おそるおそるキュウリを一口齧りました。
その瞬間、彼の脳裏に「幼い頃、母に抱かれた記憶」や「初めて大地を踏み締めた時の感動」が濁流のように流れ込みました。
【アイテム:おばあちゃんの糠漬け(至高)を摂取】
【国王の『心労』『加齢による衰え』『毒物耐性』が全快しました】
【国家バフ:『安寧の時代』が発動。国内の犯罪率が50%低下します】
「……う、美味い。なんという滋味深い味だ。これに比べれば、王宮の料理など砂を噛むようなもの……。キヨ殿、いや、キヨ先生! 我が国の国師になっていただけぬか!?」
「こくし? よく分かりませんけど、また美味しいお野菜ができたら持ってきますね。あ、リタさん、回覧板(招待状)はもうお返ししてもいいかしら?」
「ええ、もう好きにして……」
リタさんは、玉座の前で「お代わりはないか?」と目を輝かせる国王を見て、この国の未来が「おばあちゃんの手のひら」の上にあることを確信しました。
4.掲示板の伝説:国家編
【エタファン攻略スレ 004】
501:名無しのアタッカー
緊急事態。王都の騎士団が全員「キヨ様ファンクラブ」に入会した。
502:名無しの大魔道士
はぁ!? 何が起きたんだよ。
503:名無しの密偵
晩餐会の様子を遠くから見たが、王様が銀髪ロリに「キュウリをねだって」泣いてたぞ。
あと、国王のステータスが若返りすぎて、レベル上限を突破して『超・国王』になってた。
504:名無しのアタッカー
超・国王(原因:糠漬け)
505:名無しの聖職者
もうこのゲーム、攻略とかいらなくね?
キヨちゃんにお茶菓子持って挨拶しに行けば、世界平和になるだろこれ。
506:名無しの大魔道士
それが一番の「最高難易度」なんだよ。
彼女の隣には「黄金の巨犬」と「龍」と「覚醒した赤髪の剣士」がガードしてるんだからな。
王城からの帰り道。
私はポチの背中で、リタさんが買ってきたたい焼きを半分こしながら、夕焼けを眺めていました。
「リタさん、世界は広いけれど、どこへ行っても皆さんは優しいですねぇ」
「……キヨが優しすぎるから、みんな毒気を抜かれてるだけだと思うけどね」
リタさんは苦笑いしながら、自分のたい焼きを頬張りました。
100歳の魂を持つ少女は、今日も今日とて、仮想世界の常識を「優しさ」という名の暴力(?)で塗り替えていくのでした。




